森君から話があったのは、三か月前のことだ。
「マゼランパフェが食べられるカフェがあるの、南部君は知ってる?」
ああ、太田から聞いて知ってるよ、と返事すると、彼女から逢えないかと誘われたのだ。
「えっ、だって、森君、古代と結婚するんだろ。二人きりで会うのは」
と言いかけた僕に、彼女はぴしゃりと言い切った。
「古代君と私、二人からの頼みがあるんだ」
ナンブプロジェクト~キミたちのしあわせのありか
「こんなこと頼むのは、恥ずかしいんだが。雪たっての希望で」
と、切り出されたのは『披露宴で流す二人のPVを作ってくれ』というものだった。
僕の財力に期待していたのか? とんでもなく豪勢なPVを作ってほしいという希望なのかと
疑ったが、そうではないらしい。
「映画監督に知り合いがいるけど、紹介しろとは言わないんだな? それじゃあ、何を期待して僕に頼むんだ?」
「そんな無茶ぶりはしないさ。仲間にエピソードを語ってもらうくらいでいいんだ。ほら、俺も雪も家族はいないし、生い立ちを追うのも無理があるし――」
古代が言葉を濁した。森君の記憶は今も戻らないままだから、それも仕方がないことだ。
「わかった。それなら古代と森君の艦内ツーショット写真提出を要請する。ああ、そうだ。あれがいい。手を引っ叩かれてるヤツ」
古代の口が、ピクピクと引き攣った。森君はニコニコ笑ってる。
あいつ、いつの間にあんな写真を撮ってたんだ、とあの時はブリッジで噂になったもんだ。
噂の発端は、原田くんだったな。そうだ、女子の噂話は彼女に聞くとして。
航空隊隊長の、彼女の夫の顔が浮かんで、僕は眼鏡がずり落ちそうになった。
(――加藤にも一応話を聞くか)
彼らから、披露宴について聞いているうち、僕の頭の中では、すでにいくつかのバージョンが数本撮りあがっていた。
ヤマト艦内を再現するセットを作って、そこで撮影しよう。
出演する元クルーには艦内服を着て貰い、臨場感を演出する。
そこで波動砲を発射する。(これは二人への祝砲だ)派手な3Dで演出。
いや、だが、待てよ。これはお偉方の前でやってしまうと問題になるか?
それよりも、イスカンダルからの祝電の方が感動的だし、話題になるな。
「南部? おい、聞いているか? 悪いが予算はこれだけだ」
僕が遠い目をして、ニヤニヤしているのを古代は気持ち悪いと思ったのだろう。
大丈夫か?と その目が訴えかけている。
「いや、予算なんて気にするな。二人の門出を祝して、僕は」
僕が言いかけた時、「ありがとう! 南部!」と古代が強く僕の手を握った。
古代が、僕の手に握らせたのは、このカフェの「マゼランパフェ食べ放題券」十枚だった。
*****
マゼランパフェ食べ放題のチケットをちらつかせ、岬くんや、西条くんたちから、古代達の噂についてインタビューをして
なんとか、一本のPVに作り終えたというのに、誰が呼んだのか、星名の奴が、『森さんからのリクエストです』と再びカメラを回しているのだ。
古代達の結婚式前夜。俗にいう、『バチェラーパーティ』を期待して来たのか。残念ながら、僕たちは紳士だから、品行を崩すような真似はしないのだ。
「何を撮るんだよ? PVはもう出来上がって納品済みなんだぞ?」
古代に聞こえないよう、僕は個室の隅に星名を追いやった。
「そんな事言われても……。森さんからの命令なんですよ」
「古代を見張れって、命令なのか?」
「いいえ。そうじゃないです。ただカメラを回すだけでいいって」
「ふーん」
(納得がいかないな。僕の作ったPVに、何かが足りないのか)
「拗ねないでくださいよ、南部さん。ね? ほら古代さんが見てますよ。呑みましょう!」
星名にいいようにあしらわれた僕は、相原の呼びかけに応じる振りをして、愛想笑いを浮かべた。
彼らの結婚式はもう明日に迫っているのだ。
今から、この素人ビデオを、あの素晴らしいPVに付け加えて編集するのか。まさか、僕のPVはバッサリカット?
「大丈夫ですよ、南部さん。あなたのPVはカットなしですって」
「別に心配はしてないよ」
斜め前に座った星名が、僕に目配せをする。
当たり前だ。あの素晴らしいPVは、演出にも凝っているんだ。どこか一部でもカットしようものなら、すべてがダメになる。
「南部さんの余興、バイオリンでしたっけ? あれをカットするそうです」
ぶはーーーーーっ!!!
乾杯の音頭と共に、僕はビールを吹き出した。
「なんだ、南部。呑めねえの?」
「いい加減に森君のことは諦めろよ?」
島も太田も笑い過ぎだ!
「違うっ! そんなんじゃないっ!」
僕は、テーブルを叩いて抗議する。
星名以外の皆がきょとんとして僕を見ている。
う、嘘だろっ!!
僕のバイオリン。
「愛の挨拶」。
あれを新郎のハーモニカと一緒に演奏するはずだったんだ。
「大砲屋のバイオリン」 を聴かせろって、古代もいつか言ってたじゃないか。(*Here We Go 参照*)
「古代、僕は、心から君たちのしあわせを願っているんだぞ?」
僕が、少し恨めし気な目で古代を見ると
「うん? ありがとう。 PVも、南部の演奏も楽しみだよ」と、新郎はいたって陽気に返答をした。
「え? 僕の演奏もPVもカットなし?」
「カット? するわけないよ。楽しみにしてるんだから」
安堵した僕は、「そうだよな! あれをカットするなんて、君たち一生の不覚だぞ?」と言って、古代の肩をバシバシと叩いた。
そんな僕を、相原が指差している。
島も、太田も面白そうに笑っている。
「は~~い、南部さん、もう泣かないで。森さんの事はすっかり諦めて二人の門出をお祝いしましょうね!」
星名が赤い舌を出しながら、安物のカメラで僕と古代を撮っていた。
2015 1202 hitomi higasino
*****
「幸せのありか Just say i do」に続くv
「マゼランパフェが食べられるカフェがあるの、南部君は知ってる?」
ああ、太田から聞いて知ってるよ、と返事すると、彼女から逢えないかと誘われたのだ。
「えっ、だって、森君、古代と結婚するんだろ。二人きりで会うのは」
と言いかけた僕に、彼女はぴしゃりと言い切った。
「古代君と私、二人からの頼みがあるんだ」
ナンブプロジェクト~キミたちのしあわせのありか
「こんなこと頼むのは、恥ずかしいんだが。雪たっての希望で」
と、切り出されたのは『披露宴で流す二人のPVを作ってくれ』というものだった。
僕の財力に期待していたのか? とんでもなく豪勢なPVを作ってほしいという希望なのかと
疑ったが、そうではないらしい。
「映画監督に知り合いがいるけど、紹介しろとは言わないんだな? それじゃあ、何を期待して僕に頼むんだ?」
「そんな無茶ぶりはしないさ。仲間にエピソードを語ってもらうくらいでいいんだ。ほら、俺も雪も家族はいないし、生い立ちを追うのも無理があるし――」
古代が言葉を濁した。森君の記憶は今も戻らないままだから、それも仕方がないことだ。
「わかった。それなら古代と森君の艦内ツーショット写真提出を要請する。ああ、そうだ。あれがいい。手を引っ叩かれてるヤツ」
古代の口が、ピクピクと引き攣った。森君はニコニコ笑ってる。
あいつ、いつの間にあんな写真を撮ってたんだ、とあの時はブリッジで噂になったもんだ。
噂の発端は、原田くんだったな。そうだ、女子の噂話は彼女に聞くとして。
航空隊隊長の、彼女の夫の顔が浮かんで、僕は眼鏡がずり落ちそうになった。
(――加藤にも一応話を聞くか)
彼らから、披露宴について聞いているうち、僕の頭の中では、すでにいくつかのバージョンが数本撮りあがっていた。
ヤマト艦内を再現するセットを作って、そこで撮影しよう。
出演する元クルーには艦内服を着て貰い、臨場感を演出する。
そこで波動砲を発射する。(これは二人への祝砲だ)派手な3Dで演出。
いや、だが、待てよ。これはお偉方の前でやってしまうと問題になるか?
それよりも、イスカンダルからの祝電の方が感動的だし、話題になるな。
「南部? おい、聞いているか? 悪いが予算はこれだけだ」
僕が遠い目をして、ニヤニヤしているのを古代は気持ち悪いと思ったのだろう。
大丈夫か?と その目が訴えかけている。
「いや、予算なんて気にするな。二人の門出を祝して、僕は」
僕が言いかけた時、「ありがとう! 南部!」と古代が強く僕の手を握った。
古代が、僕の手に握らせたのは、このカフェの「マゼランパフェ食べ放題券」十枚だった。
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マゼランパフェ食べ放題のチケットをちらつかせ、岬くんや、西条くんたちから、古代達の噂についてインタビューをして
なんとか、一本のPVに作り終えたというのに、誰が呼んだのか、星名の奴が、『森さんからのリクエストです』と再びカメラを回しているのだ。
古代達の結婚式前夜。俗にいう、『バチェラーパーティ』を期待して来たのか。残念ながら、僕たちは紳士だから、品行を崩すような真似はしないのだ。
「何を撮るんだよ? PVはもう出来上がって納品済みなんだぞ?」
古代に聞こえないよう、僕は個室の隅に星名を追いやった。
「そんな事言われても……。森さんからの命令なんですよ」
「古代を見張れって、命令なのか?」
「いいえ。そうじゃないです。ただカメラを回すだけでいいって」
「ふーん」
(納得がいかないな。僕の作ったPVに、何かが足りないのか)
「拗ねないでくださいよ、南部さん。ね? ほら古代さんが見てますよ。呑みましょう!」
星名にいいようにあしらわれた僕は、相原の呼びかけに応じる振りをして、愛想笑いを浮かべた。
彼らの結婚式はもう明日に迫っているのだ。
今から、この素人ビデオを、あの素晴らしいPVに付け加えて編集するのか。まさか、僕のPVはバッサリカット?
「大丈夫ですよ、南部さん。あなたのPVはカットなしですって」
「別に心配はしてないよ」
斜め前に座った星名が、僕に目配せをする。
当たり前だ。あの素晴らしいPVは、演出にも凝っているんだ。どこか一部でもカットしようものなら、すべてがダメになる。
「南部さんの余興、バイオリンでしたっけ? あれをカットするそうです」
ぶはーーーーーっ!!!
乾杯の音頭と共に、僕はビールを吹き出した。
「なんだ、南部。呑めねえの?」
「いい加減に森君のことは諦めろよ?」
島も太田も笑い過ぎだ!
「違うっ! そんなんじゃないっ!」
僕は、テーブルを叩いて抗議する。
星名以外の皆がきょとんとして僕を見ている。
う、嘘だろっ!!
僕のバイオリン。
「愛の挨拶」。
あれを新郎のハーモニカと一緒に演奏するはずだったんだ。
「大砲屋のバイオリン」 を聴かせろって、古代もいつか言ってたじゃないか。(*Here We Go 参照*)
「古代、僕は、心から君たちのしあわせを願っているんだぞ?」
僕が、少し恨めし気な目で古代を見ると
「うん? ありがとう。 PVも、南部の演奏も楽しみだよ」と、新郎はいたって陽気に返答をした。
「え? 僕の演奏もPVもカットなし?」
「カット? するわけないよ。楽しみにしてるんだから」
安堵した僕は、「そうだよな! あれをカットするなんて、君たち一生の不覚だぞ?」と言って、古代の肩をバシバシと叩いた。
そんな僕を、相原が指差している。
島も、太田も面白そうに笑っている。
「は~~い、南部さん、もう泣かないで。森さんの事はすっかり諦めて二人の門出をお祝いしましょうね!」
星名が赤い舌を出しながら、安物のカメラで僕と古代を撮っていた。
2015 1202 hitomi higasino
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「幸せのありか Just say i do」に続くv
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。
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