もともと持ち込んだ荷物は少なかったから、ものの20分ほどで自室をすべて片付け終えた。
最後の最後に、壁のボードに貼ってあったプライベートな写真を
スタッフサックの一番上に投げ入れると完了だ。
大きめに引きのばした雪とのツーショットの写真だけは、何度見ても笑ってしまう。
(おっと……)
気づくとまた口元が緩んでいる。この写真を他のクルーにみつかると
また冷やかされるに決まっている。古代はそっとそれを裏返しにした。
雪は、ヤマトを降りてすぐに中央大病院へ検査入院することになっていた。
ついて行こうかと言えば、心配ない、と彼女と佐渡に断られた。
負傷者と共に一足先に退艦した雪からは、あとで連絡がくることになっている。
「古代、お疲れさん。これで、やっと俺たちも退艦だな」
古代は、最後の二人となった副長である真田と、寂しくなった第一艦橋を見まわしていた。
そして同時に艦長席を見上げた。
二人は、息を合わせたかのようにそこに向かって敬礼をし、頭を下げた。
頭を上げた古代は、引き締めていた口元を少し緩めて隣を見た。
「真田さん。ありがとうございました」
「なんだ、改まって。礼を言うのはこっちの方だぞ?」
そういわれれば余計に深々と頭を下げたくなった。
「ヤマト計画がすべて完了したら、両親の墓に、兄貴の……」
「ああ。守もそこに、か。わかった。俺も一緒に参らせてくれ」
「ありがとうございます」
ふと、視線を外した真田に古代は、おや?と思う。
「古代、コスモリバースシステムの”誤作動”についてなんだが」
真田にしては珍しい歯切れの悪さに、益々違和感を覚え、その先を早く訊きたいと思った。
”艦長の死”、”コスモリバースシステムの誤作動”、この時自分はそのどちらにも居合わせず
申し訳ないという気持ちが少なからずある。
「はい? 結局問題ではなかったと聞いていますが」
「ああ。結果として――問題はなかった。不可思議な現象だったが」
「再起動に成功していますし。他に心配事でもあるんですか?」
真田を真っ直ぐに見据えて、古代は問うた。
「いいや。何でもない。大丈夫だ」
真田は、視線を足元に落とし、言いかけた言葉を飲み込んだ。
古代は、黙って横に並んで歩く。真田から何か話したいことがあるなら
どんな話でも受け入れるつもりだったからだ。
けれど彼はそれっきり、それに触れることはなかった。
「古代、森君とはどうするんだ? 加藤に続いて年貢を納めんのか?」
「えっ? 」
思わず、そう声に出してしまい、古代はその場で固まった。
真田の口から雪とどうするのかと問われるのは、意外な気がしたからだ。
「あっ、まだ何も。二人ともまだ若いですから」
「そうか……」
艦橋から降りるエレベーターで、真田は、「あのな、古代。何かあったら迷わず俺に連絡してこい」
とだけ言い、最後まで手に持っていた詩集の単行本を、鞄の中に収めた。
「はい」
それは、上司としてではなく。言葉数が多いほうではない兄の親友が、
自分に向けた優しさだった。
恋愛相談を真田に出来るかどうかは別にして、人としての大きさ、優しさに触れられた気がして
古代は『はい』の一言に気持ちの全部を込めた。
兄は亡くなったが、自分は真田のことを兄のように慕い始めている。
ヤマトに乗り込んだ十か月ほど前には、予想できなかった自分の中の変化だった。
古代は、『家族は作れる』と言った雪の言葉を思い出していた。
搭乗口のあたりまで来ると、人のざわめきが聞こえてきた。
「真田さん、古代!遅いじゃないですか」
待っていてくれたのか着替えを終えた島や艦橋のメンバーたちがそこにいた。
「なんだ、待っていてくれたのか」
真田は照れ隠しで頭を掻いている。
「お疲れ様でした」
防衛軍の制服に着替えた新見一尉は、別人のようだ。
「何? 古代一尉。私のことじろじろ見て」
「す、すみません。失礼しました! 制服が変わったので、違う人みたいだなと」
申し合わせたように真田と新見が、同じタイミングでぷっと吹き出した。
「本当に、遠慮がないのね。あなたたちって」
「何の話ですか?」
「森くんの前で、他の女性を見つめたりしてはダメだぞ、と言いたいんだよ。新見くんは」
「そんな事しませんよ! そんなつもりじゃなかったんですから……」
「古代くんは正直ね」
「あのぅ?」
新見も、真田も答える気はないのか、目を合わせて頷くだけだ。
「そうだ、古代。土方さんから伝言を預かってる」
「土方さん?」
「ああ。個人的に、だそうだ」
勿体ぶった島の言いかたは、その場に居合わせたクルーたちの注目を得るのに効果的だった。
釣られた太田や相原が面白そうだという顔をして覗き込んできた。
「なんだろう?」
「何って、あれだろ? 森くんの後見人だから」
「え?」
「おおーーーーっ」
「やっぱりそうだったのか」
と、場は急に賑やかになった。
「ちょ、ちょっと待て。俺は何も聞いてないぞ? 雪の後見人が土方さんなのか?」
「”お義父さん”って呼ばなきゃならなくなるな」
「他人事だと思って、楽しんでるだろ? 島!」
「いずれ通らないといけない道だ。伝言は『明日の午後5時に中央大病院に来い』だと。」
「帰ってきていきなりこれか。心の準備が必要なのに、容赦のない人だ。土方さん」
「まあ、ガンバレ。愛しの森くんの為だ」
「がんばれよ。なんなら土方さん突破作戦を立案しようか?」
南部は、わざとらしく眼鏡をクイっと持ち上げ、古代を見下ろす。
古代は、皆のこの一体感はなんなのだと、面白くない。
「ったく、何なんだよ? 皆して……」
ヤマトを降りて、一旦は肩の荷が下ろせたとほっとしたのも束の間で、
新たなる脅威に立ち向かわなくてはならない。
この状況に、頭がクラクラする。雪には悪いけれど。
古代はスタッフサックを担ぎ直し、人知れずため息を吐いた。
*****
その約二時間前。
一足先にヤマトを退艦した負傷者たちに交じって雪の姿がそこにあった。
前もって連絡をつけておいたおかげで、土方と夫人が出迎えに来ている。
「雪さん! こっちよ。お帰りなさい。あなた、本当によく無事で……」
「おじさま、おばさま。ただいま帰りました!」
雪は自分が元気であると証明するために、その場で一度くるりと回転してみせた。
夫人と並んで歩いてくる土方は、目を細めて雪を見た。
「負傷したと聞いていたのだが、軽症で済んだのだな?」
「今はなんともありません。検査入院も念のためにするだけですので」
「愛の力ですよねーっ! 雪さん!」
入院手続きをする負傷者の搬送の為、佐渡や真琴はこれからかつての勤め先である
中央大病院まで付き添っていくところである。
「雪、古代は明日来るのか?」
横からの佐渡と真琴の容赦のないつっこみに、雪は頬を赤く染めて恥らった。
「ん? 古代とは、古代進のことか?」
「はい。戦術長の古代一尉です……」
「なんで、古代がお前の心配を? あいつとはどういう関係だ?」
「あの、ちゃんと紹介します」
「紹介するもなにも。あいつは俺の教え子だからな。そうか古代か」
土方は、遠い目をして不敵な笑みを浮かべている。
夫人や、佐渡、真琴の胸中はこうだ。
(なんかマズイ……)
「そういえば、皆さんお若いのね? あなたも雪さんと同じくらいのお年なの?」
意地の悪い笑みを浮かべる夫の横で、機転を利かせた土方夫人が、原田真琴衛生士に声を掛けた。
「ほぼ同世代ですよね? 雪さん」
「原田さんなんて、ヤマトで結婚式挙げたんですよ!ねえお目出度いでしょう?おばさま?」
「なに? ヤマト艦内の風紀はそんなに乱れているのか? 沖田はどうしている?」
「艦長はじゃな、あとで真田副長からも話がいくはずじゃが……」
佐渡は、急に表情を暗くして、土方を手招きした。
二人が離れた場所に向かったのを見て、真琴が「危なかったですねー」と言い
それに合わせたように夫人と雪は笑いあった。
「私も古代さんの気持ちが今更ながらわかってきました。大変そうですね、雪さん?」
真琴は土方に聞こえないように、雪に耳打ちしてぺろっと舌を出した。
2013 1126 hitomi higasino
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最後の最後に、壁のボードに貼ってあったプライベートな写真を
スタッフサックの一番上に投げ入れると完了だ。
大きめに引きのばした雪とのツーショットの写真だけは、何度見ても笑ってしまう。
(おっと……)
気づくとまた口元が緩んでいる。この写真を他のクルーにみつかると
また冷やかされるに決まっている。古代はそっとそれを裏返しにした。
雪は、ヤマトを降りてすぐに中央大病院へ検査入院することになっていた。
ついて行こうかと言えば、心配ない、と彼女と佐渡に断られた。
負傷者と共に一足先に退艦した雪からは、あとで連絡がくることになっている。
「古代、お疲れさん。これで、やっと俺たちも退艦だな」
古代は、最後の二人となった副長である真田と、寂しくなった第一艦橋を見まわしていた。
そして同時に艦長席を見上げた。
二人は、息を合わせたかのようにそこに向かって敬礼をし、頭を下げた。
頭を上げた古代は、引き締めていた口元を少し緩めて隣を見た。
「真田さん。ありがとうございました」
「なんだ、改まって。礼を言うのはこっちの方だぞ?」
そういわれれば余計に深々と頭を下げたくなった。
「ヤマト計画がすべて完了したら、両親の墓に、兄貴の……」
「ああ。守もそこに、か。わかった。俺も一緒に参らせてくれ」
「ありがとうございます」
ふと、視線を外した真田に古代は、おや?と思う。
「古代、コスモリバースシステムの”誤作動”についてなんだが」
真田にしては珍しい歯切れの悪さに、益々違和感を覚え、その先を早く訊きたいと思った。
”艦長の死”、”コスモリバースシステムの誤作動”、この時自分はそのどちらにも居合わせず
申し訳ないという気持ちが少なからずある。
「はい? 結局問題ではなかったと聞いていますが」
「ああ。結果として――問題はなかった。不可思議な現象だったが」
「再起動に成功していますし。他に心配事でもあるんですか?」
真田を真っ直ぐに見据えて、古代は問うた。
「いいや。何でもない。大丈夫だ」
真田は、視線を足元に落とし、言いかけた言葉を飲み込んだ。
古代は、黙って横に並んで歩く。真田から何か話したいことがあるなら
どんな話でも受け入れるつもりだったからだ。
けれど彼はそれっきり、それに触れることはなかった。
「古代、森君とはどうするんだ? 加藤に続いて年貢を納めんのか?」
「えっ? 」
思わず、そう声に出してしまい、古代はその場で固まった。
真田の口から雪とどうするのかと問われるのは、意外な気がしたからだ。
「あっ、まだ何も。二人ともまだ若いですから」
「そうか……」
艦橋から降りるエレベーターで、真田は、「あのな、古代。何かあったら迷わず俺に連絡してこい」
とだけ言い、最後まで手に持っていた詩集の単行本を、鞄の中に収めた。
「はい」
それは、上司としてではなく。言葉数が多いほうではない兄の親友が、
自分に向けた優しさだった。
恋愛相談を真田に出来るかどうかは別にして、人としての大きさ、優しさに触れられた気がして
古代は『はい』の一言に気持ちの全部を込めた。
兄は亡くなったが、自分は真田のことを兄のように慕い始めている。
ヤマトに乗り込んだ十か月ほど前には、予想できなかった自分の中の変化だった。
古代は、『家族は作れる』と言った雪の言葉を思い出していた。
搭乗口のあたりまで来ると、人のざわめきが聞こえてきた。
「真田さん、古代!遅いじゃないですか」
待っていてくれたのか着替えを終えた島や艦橋のメンバーたちがそこにいた。
「なんだ、待っていてくれたのか」
真田は照れ隠しで頭を掻いている。
「お疲れ様でした」
防衛軍の制服に着替えた新見一尉は、別人のようだ。
「何? 古代一尉。私のことじろじろ見て」
「す、すみません。失礼しました! 制服が変わったので、違う人みたいだなと」
申し合わせたように真田と新見が、同じタイミングでぷっと吹き出した。
「本当に、遠慮がないのね。あなたたちって」
「何の話ですか?」
「森くんの前で、他の女性を見つめたりしてはダメだぞ、と言いたいんだよ。新見くんは」
「そんな事しませんよ! そんなつもりじゃなかったんですから……」
「古代くんは正直ね」
「あのぅ?」
新見も、真田も答える気はないのか、目を合わせて頷くだけだ。
「そうだ、古代。土方さんから伝言を預かってる」
「土方さん?」
「ああ。個人的に、だそうだ」
勿体ぶった島の言いかたは、その場に居合わせたクルーたちの注目を得るのに効果的だった。
釣られた太田や相原が面白そうだという顔をして覗き込んできた。
「なんだろう?」
「何って、あれだろ? 森くんの後見人だから」
「え?」
「おおーーーーっ」
「やっぱりそうだったのか」
と、場は急に賑やかになった。
「ちょ、ちょっと待て。俺は何も聞いてないぞ? 雪の後見人が土方さんなのか?」
「”お義父さん”って呼ばなきゃならなくなるな」
「他人事だと思って、楽しんでるだろ? 島!」
「いずれ通らないといけない道だ。伝言は『明日の午後5時に中央大病院に来い』だと。」
「帰ってきていきなりこれか。心の準備が必要なのに、容赦のない人だ。土方さん」
「まあ、ガンバレ。愛しの森くんの為だ」
「がんばれよ。なんなら土方さん突破作戦を立案しようか?」
南部は、わざとらしく眼鏡をクイっと持ち上げ、古代を見下ろす。
古代は、皆のこの一体感はなんなのだと、面白くない。
「ったく、何なんだよ? 皆して……」
ヤマトを降りて、一旦は肩の荷が下ろせたとほっとしたのも束の間で、
新たなる脅威に立ち向かわなくてはならない。
この状況に、頭がクラクラする。雪には悪いけれど。
古代はスタッフサックを担ぎ直し、人知れずため息を吐いた。
*****
その約二時間前。
一足先にヤマトを退艦した負傷者たちに交じって雪の姿がそこにあった。
前もって連絡をつけておいたおかげで、土方と夫人が出迎えに来ている。
「雪さん! こっちよ。お帰りなさい。あなた、本当によく無事で……」
「おじさま、おばさま。ただいま帰りました!」
雪は自分が元気であると証明するために、その場で一度くるりと回転してみせた。
夫人と並んで歩いてくる土方は、目を細めて雪を見た。
「負傷したと聞いていたのだが、軽症で済んだのだな?」
「今はなんともありません。検査入院も念のためにするだけですので」
「愛の力ですよねーっ! 雪さん!」
入院手続きをする負傷者の搬送の為、佐渡や真琴はこれからかつての勤め先である
中央大病院まで付き添っていくところである。
「雪、古代は明日来るのか?」
横からの佐渡と真琴の容赦のないつっこみに、雪は頬を赤く染めて恥らった。
「ん? 古代とは、古代進のことか?」
「はい。戦術長の古代一尉です……」
「なんで、古代がお前の心配を? あいつとはどういう関係だ?」
「あの、ちゃんと紹介します」
「紹介するもなにも。あいつは俺の教え子だからな。そうか古代か」
土方は、遠い目をして不敵な笑みを浮かべている。
夫人や、佐渡、真琴の胸中はこうだ。
(なんかマズイ……)
「そういえば、皆さんお若いのね? あなたも雪さんと同じくらいのお年なの?」
意地の悪い笑みを浮かべる夫の横で、機転を利かせた土方夫人が、原田真琴衛生士に声を掛けた。
「ほぼ同世代ですよね? 雪さん」
「原田さんなんて、ヤマトで結婚式挙げたんですよ!ねえお目出度いでしょう?おばさま?」
「なに? ヤマト艦内の風紀はそんなに乱れているのか? 沖田はどうしている?」
「艦長はじゃな、あとで真田副長からも話がいくはずじゃが……」
佐渡は、急に表情を暗くして、土方を手招きした。
二人が離れた場所に向かったのを見て、真琴が「危なかったですねー」と言い
それに合わせたように夫人と雪は笑いあった。
「私も古代さんの気持ちが今更ながらわかってきました。大変そうですね、雪さん?」
真琴は土方に聞こえないように、雪に耳打ちしてぺろっと舌を出した。
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。
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