結婚式前日の夜
『明日の式、守さんも出てください』
雪のその一言に、彼女の思いのすべてが込められていることに、守は気付いた。
弟の結婚式前夜。婚約者を土方家に送り届けた進の目を盗んで、雪は一言だけ、守に告げたのだ。
僅かな時間会っただけだったが、それは、すとんと守の胸に落ちて行った。
生前、こういうことに無頓着だった自分なのに、やはり雪とは何かが通じていると、守は思わずにいられなかった。
<見守る為に来たんだ。邪魔にならない様にしているよ>
『古代君にも、お兄さんが見守っていることを知ってほしいんです』
<いや、それは……。必要ない。第一、進には俺の姿が見えない>
『そうかもしれない。だけど、存在を感じて欲しいんです』
腕組みをしながら考える守に、雪は目配せして『私に任せてください』と言った。
弟を陰からこっそりと祝うつもりで降りてきて、それが叶おうとしている。自分は今のままで十分だと守は思っている。
進には気付かれない様、二人は目と目で会話をした。
『星名くんが適任だと思います。彼に今から電話して、今夜の集まりに加わるよう、頼んでみます』
雪は、嬉々として携帯を指さし、守は頷いて了承した。
*****
結婚式当日の朝:Side Susumu
式場に向かう途中、昨日からずっと感じていた違和感について、彼女に質した。
「誰に電話するんだ?」
「え?」
彼女の心を読んだわけではない。雪の囁くような声が「電話」という音になったからだ。
出来るだけ穏やかに話すつもりだったけれど、憮然とした顔になってしまったようだ。
雪の瞳が曇っていくのを、しまった、という思いで見ながら、それを顔に出さないようにした。
式の日の早朝、前日酔いつぶれて失敗してしまった僕は、新見さんや雪のフォローがあって、
今、車で式場まで飛ばしている。
まだ頭に鈍痛が残るが、これは自業自得なので、愚痴を溢せない。
「ううん。そんなことないよ」。
会話としてはちぐはぐなやりとりだ。疑問が不信に変わることはないけれど、おや?と思う。
「昨日から、どこかそわそわしてしているように見えるけど?」
「それは、いよいよ結婚するんだと思うと、緊張するの。ホラ、古代君だって、昨日は羽目外し過ぎたでしょ?
私の事、言えないわよ?」
雪はすぐ詮索させない様に、話題を変えた。それを言われると、自分も強くは言えない。
雪は何か隠している? そんな疑問が確信に変わった。
問題は、何を隠しているのか、だ。
「僕に言えないことがあるのか?」
「そんな事あるわけないよ。ね、私達今日結婚するんだよ? それなのに私を疑うの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
君が何かを抱え込んでいるのじゃないかと、気になるだけだ。
そう言えば、きっと雪は一笑に付してしまうだろう。
車を、ホテルの地下駐車場に滑り込ませる。地下二階までカーブを二度繰り返し、
入り口に一番近いパーキングに車を停めて、シートベルトをようやく緩めた。
「古代くん……」
隣のシートから雪が身を乗り出してきて、僕の首に腕を絡ませた。
「雪?」
乾いた雪の唇が僕のをなぞった。
――好きなの。
僕だって。
音にする前に、乾いた彼女の唇を傷つけない様そっと僕のを押し付けた。
「大丈夫」
甘えるように頭を擦りつけてくる雪が愛おしくなって、抱きしめた。
ただ、心配しないでと伝えたかった。
*****
車内で雪は、守に話しかけなくなった。
守も同じ事だった。
厄介ごとに巻き込んで悪い、と守は雪に対して感じていたし、雪は雪で、進に言えない事を、申し訳なく思っていた。
進は、雪に悩みが生じているのかと心配になっている。
やはり自分は静かに弟の幸せを祈り、見守るだけでいいと、守は心に決めた。
抱き合う二人を後にして、守は先に車を降りた。
「古代君、訊きにくいことを訊くけどいい?」
式の直前、準備の為に別れる前に、どうしても雪は訊いておきたい、そして言っておきたいと思った。
「僕も、君に訊きたいことがある」
急いでいるのに、すみません、と二人は式場の係に告げ、席を外してもらえるよう頼んだ。
それから、手を取り合って、窓際のソファに掛けた。
「古代君が訊きたいことって、私が何か隠し事をしているんじゃないかってことよね?」
「ああ」
「上手く説明できないかもしれないけど、聞いて」
雪は、ほっそりした指を進の手に添えて、軽く握った。
「あの日の事を、まず思い出してほしい」
二人の間で、<あの日>とは、デブリが散乱する宇宙空間で、再び巡り会えた奇跡のことか
雪が再び息を吹き返したあの日かのどちらかだ。
どちらにせよ、進の心の傷痕が疼く。少しの痛みを伴って。
「私は、あの日生き返ったの。今こうしてあなたと人生を歩むために」
「雪、思い出したくない事は、そのままでいいんだよ。過去よりも未来が大事だろ?」
「ううん、古代君。私が言いたいのは、そうじゃなくて」
雪は、握った指先に力を込めた。
「きっと意味があるんだと思う。生かされているんだわ。あなたと歩く為に。だからいろんな人の想いを、私は背負って生きなきゃいけないと思う」
「君は……、多くの事を背負い過ぎだ。僕が半分持つ」
「うん。お願い」
雪はあっさりと頷いて、微笑んだ。
「あなたは、はっきり言わなかったけれど、どうして今日の日を選んだのか。それは沖田さんの冥福を祈る日で、地球と私が蘇生した日だからでしょ? 新しい人生を祝う日にふさわしい」
地球の未来を思って、志半ばで逝ってしまった仲間たちの想いも背負って生きて行く覚悟を、あなたと。
それから多くの仲間たちと、苦労も幸せも分かち合いながら、未来を作っていきたい。
全てを言葉にしなくても、二人で一緒に生きようと決めた日から、二人の気持ちは同じなのだ。
「だからね……。私、幸せになる。あなたと一緒に」
「ああ。君は最高だ!」
進は全身全霊で雪を抱きしめた。雪の匂いで満たしたくて、深く息を吸い込んだ。
ありがとう、とは口に出さなかったが、腕に力を込める事で感謝の気持ちを彼女に伝えた。
雪は「あなたに訊きたいことがあるの」と、進に耳打ちをする。
「君が抱えている重荷に繋がるのか?」
「……一緒に背負ってくれるんでしょ?」
「もちろん」
進は、腕から雪を離して、彼女の瞳の奥を覗き込んだ。
抱きしめたのは自分なのに、たおやかな彼女に包み込まれているように感じていた。
「古代君のお兄さんは」
「え? 兄貴?」
「そう、お兄さんの事。昔話はよくしてくれるけど、まだ聞いていなかったことがあるの。怒らないで聞いて」
「怒らないよ」
「メ号作戦でのお兄さんの決断について。古代君は、正直どう思っているの?」
「あ……」
雲間から太陽が顔をだし、光がカーテンの隙間から窓ガラスを抜けて雪の明るい髪を照らした。
雪は先に立ち上がって、カーテンを開いた。一筋だった光は、すぐに部屋全体を明るくした。
照明の光は必要ないくらいに。
「兄さんは、たぶん、ああするしかなかった。いや、矜持を持って決断した」
「軍人としてのお兄さんを、誇りに思っているのね?」
「ああ。綺麗事じゃない。本心からそう思ってる」
「だけど、それは軍人としての古代進が思う、お兄さんの姿よ。弟、進としてはどう?」
「弟としては、そうだな。どうしてあの時、命に背いてまで戦火に飛び込んでいったのか。
遺された家族としてどうして帰って来てくれなかったんだという気持ちが少しはある」
急に胸にこみ上げるものがあったが、息を呑んで進はやり過ごした。
「兄貴は、僕にハーモニカ一つ残して、逝った」
進は、一つ一つ言葉を噛みしめるように、紡いだ。
「最期の姿を、メッセージと共に見られたのは嬉しかったけれど……」
「だめだ。未だに、一つの気持ちにまとまらない。ごめん。だけどどっちも本心なんだ」
「ううん、私の方こそごめんなさい……」
もういい、と雪は進の言葉を押しとどめようとした。雪はソファの前に屈みこみ、進と視線を合わせる。
しかし進は、今まで兄の死について、何度も深く考えようとしては挫折していた過去を、雪となら乗り越えられるような気がして、今まで口に出来なかった事を語りだした。
「たとえば、僕なら、どうしただろうかと考えることがある」
「いいの、古代君。ごめんね。こんなこと聞いてしまって」
雪は、それ以上言わないで、と願いながら進を見た。
部屋の中は明るすぎて、進の心の奥まで暴き出しそうだった。
「愛する君がいる僕なら、引き返しただろうか。いや、僕も君を守るために兄貴と同じことを」
「古代君!」
雪は、カーペットの上に膝立ちになり、ソファに掛ける進に抱きつくように身を乗り出した。
堪らず進の顔を両手で包み込み、頬に、キスを繰り返した。
「大丈夫。僕は帰ってくるよ。何処に居ても。命を投げ出したりしない」
しゃくりあげてしまうかもしれないと思った雪は、何度も頷いて、わかっていると進に伝えた。
「それを証明するために、今日の日を選んだんだ。皆の前で、永遠の愛を誓うんだ。僕の言いたいこと、わかってくれるか?」
「わかってるわ。わかってる。辛いこと訊いてしまってごめんね」
「いいんだ雪、ありがとう。わかったんだ、今。閃きと共に、簡単な事だったって、今わかった」
「何が?」
涙を流しながら、キスを続けていた雪は、進から顔を離して、目を合わせた。
途中まで辛そうに見えていた進は、晴れ晴れとした表情で、雪を見ていた。
「兄貴は、僕を守ろうとしてたんだって。兄はそういう奴だ」
「ありがとう、兄さん。兄さんが繋いでくれた命を大切にして、彼女と幸せになるよ」
進はそう言って、雪の涙を拭き取った。
当日 披露宴の最中
新婦側の友人席に着いていた西条未来は、新郎席側友人席に座る北野に手を振っていた。
隣の岬百合亜は、同じく反対側に座る星名に目をやりながら、そう言えば、と切り出した。
「雪さんからの指令で、昨日の夜、星名君が古代さんの独身最後の夜を祝う会に出席して、ビデオを回したそうなの」
「へえ? このスクリーンもナンブプロジェクトのビデオを活かす為の演出だって聞いたわよ。南部さん、すごく張り切ってるのに、あのビデオは使われないの?」
「さあ? どうなんだろう……って、雪さんっ、すっごく綺麗!!」
百合亜は思わず立ち上がって、大げさに手を叩いた。
お色直しをした雪と進が、再び披露宴の会場に戻ったのだ。
今日の雪の美しさは格別だった。雪は、全身に幸せのオーラを纏っていて、眩いばかりに輝いていた。
「ホント、綺麗……」
西条もぽかんとして、二の句が継げないでいる。
前方にある大きなスクリーンは、ヤマトのそれに似せて作ってあり、
相原の「戦術長より入電、拡大投影します」の一声で、南部の作ったビデオがスタートした。
ビデオの内容は、概ね、出席者には好評のようで、時々笑い声や歓声が上がった。
ビデオには続きがあった。昨夜撮られた酒席でのインタビューで、急いで作ったような雑な繋ぎであったが、進の為人を知るには、よい内容だった。
しかし、インタビューの後半でいきなり音声が途絶えた。
進がハーモニカを取りだして、真田と守の話をし始めた時だ。
無音状態でビデオは進んだが、そのうち映像もスモークが立ち込めたように白く濁り始めた。
「あれ? どうしちゃったんだろう?」
あちこちから、そんな声が聞こえてくるようになった。
そしてしばらくして完全に止まった。
「披露宴のスケジュールを一部変更いたしまして――」
ハプニング慣れしているスタッフは、何事もなかったように、淡々と告げようとした。彼女は自分を落ち着かせる為に眼鏡をかけ直す。
タブレットで宴の進行を確認しようとして、かけていた眼鏡を持ち上げた時だった。
どこからか、大小の無数のしゃぼん玉が、降ってきたのだ。
「しょ、照明、急いで切り替えて!」
咄嗟に、生きたマイクに向って、スタッフは叫んでいた。
ハプニングの例は、式の数だけあるけれど、それは、彼女が今まで体験したことのない類のものだった。
機転を利かせた照明係は、しゃぼん玉にオレンジ色の強い光を当てる。
そうすることで、会場内が幻想的な光に包まれた。
雪には、こうなった理由に思い当たる節がある。
急遽仕込んだインタビューと称したビデオ。
急なことだったので、細かな打ち合わせは出来なかったが進に、守の存在を示してほしいと思っていた。
守はビデオのどこかに痕跡を残したに違いない。
しかし、守はそれを有耶無耶にしてしまった。
かえって守に悪いことをしてしまったと、雪は下を向きかけた。
「これは……?」
隣の進は、驚いて目を見開いていた。
「あのね、古代君、これは」
テーブルの下で、進は雪の手を握った。何か言いかけた雪の言葉を進は遮った。
「僕たちの船出を、沖田さんや、兄さんや、逝ってしまった皆が祝ってくれてる気がする」
「そうね……。きっとそうだわ」
進は守を感じている。
隣の進が、自分と同じように天を仰いだのは、きっとそうだからだ、と雪は思った。
自分がどうして二度も下界に降ろされたのか、守はようやく悟った。
自分の人生に悔いはなかったと思っていたが、たった一点、弟の今後が気がかりだったのだ。
自分にとって進は、いつまでも幼い弟だった。
あの日、愛する女性を失ったと号泣する弟に、奇跡を起こして、自分は救ってやったとも、思っていた。
きっかけはそうだったかもしれないが――。
生き返ろうとしたのは、雪自身であり、彼女の生命力の強さの賜物だった。
それは進にしても同じ事が言えた。彼は、自分の頭で考え、行動し、答えを導き出す。
雪という最高の伴侶を得たのは、奇跡ではなく、進の努力によるものだった。
<そうか……。進の幸せを見届けてやれなかったと、俺は思い込んでいたが、弟は、もう幼い男の子じゃない。
一人の男として自分で幸せを勝ち取った。もう俺は進にしてやることは何一つない>
進と雪が、見つめあい、笑い合う姿を見て、自分の役目はとうに終わっていた事を、守は知った。
星名が回したビデオに、メッセージらしきものを残したが、それすらも不要だと気付いた。
もう、雪にも自分の姿は見えないだろう。
守は、すうっと両手を広げた。
すると、天に向けた掌からしゃぼん玉のような泡が現れ、天井から無数のそれを降らせた。
誰にも自分の姿は見えないだろう。
そう思っていた守に、一人だけ話しかけた人がいた。
「嘘つきね」
周りの誰もが、この幻想的な演出に心を奪われている中、一人、守の方をじっと見ている薫だった。
「何のことだ?」
守は、どうして、薫だけに自分の姿が見えているのかわからなかったが、彼女の言葉を聞きたいと思った。
答えを訊かなくては、天に戻れないと予感があったのだ。
「本当は、ただ逢いたかったから、でしょ? 答えはいつもシンプルなものよ。難しく考えるから、ややこしくなる」
「ハハハ。ご名答!」
破顔した守は、自分の身体がゆっくりと宙に浮いていくのを感じ、薫を見下ろしながら、言った。
「相変わらず、君も頑固者だ。素直に甘えると可愛いのに」
「さきに逝っちゃったくせに、調子いいこと言わないでよ」
もう戻ってくるな、と言わんばかりに、薫は天に向かって舌を出していた。
来た時と同じ道を、守は移動していた。
もう二度と此処に戻ることはないだろうと確信して。
**************
オマケ
「寒いよね。もう十二月だもんね」
「だから、この店にしたんだよ。ここのおでん、旨いんだから」
西条未来と北野哲也が仲良くコートの襟を立てながら、おでん屋ののれんをくぐったのは、
進と雪の結婚式の帰り道だった。
十三時に始まった披露宴は、多少のハプニングはあったものの、滞りなく進み、無事に終わった。
晴れやかな新郎新婦の姿を見て、思うところがあったのだろう。
北野は神妙な顔をして、カウンターの一番奥に未来を案内する。
二人して、「あっ」と声を上げたのは、ここで会うはずがないと思い込んでいた、元情報長の姿がそこにあったからだ。
「あら。フフ。仲良くデートか。二人とも今日はお疲れ様」
新見薫は、手酌で杯を傾けつつ、軽く会釈した。
「あの、お一人ですか?」
気まずさを打破しようと、余計なひと言を口走ったのは北野だ。
それを聞いた未来は、冷や汗を掻く。
(もう! 哲也くんったら、なんてこと聞くのよ!)
「そうよ。大人の女のお一人様よ」
「さすが、情報長、か、かっこいいです!」
何といって持ち上げようとも、この人には通用しないと解っていながら、そうせずにはいられなくて
引き攣り笑いをうかべた未来が答える。
「あの、よかったら、向こうでご一緒しませんか?」
もちろんそれは社交辞令だった。
北野のフォローで、なんとなくその場を収めたつもりになった二人だが、断ると思っていた薫が
「いいわよ! 呑んじゃおうか」
と即答したのには驚いた。
「え、イインデスカ」
語尾が小さく消え入るような北野に対し、薫は「後輩のお祝いだもの。それに私のは、悪いお酒じゃないから安心しなさい」と笑った。
未来も北野も、こんな元情報長の一面は見たことがなかった。
英雄の丘で沖田を偲び、進の結婚式でも、懐かしい顔に再会したからだろうか。
薫は明るかった。旧友との再会が嬉しかったのか、と未来は考えた。
「今日一日で、いろんな事が有りすぎて、全部の情報処理がまだ出来ていないの」
こんにゃくの田楽を箸で突きながら、薫は何かを訴えていた。
「あー、新見さん、あの、えっと」
確かに、薫の酒癖は悪いものではないようだが、ピッチが速すぎる。
どう対処していいのかわからず、北野は未来に救いを求めた。
御猪口の酒をあおった薫に、未来は覚悟を決めて頷いた。
「私も、呑みますよ! ね、呑んじゃいましょう」
「そうこなくっちゃ」
どうしてだか、この日の薫と未来は意気投合し、日付が変わる直前まで、明るい酒を楽しんでいた。
未来が言うには、十二月八日は「嘘つき祝いの日」と言うらしい。
中国地方出身の彼女は、地元の風習で、この日にこんにゃくや豆腐を食べると
一年の嘘が帳消しになるのだと教えてくれた。
それにしても。
薫は、自分では酔っていないなどと言っているが、明らかに行動がおかしい。
「新見さん、何年分の嘘を帳消しにするつもりですか! こんにゃくばっか食いすぎです!!」
テーブルの上に並ぶこんにゃくの田楽たち。
それを全部平らげようとする薫の目は真剣だ。
助けてくれ、と進にメールをしようかと北野は携帯に手を伸ばしたが、さすがに今夜はマズイだろうと思い至り、
鞄に携帯を仕舞うのだった。
2015 12・24 hitomi higasino
*****
77777キリリク
素敵なリクエストを頂いていたのに、かなり遅くなりました;;;
リクエストの内容が、確か「相手を思いやる嘘、古雪」だったと思うのですが(いただいたメールが行方不明で確認できないんです;;);;;
古雪は、まわりに支えられて、幸せになるイメージなので、そんな思いも入れてみましたv
にょろにょろさん、ハッとさせられる切り口からのリクエストを、ありがとうございましたv
『明日の式、守さんも出てください』
雪のその一言に、彼女の思いのすべてが込められていることに、守は気付いた。
弟の結婚式前夜。婚約者を土方家に送り届けた進の目を盗んで、雪は一言だけ、守に告げたのだ。
僅かな時間会っただけだったが、それは、すとんと守の胸に落ちて行った。
生前、こういうことに無頓着だった自分なのに、やはり雪とは何かが通じていると、守は思わずにいられなかった。
<見守る為に来たんだ。邪魔にならない様にしているよ>
『古代君にも、お兄さんが見守っていることを知ってほしいんです』
<いや、それは……。必要ない。第一、進には俺の姿が見えない>
『そうかもしれない。だけど、存在を感じて欲しいんです』
腕組みをしながら考える守に、雪は目配せして『私に任せてください』と言った。
弟を陰からこっそりと祝うつもりで降りてきて、それが叶おうとしている。自分は今のままで十分だと守は思っている。
進には気付かれない様、二人は目と目で会話をした。
『星名くんが適任だと思います。彼に今から電話して、今夜の集まりに加わるよう、頼んでみます』
雪は、嬉々として携帯を指さし、守は頷いて了承した。
*****
結婚式当日の朝:Side Susumu
式場に向かう途中、昨日からずっと感じていた違和感について、彼女に質した。
「誰に電話するんだ?」
「え?」
彼女の心を読んだわけではない。雪の囁くような声が「電話」という音になったからだ。
出来るだけ穏やかに話すつもりだったけれど、憮然とした顔になってしまったようだ。
雪の瞳が曇っていくのを、しまった、という思いで見ながら、それを顔に出さないようにした。
式の日の早朝、前日酔いつぶれて失敗してしまった僕は、新見さんや雪のフォローがあって、
今、車で式場まで飛ばしている。
まだ頭に鈍痛が残るが、これは自業自得なので、愚痴を溢せない。
「ううん。そんなことないよ」。
会話としてはちぐはぐなやりとりだ。疑問が不信に変わることはないけれど、おや?と思う。
「昨日から、どこかそわそわしてしているように見えるけど?」
「それは、いよいよ結婚するんだと思うと、緊張するの。ホラ、古代君だって、昨日は羽目外し過ぎたでしょ?
私の事、言えないわよ?」
雪はすぐ詮索させない様に、話題を変えた。それを言われると、自分も強くは言えない。
雪は何か隠している? そんな疑問が確信に変わった。
問題は、何を隠しているのか、だ。
「僕に言えないことがあるのか?」
「そんな事あるわけないよ。ね、私達今日結婚するんだよ? それなのに私を疑うの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
君が何かを抱え込んでいるのじゃないかと、気になるだけだ。
そう言えば、きっと雪は一笑に付してしまうだろう。
車を、ホテルの地下駐車場に滑り込ませる。地下二階までカーブを二度繰り返し、
入り口に一番近いパーキングに車を停めて、シートベルトをようやく緩めた。
「古代くん……」
隣のシートから雪が身を乗り出してきて、僕の首に腕を絡ませた。
「雪?」
乾いた雪の唇が僕のをなぞった。
――好きなの。
僕だって。
音にする前に、乾いた彼女の唇を傷つけない様そっと僕のを押し付けた。
「大丈夫」
甘えるように頭を擦りつけてくる雪が愛おしくなって、抱きしめた。
ただ、心配しないでと伝えたかった。
*****
車内で雪は、守に話しかけなくなった。
守も同じ事だった。
厄介ごとに巻き込んで悪い、と守は雪に対して感じていたし、雪は雪で、進に言えない事を、申し訳なく思っていた。
進は、雪に悩みが生じているのかと心配になっている。
やはり自分は静かに弟の幸せを祈り、見守るだけでいいと、守は心に決めた。
抱き合う二人を後にして、守は先に車を降りた。
「古代君、訊きにくいことを訊くけどいい?」
式の直前、準備の為に別れる前に、どうしても雪は訊いておきたい、そして言っておきたいと思った。
「僕も、君に訊きたいことがある」
急いでいるのに、すみません、と二人は式場の係に告げ、席を外してもらえるよう頼んだ。
それから、手を取り合って、窓際のソファに掛けた。
「古代君が訊きたいことって、私が何か隠し事をしているんじゃないかってことよね?」
「ああ」
「上手く説明できないかもしれないけど、聞いて」
雪は、ほっそりした指を進の手に添えて、軽く握った。
「あの日の事を、まず思い出してほしい」
二人の間で、<あの日>とは、デブリが散乱する宇宙空間で、再び巡り会えた奇跡のことか
雪が再び息を吹き返したあの日かのどちらかだ。
どちらにせよ、進の心の傷痕が疼く。少しの痛みを伴って。
「私は、あの日生き返ったの。今こうしてあなたと人生を歩むために」
「雪、思い出したくない事は、そのままでいいんだよ。過去よりも未来が大事だろ?」
「ううん、古代君。私が言いたいのは、そうじゃなくて」
雪は、握った指先に力を込めた。
「きっと意味があるんだと思う。生かされているんだわ。あなたと歩く為に。だからいろんな人の想いを、私は背負って生きなきゃいけないと思う」
「君は……、多くの事を背負い過ぎだ。僕が半分持つ」
「うん。お願い」
雪はあっさりと頷いて、微笑んだ。
「あなたは、はっきり言わなかったけれど、どうして今日の日を選んだのか。それは沖田さんの冥福を祈る日で、地球と私が蘇生した日だからでしょ? 新しい人生を祝う日にふさわしい」
地球の未来を思って、志半ばで逝ってしまった仲間たちの想いも背負って生きて行く覚悟を、あなたと。
それから多くの仲間たちと、苦労も幸せも分かち合いながら、未来を作っていきたい。
全てを言葉にしなくても、二人で一緒に生きようと決めた日から、二人の気持ちは同じなのだ。
「だからね……。私、幸せになる。あなたと一緒に」
「ああ。君は最高だ!」
進は全身全霊で雪を抱きしめた。雪の匂いで満たしたくて、深く息を吸い込んだ。
ありがとう、とは口に出さなかったが、腕に力を込める事で感謝の気持ちを彼女に伝えた。
雪は「あなたに訊きたいことがあるの」と、進に耳打ちをする。
「君が抱えている重荷に繋がるのか?」
「……一緒に背負ってくれるんでしょ?」
「もちろん」
進は、腕から雪を離して、彼女の瞳の奥を覗き込んだ。
抱きしめたのは自分なのに、たおやかな彼女に包み込まれているように感じていた。
「古代君のお兄さんは」
「え? 兄貴?」
「そう、お兄さんの事。昔話はよくしてくれるけど、まだ聞いていなかったことがあるの。怒らないで聞いて」
「怒らないよ」
「メ号作戦でのお兄さんの決断について。古代君は、正直どう思っているの?」
「あ……」
雲間から太陽が顔をだし、光がカーテンの隙間から窓ガラスを抜けて雪の明るい髪を照らした。
雪は先に立ち上がって、カーテンを開いた。一筋だった光は、すぐに部屋全体を明るくした。
照明の光は必要ないくらいに。
「兄さんは、たぶん、ああするしかなかった。いや、矜持を持って決断した」
「軍人としてのお兄さんを、誇りに思っているのね?」
「ああ。綺麗事じゃない。本心からそう思ってる」
「だけど、それは軍人としての古代進が思う、お兄さんの姿よ。弟、進としてはどう?」
「弟としては、そうだな。どうしてあの時、命に背いてまで戦火に飛び込んでいったのか。
遺された家族としてどうして帰って来てくれなかったんだという気持ちが少しはある」
急に胸にこみ上げるものがあったが、息を呑んで進はやり過ごした。
「兄貴は、僕にハーモニカ一つ残して、逝った」
進は、一つ一つ言葉を噛みしめるように、紡いだ。
「最期の姿を、メッセージと共に見られたのは嬉しかったけれど……」
「だめだ。未だに、一つの気持ちにまとまらない。ごめん。だけどどっちも本心なんだ」
「ううん、私の方こそごめんなさい……」
もういい、と雪は進の言葉を押しとどめようとした。雪はソファの前に屈みこみ、進と視線を合わせる。
しかし進は、今まで兄の死について、何度も深く考えようとしては挫折していた過去を、雪となら乗り越えられるような気がして、今まで口に出来なかった事を語りだした。
「たとえば、僕なら、どうしただろうかと考えることがある」
「いいの、古代君。ごめんね。こんなこと聞いてしまって」
雪は、それ以上言わないで、と願いながら進を見た。
部屋の中は明るすぎて、進の心の奥まで暴き出しそうだった。
「愛する君がいる僕なら、引き返しただろうか。いや、僕も君を守るために兄貴と同じことを」
「古代君!」
雪は、カーペットの上に膝立ちになり、ソファに掛ける進に抱きつくように身を乗り出した。
堪らず進の顔を両手で包み込み、頬に、キスを繰り返した。
「大丈夫。僕は帰ってくるよ。何処に居ても。命を投げ出したりしない」
しゃくりあげてしまうかもしれないと思った雪は、何度も頷いて、わかっていると進に伝えた。
「それを証明するために、今日の日を選んだんだ。皆の前で、永遠の愛を誓うんだ。僕の言いたいこと、わかってくれるか?」
「わかってるわ。わかってる。辛いこと訊いてしまってごめんね」
「いいんだ雪、ありがとう。わかったんだ、今。閃きと共に、簡単な事だったって、今わかった」
「何が?」
涙を流しながら、キスを続けていた雪は、進から顔を離して、目を合わせた。
途中まで辛そうに見えていた進は、晴れ晴れとした表情で、雪を見ていた。
「兄貴は、僕を守ろうとしてたんだって。兄はそういう奴だ」
「ありがとう、兄さん。兄さんが繋いでくれた命を大切にして、彼女と幸せになるよ」
進はそう言って、雪の涙を拭き取った。
当日 披露宴の最中
新婦側の友人席に着いていた西条未来は、新郎席側友人席に座る北野に手を振っていた。
隣の岬百合亜は、同じく反対側に座る星名に目をやりながら、そう言えば、と切り出した。
「雪さんからの指令で、昨日の夜、星名君が古代さんの独身最後の夜を祝う会に出席して、ビデオを回したそうなの」
「へえ? このスクリーンもナンブプロジェクトのビデオを活かす為の演出だって聞いたわよ。南部さん、すごく張り切ってるのに、あのビデオは使われないの?」
「さあ? どうなんだろう……って、雪さんっ、すっごく綺麗!!」
百合亜は思わず立ち上がって、大げさに手を叩いた。
お色直しをした雪と進が、再び披露宴の会場に戻ったのだ。
今日の雪の美しさは格別だった。雪は、全身に幸せのオーラを纏っていて、眩いばかりに輝いていた。
「ホント、綺麗……」
西条もぽかんとして、二の句が継げないでいる。
前方にある大きなスクリーンは、ヤマトのそれに似せて作ってあり、
相原の「戦術長より入電、拡大投影します」の一声で、南部の作ったビデオがスタートした。
ビデオの内容は、概ね、出席者には好評のようで、時々笑い声や歓声が上がった。
ビデオには続きがあった。昨夜撮られた酒席でのインタビューで、急いで作ったような雑な繋ぎであったが、進の為人を知るには、よい内容だった。
しかし、インタビューの後半でいきなり音声が途絶えた。
進がハーモニカを取りだして、真田と守の話をし始めた時だ。
無音状態でビデオは進んだが、そのうち映像もスモークが立ち込めたように白く濁り始めた。
「あれ? どうしちゃったんだろう?」
あちこちから、そんな声が聞こえてくるようになった。
そしてしばらくして完全に止まった。
「披露宴のスケジュールを一部変更いたしまして――」
ハプニング慣れしているスタッフは、何事もなかったように、淡々と告げようとした。彼女は自分を落ち着かせる為に眼鏡をかけ直す。
タブレットで宴の進行を確認しようとして、かけていた眼鏡を持ち上げた時だった。
どこからか、大小の無数のしゃぼん玉が、降ってきたのだ。
「しょ、照明、急いで切り替えて!」
咄嗟に、生きたマイクに向って、スタッフは叫んでいた。
ハプニングの例は、式の数だけあるけれど、それは、彼女が今まで体験したことのない類のものだった。
機転を利かせた照明係は、しゃぼん玉にオレンジ色の強い光を当てる。
そうすることで、会場内が幻想的な光に包まれた。
雪には、こうなった理由に思い当たる節がある。
急遽仕込んだインタビューと称したビデオ。
急なことだったので、細かな打ち合わせは出来なかったが進に、守の存在を示してほしいと思っていた。
守はビデオのどこかに痕跡を残したに違いない。
しかし、守はそれを有耶無耶にしてしまった。
かえって守に悪いことをしてしまったと、雪は下を向きかけた。
「これは……?」
隣の進は、驚いて目を見開いていた。
「あのね、古代君、これは」
テーブルの下で、進は雪の手を握った。何か言いかけた雪の言葉を進は遮った。
「僕たちの船出を、沖田さんや、兄さんや、逝ってしまった皆が祝ってくれてる気がする」
「そうね……。きっとそうだわ」
進は守を感じている。
隣の進が、自分と同じように天を仰いだのは、きっとそうだからだ、と雪は思った。
自分がどうして二度も下界に降ろされたのか、守はようやく悟った。
自分の人生に悔いはなかったと思っていたが、たった一点、弟の今後が気がかりだったのだ。
自分にとって進は、いつまでも幼い弟だった。
あの日、愛する女性を失ったと号泣する弟に、奇跡を起こして、自分は救ってやったとも、思っていた。
きっかけはそうだったかもしれないが――。
生き返ろうとしたのは、雪自身であり、彼女の生命力の強さの賜物だった。
それは進にしても同じ事が言えた。彼は、自分の頭で考え、行動し、答えを導き出す。
雪という最高の伴侶を得たのは、奇跡ではなく、進の努力によるものだった。
<そうか……。進の幸せを見届けてやれなかったと、俺は思い込んでいたが、弟は、もう幼い男の子じゃない。
一人の男として自分で幸せを勝ち取った。もう俺は進にしてやることは何一つない>
進と雪が、見つめあい、笑い合う姿を見て、自分の役目はとうに終わっていた事を、守は知った。
星名が回したビデオに、メッセージらしきものを残したが、それすらも不要だと気付いた。
もう、雪にも自分の姿は見えないだろう。
守は、すうっと両手を広げた。
すると、天に向けた掌からしゃぼん玉のような泡が現れ、天井から無数のそれを降らせた。
誰にも自分の姿は見えないだろう。
そう思っていた守に、一人だけ話しかけた人がいた。
「嘘つきね」
周りの誰もが、この幻想的な演出に心を奪われている中、一人、守の方をじっと見ている薫だった。
「何のことだ?」
守は、どうして、薫だけに自分の姿が見えているのかわからなかったが、彼女の言葉を聞きたいと思った。
答えを訊かなくては、天に戻れないと予感があったのだ。
「本当は、ただ逢いたかったから、でしょ? 答えはいつもシンプルなものよ。難しく考えるから、ややこしくなる」
「ハハハ。ご名答!」
破顔した守は、自分の身体がゆっくりと宙に浮いていくのを感じ、薫を見下ろしながら、言った。
「相変わらず、君も頑固者だ。素直に甘えると可愛いのに」
「さきに逝っちゃったくせに、調子いいこと言わないでよ」
もう戻ってくるな、と言わんばかりに、薫は天に向かって舌を出していた。
来た時と同じ道を、守は移動していた。
もう二度と此処に戻ることはないだろうと確信して。
**************
オマケ
「寒いよね。もう十二月だもんね」
「だから、この店にしたんだよ。ここのおでん、旨いんだから」
西条未来と北野哲也が仲良くコートの襟を立てながら、おでん屋ののれんをくぐったのは、
進と雪の結婚式の帰り道だった。
十三時に始まった披露宴は、多少のハプニングはあったものの、滞りなく進み、無事に終わった。
晴れやかな新郎新婦の姿を見て、思うところがあったのだろう。
北野は神妙な顔をして、カウンターの一番奥に未来を案内する。
二人して、「あっ」と声を上げたのは、ここで会うはずがないと思い込んでいた、元情報長の姿がそこにあったからだ。
「あら。フフ。仲良くデートか。二人とも今日はお疲れ様」
新見薫は、手酌で杯を傾けつつ、軽く会釈した。
「あの、お一人ですか?」
気まずさを打破しようと、余計なひと言を口走ったのは北野だ。
それを聞いた未来は、冷や汗を掻く。
(もう! 哲也くんったら、なんてこと聞くのよ!)
「そうよ。大人の女のお一人様よ」
「さすが、情報長、か、かっこいいです!」
何といって持ち上げようとも、この人には通用しないと解っていながら、そうせずにはいられなくて
引き攣り笑いをうかべた未来が答える。
「あの、よかったら、向こうでご一緒しませんか?」
もちろんそれは社交辞令だった。
北野のフォローで、なんとなくその場を収めたつもりになった二人だが、断ると思っていた薫が
「いいわよ! 呑んじゃおうか」
と即答したのには驚いた。
「え、イインデスカ」
語尾が小さく消え入るような北野に対し、薫は「後輩のお祝いだもの。それに私のは、悪いお酒じゃないから安心しなさい」と笑った。
未来も北野も、こんな元情報長の一面は見たことがなかった。
英雄の丘で沖田を偲び、進の結婚式でも、懐かしい顔に再会したからだろうか。
薫は明るかった。旧友との再会が嬉しかったのか、と未来は考えた。
「今日一日で、いろんな事が有りすぎて、全部の情報処理がまだ出来ていないの」
こんにゃくの田楽を箸で突きながら、薫は何かを訴えていた。
「あー、新見さん、あの、えっと」
確かに、薫の酒癖は悪いものではないようだが、ピッチが速すぎる。
どう対処していいのかわからず、北野は未来に救いを求めた。
御猪口の酒をあおった薫に、未来は覚悟を決めて頷いた。
「私も、呑みますよ! ね、呑んじゃいましょう」
「そうこなくっちゃ」
どうしてだか、この日の薫と未来は意気投合し、日付が変わる直前まで、明るい酒を楽しんでいた。
未来が言うには、十二月八日は「嘘つき祝いの日」と言うらしい。
中国地方出身の彼女は、地元の風習で、この日にこんにゃくや豆腐を食べると
一年の嘘が帳消しになるのだと教えてくれた。
それにしても。
薫は、自分では酔っていないなどと言っているが、明らかに行動がおかしい。
「新見さん、何年分の嘘を帳消しにするつもりですか! こんにゃくばっか食いすぎです!!」
テーブルの上に並ぶこんにゃくの田楽たち。
それを全部平らげようとする薫の目は真剣だ。
助けてくれ、と進にメールをしようかと北野は携帯に手を伸ばしたが、さすがに今夜はマズイだろうと思い至り、
鞄に携帯を仕舞うのだった。
2015 12・24 hitomi higasino
*****
77777キリリク
素敵なリクエストを頂いていたのに、かなり遅くなりました;;;
リクエストの内容が、確か「相手を思いやる嘘、古雪」だったと思うのですが(いただいたメールが行方不明で確認できないんです;;);;;
古雪は、まわりに支えられて、幸せになるイメージなので、そんな思いも入れてみましたv
にょろにょろさん、ハッとさせられる切り口からのリクエストを、ありがとうございましたv
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
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