見守る人々 嘘つき祝い1
<見守る人>からの続きです。









以前降り立ってから、三か月後の出来事だ。
神から、再び下界へ降りてこいとの命を受け、前に辿った道筋を全く同じ道を通り
守が降り立った弟の部屋で、事件が起こった。

以前と似た状況だった。結婚式を前日に控えた進の部屋には、婚約者の雪が訪れている。
少し違ったのは、早い時間に到着したことだった。
守は以前の経験を活かし、部屋に到着するなり、気配を感じさせない様にして居間の隅で縮こまった。
二人には見えないはずなので、縮こまる必要はなかったのだが。
弟といえども、守はすでにこの世の人ではなく、<進にとって、家族は、雪であるべきだ>との思いが、守にそうさせたのかもしれない。

否。
雪はしっかりと守の姿をとらえていた。
「守さん?」
進が座を外している隙に呼びかけて、雪は居間の隅まで近寄って行った。
『雪君? 俺が見えるのか?』
恐る恐るといった風に、守が口を開いた。
「ええ」
『じゃあ、話が早い。今回も君たちを見守る為に上から降りてきたんだ』
「待ってください。前は、年に一度だとおっしゃるから、体をお貸ししたんです。あれからそんなに時間が経ってないじゃないですか。こう度々じゃ、私だって、体が持ちません」
『しっ。進が来た』
人差し指を唇の前に当てて、物音がした居間の向こうに目をやった。
守の言動は、進には見えないし聞こえない。だから気にせずに動いても構わないのだが
雪にはすべて見えているので、彼女には断りを入れておかなくては、と守は考えたのだ。

『雪君、俺の質問に答えてくれ。イエスなら頷き、ノーなら首を振ってくれ』

イエス。
と、雪が頷こうとした時。
「雪、誰か居たのか? 話している声がしたけど?」
奥の部屋から、着替えを済ませた進が、ドアを開けて入って来たのだった。
雪は、守の質問に答える為に頷き、
「えっと、真琴さんから明日のことで電話してたのよ」と守の目を見ながら答えた。

「明日は早くから準備が始まるし、今夜は早めに送っていくよ。来客席についてのことは島に頼んでおく」
「そうね」
進が全く守の存在に気が付かなかったので、雪はほっとしたように溜息を吐いた。
雪は、今夜は土方家に戻って、明朝そこから式場にむかう予定だ。
遅い時刻ではなかったが、土方から連絡が入る前に、進としては彼女を家に送り届けなければいけない。
「二次会で、山本さんが私について暴露話をするかもしれないけど、古代君、驚いちゃだめよ」
「へえ。どんな暴露話かな? 楽しみだな」
彼女を送り届けるために、進はチューブの駅まで一緒に歩き出す。
「島君たちと、独身最後の夜を祝うんでしょ? 送ってくれるのは駅まででいいよ?」
「ごめん。もっと早く送っていくつもりだったんだけどさ。ちょっと予定外の出来事が……」
進の言葉に、雪はぽっと頬を赤くした。
「だって、あれは古代君が!」
「君だって、乗り気だったじゃないか。明日からは一緒に住めるのに、我慢できないって目でさ」
「ちょっと! なんてこと言うのよ。恥ずかしいじゃない!」
エレベーターは、9階から静かに降下を始めている。二人きりのエレベーターでは、他に誰が
聞いているわけでもないはずなのに、雪は慌てた様子で進の言葉を否定しようと躍起だ。
「明日からは夫婦なんだから、恥ずかしがることもないよ」
四角い箱の隅に、雪は追いやられた。誰も乗ってこないのをいいことに、進が彼女を追い詰めたのだ。



『……すまないな。雪君。俺のことは気にしないでくれ』
守は狭い箱の端で、進たちに背を向けている。

「あの、こちらこそ、すみません」
進への返事にしては、少々間の抜けた受け答えだったが、進は雪のそれを新妻になる雪の初々しさだと思うことにした。

「わかった? じゃ、独身最後の……」

守が下界に降りてきたことを、進に告げたい思いは雪にもあるが、守はそれを望んではいないようだ。
ただ見守っていたい、という切なる願いを、雪は聞いた気がした。

進の唇が触れた時、雪も観念して彼に合わせた。







2015 0707 hitomi higasino


*****

古代君、お誕生日おめでとう! 2015はこんなお祝いだよ^^; 
続きますv
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