「His sit-up」(湯上り古代くん)
「古代くん、いる?」
展望室にも、食堂にも、格納庫にもいなかった。
と、すればここしかない。
彼の部屋を訪ねるのは初めてだ。
(声がうわずっちゃった)
雪はタブレットを抱きしめ、緊張しつつ、古代を呼び出す。
何度もブザーを押すが、中からの応答はない。
非番時間になる前に、どうしてもこれだけは戦術長に承認を得たかった。
引き継ぐ西条に説明しておかなければ、自分もゆっくり休めないからだ。
(おかしいな。ここに居るはずなんだけど)
意を決して、雪は思いつくままの認証番号をタッチした。
認証エラーのブザーが鳴ると、中にいるはずの古代にも聞こえるはずだし
仮に居なかったとしてもどこかにいる彼のもとに知らせが伝わるはずだ。
少々手荒い呼び出し方にはなるけれど一刻も早く古代に会わなければ。
緊張して、その時を待つ。
はずだったのに。
わけなくドアは開いてしまった。
「あ、開いちゃった……」
(古代くんたら、部屋の認証番号は二か月ごとに変えなきゃいけないのに
乗艦当初のまんまじゃないの!)
船務長としても、これは一言いっておかないと。
用があって来たのだから。と自分に言い訳をして、雪はドアの内側に入る。
部屋の照明は点けっぱなしである。
(と、いうことは中にいるのね?)
雪は、恐る恐る足を踏み入れた。
「いないのかしら?」
ボードに貼られていた写真の中の一枚を見て、雪の頬は緩んだ。
他の写真よりも大きくプリントされた写真には、自分と彼が映っている。
(ちゃんと飾ってくれてたんだ)
手に持っていたタブレットを、ベッドの上に置き、身を乗り出して
しげしげと他の写真も見ていると、奥のドアが開いた。
「え?」
「きゃあああああああっ!!」
「な、なんでここに雪がいるんだよ!?」
ドアノブを掴んだまま固まっている古代。
上半身は、裸である。
(ええええええ!? ハ、ハダカ??? ち、違った?)
古代は、どうやらシャワーを浴びていて、全く聞こえなかったようだ。
雪の脳裏に(水も滴るイイオトコ)という言葉が木霊した。
濡れた髪を、バスタオルでガシガシ拭きながら出てきた古代は、
取りあえず、今日に限ってスエットパンツを履いて出てこれた事に感謝した。
「どうしても! 今日中に古代くんに承認してもらわないといけないことがっ」
「どうやって入ったんだ?」
「呼んでも出てこないから、仕方なく認証番号を押したんじゃない。
あ、番号変えなきゃだめよ?」
「……わかった。突っ立ってないで座って待ってれば?」
もじもじして、いつもの雪らしくない態度に
若干の違和感を覚えながらも、なんとなく彼女の行動の意味を
理解した古代は、そんなに慌てるそぶりもなく、マイペースだ。
「急ぐの?」
「うん。昨日気づいた時点で確認しておけばよかった。非番時間にごめんなさい」
古代のいつも通りの対応に、雪も冷静さを取り戻しつつあった。
「別に構わないよ。暇だし」
古代は首からさげたタオルで額の水滴を拭いながら、雪の抱えたタブレットを覗き込む。
「どの懸案なの?」
恥ずかしくてタブレットのタッチパネルを凝視していた雪と、見下ろす古代の目が合う。
前髪から水滴を滴らせて、いきなり近づいてきた古代に、雪の鼓動は再び跳ね上がった。
液晶の画面にポタポタと滴が落ち、丸く盛り上がる。
「ちょっと、だめじゃないの!」
「え?」
「髪、乾かしなさい」
雪は視線だけを古代に向けて、口を尖らせた。
「う、うん」
如何にも『怒ってます』という顔で古代を睨みながら、雪は彼の前髪を引っ張った。
「よく乾かさなきゃだめよ。いつも濡れたままベッドに入って寝ちゃうんじゃないの?」
「母さんみたいなこと言うんだな」
「古代くんが、子どもみたいなことしてるからよ」
まったく世話のかかる子ねぇと雪は怒っていた。(実際は恥ずかしがっていただけ)
「乾かしてあげるから、こっちに座って」
「ますます母さんみたいだ」
「変な事言わないで」
「ハイハイ」
古代が素直に雪に背を向けてベッドに腰掛けると、途端に雪は表情を崩して嬉しそうに笑った。
雪は、古代の座る場所を空けて、後ろに下がり、膝立ちになる。
彼の浅めに穿いていたスウェットパンツから、腰骨がのぞいている。
(ヤ、ヤダ。ドキドキするじゃない……)
自分の動揺を誤魔化すように、雪は彼の首からしゅるりとタオルを奪った。
(あ)
タオルで隠れていた彼の上半身が、露わになった。
雪は焦る。見ないでおこうと思うのに、視線は彼の腹筋にくぎ付けとなる。
(わ、割れてるんだ……)
彼の細身の身体からは想像できない腹筋に、雪は驚いた。
軽い抱擁は、何度か経験していた。
ビーメラ4から帰投した彼に抱きついた時。第二バレラスから助け出されて
無事を喜び合った時。そして彼の気持ちを確認できたあの時。
いずれも、彼は優しく雪を抱き寄せ、包み込むように抱いたのだった。
(こんなに逞しい体だったんだ……)
引き締まった古代の腹に、思った以上厚い胸板に、筋肉質な二の腕に
雪は今更ながら驚き、ドキドキするのだった。
タオルを持ったまま、止めてしまった手が小刻みに震えだした。
「どうかした?」
「なんでも、ない……」
急に静かになった雪を訝しんで、古代は疑問を投げかけた。
「俺が何かした?」
古代は、彼女の手首を掴み、雪を振り返った。
(きゃあああああ~~~、こ、こっち向かないでよぉ)
「なんで赤くなってるの? 熱でもあるんじゃないのか? 脈も速いし」
「ない、ない、ないっ! 大丈夫!」
古代は、濡れた髪もそのままで、彼女の額に
自分の額を近づけようとして、阻止された。
「大丈夫じゃなさそうだけど?」
どうして雪がいきなり態度を変えたのか、古代には全く理解できない。
「あ、あのっ、承認もらわないとっ! 私、引き継ぎしなきゃっ」
「う、うおっ!?」
雪は、彼の手を勢いよく振り切った。
そして古代の顔目掛けてバスタオルを投げつけた。
脱兎のごとく逃げ出したのだ。
「ちょっ、待てよ!」
古代は、雪を引き留めようと立ちあがった。
床に落ちたバスタオルに足を取られる。
前につんのめりながらも、古代はなんとか雪に近付いた。
「来ないで! 古代くんのエッチ!」
「はあああああ???」
寝耳に水。
晴天の霹靂。
虚を衝かれる、とはこのことか。
驚きのあまり言葉を失った古代の様子に構わず、雪は部屋を出て行った。
(……俺、彼女に何かしたか??)
必死に思い出そうとするが、思い当たる節はない。
「いったい、彼女、何しに来たんだ……」
ベッドの上に放り出されたタブレットは、バッテリー切れを起こして点滅し始めていた。
end
2013 1225 hitomi higasino
コラボイラスト:ココママさま
協力:2199古代と雪を愛でる人々(楽しかった!ありがとうございました)
「古代くん、いる?」
展望室にも、食堂にも、格納庫にもいなかった。
と、すればここしかない。
彼の部屋を訪ねるのは初めてだ。
(声がうわずっちゃった)
雪はタブレットを抱きしめ、緊張しつつ、古代を呼び出す。
何度もブザーを押すが、中からの応答はない。
非番時間になる前に、どうしてもこれだけは戦術長に承認を得たかった。
引き継ぐ西条に説明しておかなければ、自分もゆっくり休めないからだ。
(おかしいな。ここに居るはずなんだけど)
意を決して、雪は思いつくままの認証番号をタッチした。
認証エラーのブザーが鳴ると、中にいるはずの古代にも聞こえるはずだし
仮に居なかったとしてもどこかにいる彼のもとに知らせが伝わるはずだ。
少々手荒い呼び出し方にはなるけれど一刻も早く古代に会わなければ。
緊張して、その時を待つ。
はずだったのに。
わけなくドアは開いてしまった。
「あ、開いちゃった……」
(古代くんたら、部屋の認証番号は二か月ごとに変えなきゃいけないのに
乗艦当初のまんまじゃないの!)
船務長としても、これは一言いっておかないと。
用があって来たのだから。と自分に言い訳をして、雪はドアの内側に入る。
部屋の照明は点けっぱなしである。
(と、いうことは中にいるのね?)
雪は、恐る恐る足を踏み入れた。
「いないのかしら?」
ボードに貼られていた写真の中の一枚を見て、雪の頬は緩んだ。
他の写真よりも大きくプリントされた写真には、自分と彼が映っている。
(ちゃんと飾ってくれてたんだ)
手に持っていたタブレットを、ベッドの上に置き、身を乗り出して
しげしげと他の写真も見ていると、奥のドアが開いた。
「え?」
「きゃあああああああっ!!」
「な、なんでここに雪がいるんだよ!?」
ドアノブを掴んだまま固まっている古代。
上半身は、裸である。
(ええええええ!? ハ、ハダカ??? ち、違った?)
古代は、どうやらシャワーを浴びていて、全く聞こえなかったようだ。
雪の脳裏に(水も滴るイイオトコ)という言葉が木霊した。
濡れた髪を、バスタオルでガシガシ拭きながら出てきた古代は、
取りあえず、今日に限ってスエットパンツを履いて出てこれた事に感謝した。
「どうしても! 今日中に古代くんに承認してもらわないといけないことがっ」
「どうやって入ったんだ?」
「呼んでも出てこないから、仕方なく認証番号を押したんじゃない。
あ、番号変えなきゃだめよ?」
「……わかった。突っ立ってないで座って待ってれば?」
もじもじして、いつもの雪らしくない態度に
若干の違和感を覚えながらも、なんとなく彼女の行動の意味を
理解した古代は、そんなに慌てるそぶりもなく、マイペースだ。
「急ぐの?」
「うん。昨日気づいた時点で確認しておけばよかった。非番時間にごめんなさい」
古代のいつも通りの対応に、雪も冷静さを取り戻しつつあった。
「別に構わないよ。暇だし」
古代は首からさげたタオルで額の水滴を拭いながら、雪の抱えたタブレットを覗き込む。
「どの懸案なの?」
恥ずかしくてタブレットのタッチパネルを凝視していた雪と、見下ろす古代の目が合う。
前髪から水滴を滴らせて、いきなり近づいてきた古代に、雪の鼓動は再び跳ね上がった。
液晶の画面にポタポタと滴が落ち、丸く盛り上がる。
「ちょっと、だめじゃないの!」
「え?」
「髪、乾かしなさい」
雪は視線だけを古代に向けて、口を尖らせた。
「う、うん」
如何にも『怒ってます』という顔で古代を睨みながら、雪は彼の前髪を引っ張った。
「よく乾かさなきゃだめよ。いつも濡れたままベッドに入って寝ちゃうんじゃないの?」
「母さんみたいなこと言うんだな」
「古代くんが、子どもみたいなことしてるからよ」
まったく世話のかかる子ねぇと雪は怒っていた。(実際は恥ずかしがっていただけ)
「乾かしてあげるから、こっちに座って」
「ますます母さんみたいだ」
「変な事言わないで」
「ハイハイ」
古代が素直に雪に背を向けてベッドに腰掛けると、途端に雪は表情を崩して嬉しそうに笑った。
雪は、古代の座る場所を空けて、後ろに下がり、膝立ちになる。
彼の浅めに穿いていたスウェットパンツから、腰骨がのぞいている。
(ヤ、ヤダ。ドキドキするじゃない……)
自分の動揺を誤魔化すように、雪は彼の首からしゅるりとタオルを奪った。
(あ)
タオルで隠れていた彼の上半身が、露わになった。
雪は焦る。見ないでおこうと思うのに、視線は彼の腹筋にくぎ付けとなる。
(わ、割れてるんだ……)
彼の細身の身体からは想像できない腹筋に、雪は驚いた。
軽い抱擁は、何度か経験していた。
ビーメラ4から帰投した彼に抱きついた時。第二バレラスから助け出されて
無事を喜び合った時。そして彼の気持ちを確認できたあの時。
いずれも、彼は優しく雪を抱き寄せ、包み込むように抱いたのだった。
(こんなに逞しい体だったんだ……)
引き締まった古代の腹に、思った以上厚い胸板に、筋肉質な二の腕に
雪は今更ながら驚き、ドキドキするのだった。
タオルを持ったまま、止めてしまった手が小刻みに震えだした。
「どうかした?」
「なんでも、ない……」
急に静かになった雪を訝しんで、古代は疑問を投げかけた。
「俺が何かした?」
古代は、彼女の手首を掴み、雪を振り返った。
(きゃあああああ~~~、こ、こっち向かないでよぉ)
「なんで赤くなってるの? 熱でもあるんじゃないのか? 脈も速いし」
「ない、ない、ないっ! 大丈夫!」
古代は、濡れた髪もそのままで、彼女の額に
自分の額を近づけようとして、阻止された。
「大丈夫じゃなさそうだけど?」
どうして雪がいきなり態度を変えたのか、古代には全く理解できない。
「あ、あのっ、承認もらわないとっ! 私、引き継ぎしなきゃっ」
「う、うおっ!?」
雪は、彼の手を勢いよく振り切った。
そして古代の顔目掛けてバスタオルを投げつけた。
脱兎のごとく逃げ出したのだ。
「ちょっ、待てよ!」
古代は、雪を引き留めようと立ちあがった。
床に落ちたバスタオルに足を取られる。
前につんのめりながらも、古代はなんとか雪に近付いた。
「来ないで! 古代くんのエッチ!」
「はあああああ???」
寝耳に水。
晴天の霹靂。
虚を衝かれる、とはこのことか。
驚きのあまり言葉を失った古代の様子に構わず、雪は部屋を出て行った。
(……俺、彼女に何かしたか??)
必死に思い出そうとするが、思い当たる節はない。
「いったい、彼女、何しに来たんだ……」
ベッドの上に放り出されたタブレットは、バッテリー切れを起こして点滅し始めていた。
end
2013 1225 hitomi higasino
コラボイラスト:ココママさま
協力:2199古代と雪を愛でる人々(楽しかった!ありがとうございました)
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。
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