雪誕2015「僕の女神」
7回目のコールでやっと出た雪は、面白がっているというよりも半ば呆れて古代の提案を聞いていた。
『あの人込みの中、見つけるって言うの?』
古代の指定した場所は、クリスマスシーズンは人でごった返すし、目印となるような大きなツリーが
いくつも飾られる予定なのだ。他の場所を指定してほしいと、最初雪は断るつもりでいた。
「見つけるさ。俺はあの時だって、君を見つけたんだ」
『じゃあ、古代君の提案に乗るわ。私は赤いマフラーを巻いていく。
古代君もクリスマスカラーを纏ってきたら?』
「俺は、別にいいよ。俺が君を見つけるから」
『私も古代君を探したいな。その方が面白いよ。あ、そろそろ仕事に戻るわね。それじゃ』
出張先の外国から、雪が戻るのが丁度その時刻なら、その場所で会えばいい。
彼女の誕生日には、多少無理をしてでも逢いに行きたい。

イルミネーションがチカチカと頭上を照らしているのを見上げながら、古代は通話を切った。
寒いとわかっていながらも、地上に出たくなるのは、少しでも彼女の存在を近く感じたかったからだ。
(雪がいる外国と、この空は繋がっている)
目を細めた古代の頬に、白くて冷たいものが触れて溶けた。
「雪だ……」
吐き出した息が白く、古代の言葉を包み込んだ。


TOKYO上空に白いものが舞う。窓の外はすでに暗く、エアポートから古代の待つステーションの広場まで
一時間はかかる。なんといっても今夜はクリスマスイブなのだ。
帰国一番、流行のコーヒースタンドで、この時期限定のコーヒーを頼みたかった雪だが、アロマ漂うスタンドの前を通り過ぎ、さっさとスカイチューブに乗り込んだ。

*****

「やばい」
見上げた時計は、二十時ちょうどをさしたところだ。
待ち合わせのステーション広場は、色とりどりのオーナメントで飾り付けられた巨大ツリーが入り口に設置され、
建物に続く通路の街路樹はイルミネーションで輝き、ステーション全体がクリスマスツリーのように鮮やかだった。
いつも五分前行動を信条にしている古代だが、人波にさらわれそうになりながら、ここに着いたのが、待ち合わせジャストの時間だった。
さっそく赤いマフラーの彼女を探すが、人目を引くほどの美貌の持ち主である雪でも、すぐに探し出すことは容易ではなかった。けれどそんな事は言ってられない。デブリの中で巡り会えた自分たちだから、どこにいても見つけられると、こんな待ち合わせ方を提案したのは自分の方なのだから。

そんな調子で、古代はあたりをきょろきょろと見渡していた。
広場の中央には、この季節だけ特別に屋内スケートリンクが設置されている。
恋人同士や、親子で手を繋ぎあって滑る姿が微笑ましく、古代の瞳に映っている。

と。

「な、なんで?」
赤いマフラーの彼女がリンクの真ん中で、男と手を握り合っていたのだ。
「なんだ! あの男! 雪にべったり纏わりつくな!」
周りの人が、古代の声に驚いて振り返っているが、古代はそんなことは気にしない。
大股でズンズン進み、その足で、氷の中に足を踏み入れようとして、リンク係員に注意を受ける。
「お客さん! 中に入るのなら、スケート靴をレンタルしてくださいよ。子どもだってちゃんと向こうで並んでますよ」
「あ。すみません」
子どもが不思議そうな顔を自分に向けているのを知って、古代は赤くなった。
「あれ? 古代のお兄ちゃん! こんばんは!」
その中の一人を見て、古代は、あっと声を上げた。
「次郎くん! 君も来てたのか? 島も来てるのかい?」
「うん! 大介兄ちゃんは情けないことに、滑れないんだよ。リンクの真ん中でさっきからなんども転んでるよ」
次郎の指さす先には、雪に抱きつこうとする島の姿があった。
「島!お前だったのか! おい! 雪から離れろっ!!」
再びリンク内に怒鳴り込もうとする古代を、次郎は押しとどめつつ、シューズレンタルのカウンターまで連れて行く。
リンクの周りをぐるりと一周し、受付場所まで到着する間も、古代の目は、リンクの真ん中でずっと抱き合っている(ように古代の目には映った)雪と島の姿を捉えつづけている。
古代の声に振り返った雪は、間の悪さに苦笑を顔に浮かべている。
「古代君、遅刻!」
「ああ、今からそっちに行くから、待ってろよ。島も逃げるんじゃないぞ」
「あー、はいはい。逃げたくても逃げられないんでね。悪いな」
島は悪びれもせずに、言いのけた。
「滑れないのに、次郎君にいい所を見せようと見栄を張るからよ」
雪は、そう言って、島の肩をぽんっと押してやる。
「お、おい、森くん! 俺を一人にするなよ!」
途端にバランスを崩し、転倒しそうになった島に、弟の次郎が小さな肩を差し出していた。
「兄ちゃん、マジでカッコワルいよ……」


次郎に続いて、古代もリンクの中に滑り出している。こちらは、そんなに下手ではないようだ。
最初の数歩は危ういものだったが、すぐに感を取り戻したように、行きたい方向にまっすぐ進むことが出来ている。
「あんな形で見つけるなんて、ロマンチックじゃないよね」
開口一番の雪の台詞に、古代は笑いながら答えた。
「いいんだって。どこにいても君を見つけるのが俺の使命なんだから」
「まあ、そういうことにしておきましょう」
「ホント。君が一番輝いていたから、すぐに見つけられたんだって。君は僕の女神……」
雪をリードして滑りたい、古代の気持ちは、足が縺れそうになることで空回りし始めた。
会話を楽しみながら上手にリードできなくて、つい足元に目が行きがちだ。
手を繋いだにも拘らず、彼女に引っ張られる事に抵抗を感じ、古代は彼女の手を離した。
見かねた雪が、お手本を示す。
「足だけ先に出そうとしたら、バランスを崩すわよ。一蹴りで流れるように、ほら、やってみて」
ここは素直に、彼女のアドバイス通りに足を運んでみる。
すると、リンクを二周する頃には、古代は雪から遅れることはなくなっていた。
「運動神経は良い方だからな。あと五分ほど練習すれば、君の手を引いて、もっと早く滑る事が出来るよ」
「負けず嫌いね」
「君には負けるよ」
二人は、時にじゃれ合い、時に意地を張りあいながら、スケートデートを楽しんだ。
「雪は、スケートの経験があるの?」
「記憶はないんだけど、体が覚えてるみたい」
「それじゃあ、今宵の俺は、女神のしもべとなって、君にどこまでもついて行こう」
古代は、雪に手を差し伸べた。
「たまにはそれもいいわね。では、あそこのスタンド・カフェで温かいドリンクが飲みたい」
「仰せの通りに」
古代は雪の手を引いて、移動式カフェの赤いワゴンを目指した。
「今日は君の誕生日だからな。君の好きなものをなんでも注文していいよ」
「おじさん、ジンジャーアップルティに、クリーム多めでお願い」
「そんな甘いもの、よく飲めるよな。俺は、ブラック」
古代は、制服のポケットに手を突っ込んで、コインを掴むと、それをわざとらしく雪に見せた。
「誕生日プレゼントが紅茶一杯だけ? 古代君は、なかなか太っ腹ね」
ホイップクリーム多めの紅茶を渡された雪が、ぷうっと頬を膨らませた。
「そんなわけないだろ。プレゼントは俺の部屋。それに甘いものは、後でたっぷり楽しむから」
古代は、店主からコーヒーを受け取りながら、雪にそう耳打ちするのだった。

スタバデート
イメージイラスト:ココママさま






つづく……?

*****


2015 12・23 雪誕カード2015 企画より      hitomi higasino


今年のヤマケットオフにて、「丸の内の羽生くんコラボリンク」を見てみようってのがありまして
その時に立ち寄ったリンクから妄想w
こんな場所で待ち合わせたら面白いかなあ~と。

今だけ?の赤いスタバカップがとても可愛いと思っていたので、是非、デート場所に使おうと思ってましたw
ココママさんに、「スタバのロゴを雪にしてアレンジしてください」とお願いしたら、こんな素敵なスタ○デートイラストがv
流石に「スター・○ックス」じゃなくて、何かいい名前はないか??となったので、そうだ、ハリウッド版のタイトルでいーじゃんwとなりましたw
ココママさん、楽しそうな古雪スタバデートイラストをありがとうございましたv

ウラに続く予定ですw 2016はウラから始まる予定w








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