少女は一旦会場を後にした。

ごめん、と言って頭を下げた少年は、短くそろえたクセのある髪を必死に撫でつけていた。
少女が振り返って自分のそんな姿を見ているのも気づかないようで、ポケットに手をつっこんだり
帽子の歪みを正したりしてソワソワしていた。


「ヘンな子」
思っていた言葉が口から出て、少女はそんな自分に驚いた。
父親と思われる男は、優しく笑いながら娘を諌めた。
「今日は来賓として招かれたのだから、大人しくしていなければいけないよ、雪」
「わかってる。さっきだってあの子がへんな事いうから、私」
「ん? さっきの男の子かい? 喧嘩したのか?」
「そんなことしないわ。私はもう子どもじゃないんだから!」
「そうかい?」
「失礼な事言ったから、怒ったの。そしたら『ごめん』って」
「それで雪は、その子を許したのかい? 君の態度も良くなかったよ」
「あ、私……。許したわ。心の中で」
「いいよって言えなかったの?」
「イーーーーダって言っちゃった……」

少女は父親の腕から、組んでいた自分の手を解き、歩を止めた。
雪は、頭が良く弁が立つが、根は優しい女の子だ。
少々プライドが高いところがあるので、それをへし折られる事象に遭遇すると
思わずかっとなってしまうところがあった。

「お父さん、先に控室に行ってて。私、会場に忘れ物しちゃった!」
男は、目を細めて娘を見た。
「ああ、わかった」(仲直りしておいで)

父親の言葉を待たずに、少女は来た道を走っていく。
「雪! 走っちゃだめだぞ」
「はあーい」

親子の横を大股で歩く青年が、雪を追い越して先に会場に入って行った。
「おーい、進!戻ったぞ! 何処にいる?」と叫びながら。

「兄さん、そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ」
少年は顔を赤くして、大柄な青年に笑いかけていた。

大きくてブカブカな帽子の中で、少年の優しい瞳が笑っていた。
目深に被っていた帽子のせいで、さっきはその顔がよく見えなかったのだ。
会場の入り口まで来て、雪はじゃれついている兄弟をぼんやり眺めていた。

すると進はそんな雪の存在を見とめ、(おや?)といった顔を向けた。

「お、おめでとう!」

雪の声は会場にこだまする位大きく響いて、兄の守までその様子に驚いて振り返った。
「え?」
「だって、今日入学するんでしょ? だから!」
「あ、ありがとう。さっきは」
「じゃあ!」
二人から同じように大きく見開かれた目で見つめられると、雪は息苦しさを感じて
そこから逃げ出したくなったのだ。

まだ怒ってると勘違いされたのだろうか。
またしても謝ろうとした少年に、正直になれない自分を見透かされたように感じてイライラしているのかもしれない。

あの子、ススムっていうんだ。
なんだか恥ずかしい。もう来賓席には座れない。
わけのわからない気持ちを抱え込んでしまって、雪は途方に暮れながら控室に向かった。


ハツコイユキ

イラストby高梨じぇるさま
きゃあ~~~、こっちももらっちゃいましたよ! かわいい♪ 素直になれないツンツン雪ちゃんの素顔はこちら♪
初恋編の古雪を描いてくださったんです! 滅茶苦茶可愛いの~~~~。追加もあるかもしれない。。。期待してお待ちしております!!
じぇるさま、ありがとうございました!!

2014 0605 hitomi higasino
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