約束してたんだ。雪と。満天の星を一緒に見上げようって。
あの時の気持ちを素直に話せる気がしたから。


「星が見ている」






「古代君?」

「ん?」

「静かだから、寝ちゃったのかと思った」

雪は、隣に寝転んでいる婚約者を見やった。頬には喧嘩のあとの絆創膏、着ているTシャツも
砂をかぶって、汚れたままだ。けれど彼は穏やかだった。それは彼の胸が上下する様子でわかる。
ビーチ・バーから漏れてくる光が、そんな彼を映し出している。

古代は、星の瞬きをじっと見つめている。何かを探してでもいるかのようだった。

「ねえ、何をそんなに一生懸命見てるの?」
「そうだな……。あの向こうに行った時の事を思い出してる」
「ヤマトの中での事ね」
「うん」

そしてまた静寂。雪が黙ると、古代も無言になる。
やっぱり眠いのかな? と雪が再び古代の横顔を見る。
しかし彼の目は嬉しそうに星を追っていた。少年のように目を輝かせて。
雪は彼を真似て星の動きを観察してみた。

やがて古代は、
「大マゼランの星の中で、俺たち祝福されたんだ。 世界広しと言えど
こんな経験、俺たちしかしてないよな」
やっと探していた言葉を見つけた、と言う風に話しはじめた。
「そうよね。あの星に囲まれて、私たち巡り会えた」
雪は、彼の気持ちに寄り添うような言葉を返した。
「信じられないかもしれないけど、君は光り輝いていたんだ。あの空間で。だから見つけられた」
星が瞬くみたいにさ。古代は横を向いて、美しい横顔に笑いかけた。
古代の普段は言わないような気障な言葉に、雪はふっと息を漏らした。
「あ、笑ったな? 本当だって」
古代は、雪の手を取り強く握る。雪も彼の手を握り返した。

「あの時、言葉に出さなかったけれど、俺は君を守るって決意した」
「私は、あなたを離さないって強く思った」

――あっ、流れ星。

二人の言葉を待っていたかのように、星が空を横切った。

「星が見てるんだ。俺たちの覚悟を」

気障な言葉は似あわないと知っているが、古代は伝えたいと思っている。今のこの気持ちを、彼女に。

「私、」
「知ってる。君は優しくて、いつも俺を穏やかな気持ちにさせてくれる。俺はそんな君に甘えてばかりだ。
だから、君には俺の気持ちも知ってて欲しい」
雪が何か言いかけたのを、古代は遮ってキスをした。

「この先もずっと一緒に居てくれるのが、堪らなく嬉しいんだ。ありがとう」
古代は照れ臭そうに、そう言った。
「……うん」
雪は、言葉少なに頷いた。

「必ず幸せにする」

古代の言葉のあと、また一つ星が流れた。

雪の瞳から零れる涙のようだった。





2014 0619  hitomi higasino



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ポエムちっくv お題企画「約束」をテーマに書いてみました。
お題企画にもつながるかも^^



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