ピーーーーーッ!!

まどろんでいた雪は、けたたましく鳴るケトルの湯気の向こうに、揺らぐ古代の姿を見つけてベッドの上に起きあがった。

(古代君……)
「おはよ。雪、起きたの?」
(古代君、私もそれ飲みたい!!)

古代はボサボサの寝癖のついた髪のまま、まだ湯気の立つマグカップに口をつけていた。
寝起きの雪は、目だけで古代に訴えかけてくる。
「……わかったよ、これ飲みたいって顔してるな。待ってて」
古代が彼女を置いて、ベッドから離れようとすると、雪は、<行かないで!>とばかりに古代に抱きついた。

「ちょっ、危ないじゃないか」
マグカップ片手にそう言う古代は、まんざらでもなさそうだ。
テーブルにカップを置き、雪を抱き上げてボサボサ頭を雪にスリスリなすりつける。

「可愛いな」
古代が雪に顔を近づけようとすると、今度は雪が積極的に古代の唇をペロペロ舐めはじめる。
「わかった、わかった。早くしろって言いたいんだろ?」
古代は笑顔のままキッチンに向かう。程無くしてカフェオレボウルになみなみと注がれたホットミルクを持って雪の待つダイニングに戻ってきた。

「君は猫舌だから少し温めにしておいた」
ハイ、と差し出されたホットミルクに、雪はそっちじゃないのと言いたくなった。

(あなたが欲しいの)
俯いた雪の頭を、彼は優しく何度も撫でている 。
雪は切なくなった。

「ニャア」







***


「ん? にゃあ?」

再び雪はまどろみの中で目覚めた。
自分の声に驚いて。
驚いたのは彼も同じだったようだ。

「どうしたの? 猫にでもなった?」
逞しい腕が雪を抱き寄せながら、耳元でささやいた。

「ん……、猫になった私に、古代君がホットミルク作ってくれるの」
「フーン。それって、作ってほしいって言ってる?」
雪は、背中から抱きしめてきた彼に寝返りを打って向かい合わせになる。
古代が夢の中でそうしたように、雪は彼の胸に頬を擦り付けた。

「おねがい。飲みたい」
「はいはい。ホント猫みたいだな」
彼は床に落ちていたパジャマのズボンを穿き、寒くないようにブランケットを彼女の首元まで上げてやった。

「雪も起きておいで。ホットミルク作っておくから」
「うん、にゃあ」
ふざけた雪は、招き猫のように握った手で、古代に向かって<おいでおいで>してみせた。

「そんな声出しても、ここまで持ってこないからな」
彼は、雪の耳朶にキスをしながらそう告げた。
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