「Boy Meets Girl 」

その日古代は、島や士官候補生学校の友人数人と共に、ショッピングモールへ買い物に
来ていた。出張中の兄から送られてきた小遣いで、誕生日のプレゼントを買う為に。
「何を買う?」
「うーん。何がいいかなあ? まだ決めてないんだ」
古代達は、下の階へと降りるエスカレーターに乗った。久しぶりの外出許可に興奮し、
体を乗り出している。短く切りそろえられた頭が、きょろきょろと辺りを見渡していた。
島は、エントランスで手渡されたチラシをじっと見つめ、古代に「これだ!」と叫んだ。
「何だよ?」
古代達は顔を突き合わせ、島の手元を覗き込む。

「本日、2時からイベントホールにて抽選会。短冊に欲しいものを書けば
抽選で5名様に、店内商品をプレゼント!だとさ」
「3歳から16歳までの方に限ります」
「大丈夫! 古代は今日で16だし。俺も15だし。平田さんは……残念です」
それじゃあ皆で行こうと言うことになり、一行は、先ずイベントホールを目指した。
そして各々短冊用紙を手に取り、”願い事欄”のみを空欄にして名前を書き込んだ。
「よし、じゃあ30分後にここで集合な! 好きなものを見つけてくるぞ!」
島は大張り切りで、真っ先に走って行ってしまった。
「俺の誕生日プレゼントを選ぶのが目的じゃなかったのかよ……」
古代は、友人たちの行動の速さに唖然として立ち尽くしていた。




雪は、両親とともに街のモールに買い物に来ていた。
ガミラスからの遊星爆弾攻撃により、人類は地下に都市を建設し、移住していた。
雪にとって暗い穴倉生活での楽しみは、両親との買い物だった。
留守がちな父親も、今日は珍しく家に居た。雪は小さな子どものように、両親に買い物に
連れて行くようねだったのだった。
一通りの買い物を済ませた雪たちは、イベントホールに出てきていた。
「七夕お買いものプレゼント?」
「短冊に欲しいものを書くと、当たるかもしれないのですって」
「お父さん! 私これやりたい!」
雪は目を輝かせ、さっさと短冊用紙を取りに行く。
「雪の欲しいものは、全て買っただろう? まだ欲しいものがあるのかい?」
「短冊に何か書くなんて久しぶりなんだもん。書いてお願いごとしてみたい」
「なんて書くんだ?」
「来年もお父さんとお母さんと、一緒にここに来れますようにって」
「あら? 欲しいものを書くんじゃないのね?」
雪はすらすらと願い事を短冊に書き、イベントホールの向こうにある笹に、括りつけに行く。
「そこで待ってて。すぐに戻るから」
「はいはい。寄り道するんじゃないぞ」
雪は両親に手を振り走って行った。





友人たちと離れ、古代は自分のTシャツを買い、兄の分も買おうと財布を見る。
が、帰りの運賃を差し引くとわずかに足りない。
「兄ちゃんのTシャツを短冊に書こうかな」
兄はこんな自分を、きっと『欲のないヤツだな』と言って笑うのだ。
レジでつり銭を受け取り、財布に仕舞った瞬間だった。

「きゃあ!」
「またかよっ!」
「大丈夫です! 慌てないで! すぐに電源は回復しますので」

店内の電源が全て落ちたのだ。停電で真っ暗だ。
非常灯の数は少なく、目が慣れるまでは迂闊に動かない方がいいだろうと、古代は判断した。
後ずさりした古代は、誰かとぶつかった。

「きゃっ!! ごめんなさい」」
「あっ、すみません」

互いに真っ暗闇のなかで、咄嗟に相手に謝った。
「大丈夫ですか?」
「はい。ええ。大丈夫」
古代は声のする方に向かって尋ねると、相手の声はすぐそばから聞こえた。
「……停電って多いの?」
「うん。まあ。時々ある」
女の子の声に、聞き覚えがあるような気がした古代は、それが誰だったかを
必死で思い出そうとしていた。

「君、この近くに住んでるの?」
「……」
急に自分のことを尋ねてきた男の子に、雪は身構えてしまう。
「なんでそんなこと訊くの?」
「あの、いや、ごめん……」
「?」
(変な男の子)

そして雪も、このシチュエーションに覚えがあるような気がして、男の子の方を見た。

残念ながら何も見えない。
見えないが。



「ピアノ……」
呟きが耳に入り、それが何を意味するのか雪は理解した。
「あの時の子! 私のピアノを『ひっでえな」って言ったあの子ね!」
「やっぱりか! 君だと思った! 声がツンツンしてるからな」
「それ、どういう意味?」(やっぱりイジワルな子だわ! ちょっとでも素敵だなんて思って損した)
「そのまんまの意味だけど?」(黙ってれば可愛いって思ったけど、そうでもなかったみたいだ)



「おーい、古代? 居るか?」
遠くの方から島の声が聞こえてきて、古代は「ここだ! ここにいる」と答えた。
「コダイクンっていうの?」
女の子の呼んだ『コダイクン』の響きに、古代はドキリとした。
「えっ、ああ。そうだけど……」
「……」
「……」
「君の名前、訊いてもいい?」
「私は……」



店内がざわめきだした。一部で非常灯がつき、人が流れ出したのだ。
「おい、古代!! 誰と話してるんだ? 平田さんに会ったか?」
「いや。停電してから誰とも会ってない!」
島の声がする後ろの方に向き直って、古代は大声でそう答えた。

「古代! 島ーーーっ! 俺はここだぞ!!」
ずっと奥の方から、低い声で平田が話しかけてきたのを聞いて、古代も島も「こっちだ!」と
大声で呼び合った。


雪は、古代から少しずつ離れて行った。きっともうじき電源が回復して照明がつく。
コダイクンを見てみたいとは思ったが、自分の姿を見られるのは恥ずかしいと思ったのだ。
やがて照明がつき始める。
島も平田も駆け寄ってきた。古代が振り返ると、そこに女の子はいなかった。

「あれ? ここにさ、女の子がいなかったか?」
「女の子! おまえ女の子としゃべってたの? 停電中ずっと?」
「ずっとってわけでもないけど。名前訊き忘れた」
「暗闇だったろ? 可愛い子かどうかなんてわかりもしないのに?」
「うそだろーーー! 古代! お前ナンパしてたのか!!」
島たちが、勝手に盛り上がっている横で、古代は辺りを見渡してその子を探した。
(あ!)
上がっていくエスカレーターに、少女らしき姿を見つけたのだった。
しかし無情にも交差する降下用の影に隠れてしまって、確かめることが出来なかった。



(また逢えるかな……)
そこに彼女の姿はなかったが、古代は、上がっていくエスカレーターをずっと見送っていた。




end




2014 0622 hitomi higasino


あったらいいなの捏造初恋SS2作の続編。これにて終わりです。

bmg じぇるさま

イラストby高梨じぇるさま

うきゃ~~~vvまたまた届いちゃった!!
じぇるさまから「Boy Meets Girl」のイメージイラストですっ!!
先日いただいたイラストからイメージして、このお話も書いたので、
それをまた再現してくださるのって、嬉しすぎです。ありがとうございます!
ツンデレ気味な雪ちゃんと、少年の幼い部分を残す古代君が可愛いですv
じぇるさま、ありがとうございました! 

2014 0704 追記 hitomi higasino
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

拍手