Here With Me 0.5話

大きな犠牲を払った戦闘を終え、ヤマトは次の目的地に向かう途中だった。
艦内の混乱は収まりつつある。死傷者、行方不明者が多く出た。
――そして、彼女も。

「彦星から織姫へ」




休憩時間のほとんどを格納庫で過ごすことが多くなった古代が、詰め込むようにして
昼食をとっていると、緊張した面持ちの西条未来が自分の席の前に立ち止まった。
古代は長い前髪の間から彼女を見上げた。
「どうした?」
「あのう、戦術長、今日がお誕生日なんですよね? おめでとうございます」
彼女はそれだけ端的に伝え、カードを手渡すと足早に去っていく。
「あ、ありがとう」古代は面食らいながらも、それを素直に受け取った。

誕生日には必ず手書きのバースディカードが送られていた。これはクルー全員に。
慣例行事のようなものだ。
カードの文面は、よくある「お誕生日おめでとう」だけではなく、
その人へ宛てた言葉が一言織り交ぜられていた。
貰った者からすれば、どこからそんな情報を仕入れたかと思うような個人的な話題が多かった。

『後輩の為に、いつも10分早くシフトの交代をしてくださってるんですよね
でもあなたもゆっくりと休んでくださいね』
『この間は航海科の喧嘩の仲裁をしてくださってありがとうございました。あなたのような人がいるから
皆が纏まれるんです』
『航空隊のロッカーの修理をありがとうございます。お休みの時間を削ってまで』
『あなたが撮った写真は、私のお気に入りです』
など。他愛もないようなヤマトの日常でのヒトコマ的なものだ。


差出人の名前は特になかったが、誰もが貰っていたので、個人的なやりとりではないのだろうと察しがついた。
大方主計課の粋な計らいかと考えていたのだが。
船務科の手作りカードだったとは。

古代が、ゼロの整備をしに行くかと席を立ちながら、ふとカードを開けてみた。
そこには、『お誕生日が七夕なんてロマンチックです。戦術長も織姫様に逢えるといいですね』とある。
(なんだこれ? )
意味が解らず辺りを見渡していると、猛烈な勢いで走ってきた岬百合亜が、自分の手からカードを奪い取った。
「え?」
「す、すみませんっ!!! 古代さん、それはっ、間違いで、こっちが本物です!!」
古代は、百合亜がなぜそんなに慌てているのか全く解せないといった表情で首を捻った。
「西条さんが、確認してなくて、あの、それ、ごめんなさい……」
「いや、別にいいけど」
「すみません……それ……」
交換に手渡されたカードには『お誕生日おめでとうございます』としか記されていなかった。
古代は、二つのカードを交互に見やった。
そして一つの事実に思い至った。

「そっちのカード、森君が書いたんだろ?」
「えっと、あの……」

そうなのだ。だったら合点がいくのだ。

真剣で、少し寂しげな横顔を、古代は思い出していた。
妙にその横顔が気になって、後日「何か願いがあるのか」と雪に尋ねたことがあった。
その時に彼女から、七夕生まれである自分に「古代くんが織姫と逢えるように」
お願いしたのだと茶化されたのだった。

「あの、すみません、古代さん」
「気にしないでいいよ。森君が書いたカード、貰っていいかな?」
ぽかんと口をあけたままの百合亜から、雪が書いたカードを受け取ると、今度こそ格納庫に足を向かわせた。











2199 0707 side kodai


****



ヤマト艦内はいたって平和です。
イスカンダルで無事にコスモリバースシステムを受領して、あとは地球へと急ぐだけ。

だからというわけでもないんだけど、ここのところあちこちで恋の花が咲きかけてて
そんな場面に出くわすと、心の中で(がんばって)って応援したくなる。
昼の休憩時、私と古代君が一緒にテーブルについていると、
私たちの目前で、同じ船務科の西条さんが、顔を赤らめて北野くんに何か手渡しているところだった。

「ハイッ、北野クン、これ、あの、お誕生日カード。おめでとっ」
「あ、そうなの? 僕に? ありがとう。嬉しいよ」

二人の微笑ましいやり取りを見て、まわりからは冷やかすように声があがった。
「見せつけるなよー、北野クン!」
「いいな~~、僕も未来ちゃんから直接手渡してほしかったなー」


古代君は、優しく微笑んでそれを見守っていた。
そこで。
ハタと。

私は気が付いたのだ。


(古代君の誕生日カード、渡せなかったんだわ)

船務科からのヤマトクルー全員へのささやかな誕生日プレゼント。
いつ戦闘があるかもわからない、死と隣合わせのような毎日の中で、
ふっと力を抜いて貰えるような企画ができないものかと、船務科一同で考えたアイディアだ。
誰もが分け隔てなくお祝いしてもらえるような、といえばこれだ!とバースディカードを手作りしましょうと
いうことになった。

あの頃、そう。古代君の誕生日だった頃は、確か大きな戦闘があったのだ。
(直接渡したかったな)
当時、私はヤマトに居なかった。
きっと、誰かが他のカードを用意して渡してくれたのだろう。
今の今まで、すっかりその事は失念していた。

「雪?」
「あ、何?」
ぼんやりしてしまった私を、古代君が覗き込んだ。
「古代君は誕生日をお祝いしてもらったの? 」
今度は古代君が、え?というような顔を、私にむける。
「君からのカードは貰ったよ」
「私からの?」
「ああ」
「だって、あの頃私は……」
「彦星は、無事に織姫と逢えた!」
そう言って、古代君はにっこりほほ笑んだ。

血の気が引くとは、きっとこの事だ。心臓が止まるかと思うくらいびっくりして。
それと同時に立ち直れないくらい落ち込んだ。
「そう、なんだ……。よ、よかったじゃない? 古代君、織姫さまと逢えたのね」
笑顔が引きつってしまってるのは、自分でもわかってる。
「あの、もう行かなくちゃ」
急にトレイを持って立ちあがった私に、古代君は目を丸くして引き留めた。
「ごめん! 冗談……ってわけでもないんだけどな。参ったな……」
――座って。
古代君が目配せして、もう一度隣に座れという。
「?」
「わかってて書いたんだろ? 織姫が誰かなんて。え? 違うのか?」

(もしかして。もしかするの??)
「あ……」


「……君しかいないじゃないか」
ぽつりと。
いつも人の顔を真っ直ぐに見据えて話す古代君が、この時だけは恥かしそうにそっぽを向いた。







2199 0817 side yuki



********


**北野くんの誕生日は適当です;;

Here With Me 【3】以降に微妙に繋がります。

2013 1202 hitomi higasino
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