「第一回ヤマトイクメン教室」
ここはヤマトの食堂。
非番の時間も有効に、ということで無理矢理山崎応急長が
講師に抜擢され、若き”イクメン”候補生の前で頬を紅潮させている。
『ええ??私が、ですか?』
『そうだ。君が適任だと意見が一致したのでな』
『山崎さんにしか、こんなこと頼めません。お願いします』
『子育て経験者で、一番最近経験しているだろう?』
『最近って言ったって…』
『まあ、いいじゃないか。人生の先輩として若者たちを導いてやってくれ』
『はあ…』
徳川機関長と平田主計長にそう懇願されては、断りきれない。
かくして山崎奨応急長は、”ヤマトイクメン”教室の講師としてここに立っている。
マニュアルはどうにも間に合わせの突貫ものであることは否めない。
「こんなのどこからひっぱり出してきたんだ?」
「さあ?平田主計長が夜鍋で作成していたみたいで」
集ったのは20人ほど。
イクメンメンバーは着席するなり、そわそわし出した。
「うわ、あいつも居る。え?機関科のあの人もそうなのか?」
「いいや、あの人は山さんの補佐さ。経験者」
「うへえ。既婚者だったのか」
なんだか気恥ずかしいのだ。こんな場所に一同に集められて。
中には好奇の目で見やがるヤツもいるし。
特に加藤は真面目に聞いちゃいられない。
からかいの対象になるようなら、と辺りに鋭い視線を投げつけ、
四六時中好戦的である。
<なんか、文句あんのかっ、おまえらっ!!>と目が凄んでいる。
「あの人、一番ちゃんと聞かないといけないのに、さっきからずっとあの態度ですよ」
「篠さんが、シフトの関係で欠席だからな。抑えがいないのさ」
「とりあえず、”イクメン”メンバー、全員そろったのか?」
「はい、あ、いえ、シフトの関係で、古代、篠原両名欠席です」
「うむ、二人にはあとでマニュアルを渡しておくように。いいな?加藤」
「はい。了解しました」
「ここでは、敢えて名前で呼ばせてもらいます。皆さん、いいですね?
地球に着くまでの2か月間、しっかり勉強していきましょう!」
妊婦疑似体験ベルトを装着して、食堂内一周。(これは技術科提供)
本物そっくりの新生児人形を抱く訓練。(これも技術科提供)
いちいち、どよめきが起こる。
「ほお~~、こんなに重たいってのか。あいつ、大変なんだ」
「そうだぞ、嫁さん大事にしないとな」
「これ、腰に悪いっす。俺なら腰痛持ちになりそう…」
そうだろそうだろ、と応急長。嬉しそうに頷いている。
さっきまで廻りを気にして、噛みつかんばかりの勢いだった航空隊隊長は。
新生児人形を恐る恐るといった具合で抱いている。
腰は思いっきり引けている。
顔を強張らせたままである。
「あーあ、加藤さん、そんな怖い顔してちゃ、赤ちゃんに懐かれませんよ!」
「ただでさえ、強面なのに……」
どこからともなく出た軽口に、いつもなら素早く反応する加藤が、何故だかぴくりとも動かない。
いや、腕や肩は小刻みに震えているのだが。
「こんな、ちっちぇえんだな」
ぽつりと漏らすその眼にはうっすら光るものを浮かべている。
「でも、重いだろ?柔らかくて、グラグラしてて」
「はい」
「しっかり抱いてやらんと、本物の赤ん坊は不安になって泣き出すぞ」
「そうなんですか。はい、え、どうやったらいいですか??」
「こうやってな、頭の下にしっかり腕を通してやると安定するぞ、やってみろ」
山崎はなかなかいい手つきで加藤に答えた。
一通りの講義を終え、後を片付ける”イクメン”たち。
船務科のイクメンが言う。
「自分も言える立場にないのですが……艦内のシフトを組み直すのが、大変なんです。船務長は妊婦さんだし…」
「ああ、替われるものならダンナが交代するってのはどうだ?」
「いや、専門分野なんですから、無理ですよ」
「復路の戦術科は、暇なことが多いんですから、なんか、こう、不公平感があるよな…」
「そうだ、戦術科トップの古代に、加藤、篠原、北野、みんな暇じゃねえか!」
「そうだ、そうだ!」何故だか外野の機関科クルーが顔を突っ込んでくる。
「ああ。不公平感は感じるぞ。うちの若いもんがこの教室に一人もいないってどういうことだ?」
と、これは既出の山崎の補佐を務めた機関科クルー。
「ちょ、待てよ。暇じゃねえって。俺らずっと詰所で待機してなきゃならんのだぞ??」
(お、北野のヤロー後ろに隠れやがった!!!)
なんで、此処に古代も篠原も居ねえんだ!と加藤は、居ない二人に八つ当たりしたくなってくる。
再び頭から火を噴く勢いの加藤に、落ち着けと山崎は軽くいなす。
「ああ、そういうことなら、次回開催の”イクメン教室”は戦術科の4人を班長にして
グループ研修を行おう。それで文句はないですね?」
「は~~い」
「異議なし!」
あちこちのテーブルから聞こえてくる賛同の声に、山崎も気をよくして
にこやかに立ち上がった。
「えー、第二回開催につきましては、艦内シフト決定後速やかにメンバーに通達されます。
それでは”第一回ヤマトイクメン教室”終了です。解散!」
それぞれ所属の科は別のイクメンたちの間には、講義が終わった頃になると和気藹々といった空気が流れていた。
「山崎さん…」
恨めし気にジト目で睨む加藤隊長。
「まあ、そういうことだ。しっかりやってくださいよ」
「はい、これエプロンです。次回戦術科の班長4人はこれを着てください」と、平田主計長。
ブルーの生地のエプロンで胸当てに刺繍が施されていた。(主計課提供)
『ヤマトイクメン教室 班長ブラボー1』
それを見て、<こいつは、仕組まれた罠だったのか!>と天を仰ぐ加藤だった。
ここはヤマトの食堂。
非番の時間も有効に、ということで無理矢理山崎応急長が
講師に抜擢され、若き”イクメン”候補生の前で頬を紅潮させている。
『ええ??私が、ですか?』
『そうだ。君が適任だと意見が一致したのでな』
『山崎さんにしか、こんなこと頼めません。お願いします』
『子育て経験者で、一番最近経験しているだろう?』
『最近って言ったって…』
『まあ、いいじゃないか。人生の先輩として若者たちを導いてやってくれ』
『はあ…』
徳川機関長と平田主計長にそう懇願されては、断りきれない。
かくして山崎奨応急長は、”ヤマトイクメン”教室の講師としてここに立っている。
マニュアルはどうにも間に合わせの突貫ものであることは否めない。
「こんなのどこからひっぱり出してきたんだ?」
「さあ?平田主計長が夜鍋で作成していたみたいで」
集ったのは20人ほど。
イクメンメンバーは着席するなり、そわそわし出した。
「うわ、あいつも居る。え?機関科のあの人もそうなのか?」
「いいや、あの人は山さんの補佐さ。経験者」
「うへえ。既婚者だったのか」
なんだか気恥ずかしいのだ。こんな場所に一同に集められて。
中には好奇の目で見やがるヤツもいるし。
特に加藤は真面目に聞いちゃいられない。
からかいの対象になるようなら、と辺りに鋭い視線を投げつけ、
四六時中好戦的である。
<なんか、文句あんのかっ、おまえらっ!!>と目が凄んでいる。
「あの人、一番ちゃんと聞かないといけないのに、さっきからずっとあの態度ですよ」
「篠さんが、シフトの関係で欠席だからな。抑えがいないのさ」
「とりあえず、”イクメン”メンバー、全員そろったのか?」
「はい、あ、いえ、シフトの関係で、古代、篠原両名欠席です」
「うむ、二人にはあとでマニュアルを渡しておくように。いいな?加藤」
「はい。了解しました」
「ここでは、敢えて名前で呼ばせてもらいます。皆さん、いいですね?
地球に着くまでの2か月間、しっかり勉強していきましょう!」
妊婦疑似体験ベルトを装着して、食堂内一周。(これは技術科提供)
本物そっくりの新生児人形を抱く訓練。(これも技術科提供)
いちいち、どよめきが起こる。
「ほお~~、こんなに重たいってのか。あいつ、大変なんだ」
「そうだぞ、嫁さん大事にしないとな」
「これ、腰に悪いっす。俺なら腰痛持ちになりそう…」
そうだろそうだろ、と応急長。嬉しそうに頷いている。
さっきまで廻りを気にして、噛みつかんばかりの勢いだった航空隊隊長は。
新生児人形を恐る恐るといった具合で抱いている。
腰は思いっきり引けている。
顔を強張らせたままである。
「あーあ、加藤さん、そんな怖い顔してちゃ、赤ちゃんに懐かれませんよ!」
「ただでさえ、強面なのに……」
どこからともなく出た軽口に、いつもなら素早く反応する加藤が、何故だかぴくりとも動かない。
いや、腕や肩は小刻みに震えているのだが。
「こんな、ちっちぇえんだな」
ぽつりと漏らすその眼にはうっすら光るものを浮かべている。
「でも、重いだろ?柔らかくて、グラグラしてて」
「はい」
「しっかり抱いてやらんと、本物の赤ん坊は不安になって泣き出すぞ」
「そうなんですか。はい、え、どうやったらいいですか??」
「こうやってな、頭の下にしっかり腕を通してやると安定するぞ、やってみろ」
山崎はなかなかいい手つきで加藤に答えた。
一通りの講義を終え、後を片付ける”イクメン”たち。
船務科のイクメンが言う。
「自分も言える立場にないのですが……艦内のシフトを組み直すのが、大変なんです。船務長は妊婦さんだし…」
「ああ、替われるものならダンナが交代するってのはどうだ?」
「いや、専門分野なんですから、無理ですよ」
「復路の戦術科は、暇なことが多いんですから、なんか、こう、不公平感があるよな…」
「そうだ、戦術科トップの古代に、加藤、篠原、北野、みんな暇じゃねえか!」
「そうだ、そうだ!」何故だか外野の機関科クルーが顔を突っ込んでくる。
「ああ。不公平感は感じるぞ。うちの若いもんがこの教室に一人もいないってどういうことだ?」
と、これは既出の山崎の補佐を務めた機関科クルー。
「ちょ、待てよ。暇じゃねえって。俺らずっと詰所で待機してなきゃならんのだぞ??」
(お、北野のヤロー後ろに隠れやがった!!!)
なんで、此処に古代も篠原も居ねえんだ!と加藤は、居ない二人に八つ当たりしたくなってくる。
再び頭から火を噴く勢いの加藤に、落ち着けと山崎は軽くいなす。
「ああ、そういうことなら、次回開催の”イクメン教室”は戦術科の4人を班長にして
グループ研修を行おう。それで文句はないですね?」
「は~~い」
「異議なし!」
あちこちのテーブルから聞こえてくる賛同の声に、山崎も気をよくして
にこやかに立ち上がった。
「えー、第二回開催につきましては、艦内シフト決定後速やかにメンバーに通達されます。
それでは”第一回ヤマトイクメン教室”終了です。解散!」
それぞれ所属の科は別のイクメンたちの間には、講義が終わった頃になると和気藹々といった空気が流れていた。
「山崎さん…」
恨めし気にジト目で睨む加藤隊長。
「まあ、そういうことだ。しっかりやってくださいよ」
「はい、これエプロンです。次回戦術科の班長4人はこれを着てください」と、平田主計長。
ブルーの生地のエプロンで胸当てに刺繍が施されていた。(主計課提供)
『ヤマトイクメン教室 班長ブラボー1』
それを見て、<こいつは、仕組まれた罠だったのか!>と天を仰ぐ加藤だった。
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
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