予定の午後5時になる10分前に、古代は既に中央大病院のロビーにいた。
前日のメールで、病室番号は雪から聞いている。5分前行動するべく、ここで待機というわけである。
携帯の受信欄には彼女からのメールが、昨日から5通も来ていた。
ごく普通に交わされる恋人同士のメール。
ここはヤマト艦内ではない。地球なのだと何度も思った。
狭い艦内で毎日のように顔を合わせていた日々は、自分の感情を殺して行動することを最優先させていた。
解放された今は、自由な時間が取れるようになった事と、会えなくなってしまった
時間を引き換えてしまったように感じていた。
示し合わせたように会っていた展望室での語らいのかわりに
恐らくこれからは日に数通のメールのやりとりになるのだろう。
雪からのメールは、最後に必ず早く逢いたいとあった。
面と向かって話すには恥ずかしいような言葉も、メールだったら言える気がした。
「古代、待たせたか?」
「土方さん」
緊張した面持ちの古代は、待合席から立ち上がって敬礼する。
「いや、ここではするな」
プライベートだからな、と土方は返礼をせずに、古代に着席を促す。
「はい……あの、ここで?」
「ここでいい。お前と話がしたかったからな」
「はい」
「森雪の後見人は私だ。それももうあとわずかな期間だがな」
「そうなんですか」
「今月の24日で雪も成人だ。引き続き成人後見人として面倒をみることもできなくはないが、
恐らく、彼女はそれを望まないだろう」
古代はただ土方の話をじっと聞いている。
「法律上の繋がりはなくとも、俺は雪の親代わりであり続ける。それは雪も承知してくれていると思う。
古代、だからお前にも話しておきたいのだ」
「二年前の事故の事ですか?」
土方はただ頷いた。
「雪には全部話してある。彼女の父親は俺の友人だった」
古代はじっと土方の話に聞きいっている。
「あの事故で雪は記憶を失った。ユリーシャの事も、知っているな? 雪はユリーシャの
世話係だった。単なる事故なのか、テロだったのか……。あまりにもよく似た二人だったので
雪は、ユリーシャの世話だけではなく、影武者としても動いていたのだ」
「そうだったんですか……」どこかでそうじゃないかと考えていた古代は、雪がそれを言わなかったことに
心を痛めた。
「彼女の後見人となった理由は、軍人としてではない。あの子の父親と約束していたからな。
何かあったら、俺が面倒をみるからと。雪は実の娘も同然だ。心からあの子の幸せを願っている」
古代は土方の言葉に、力強く頷いた。
「記憶がないことについては、いつか思い出すのか、このまま思い出さずに生きていくのか……
どちらでもいいと俺は思っている。あの子が幸せであればそれでいいとな」
土方は、そこで古代の方を見た。
「お前のご両親は亡くなっていると知っている。守のことは、報告で聞いた。残念だった」
「はい。ありがとうございます」
「雪と交際するつもりなんだろう? ならば家にも遊びに来い」
「は、はい」
真面目な顔で土方の話を聞いていた古代は、土方のその一言にすっかり恐縮してしまった。
「雪は大事な娘だ。あの子と付き合うのなら、お前をしっかり指導していく」
「はあ、あの、自分は真面目に考えていますので、お手柔らかにお願いします……」
土方はニヤリと笑って立ち上がった。
「雪の病室はわかるな? 俺はもう帰る」
「あ、はい。ありがとうございました!」
「そうだ。雪の誕生日には、お前も家に来い。いいな?」
「はい、参ります!!」
出口の前で一旦こちらを振り返った土方は、満足そうな表情を浮かべていた。
(シマッタ……)
二つ返事で約束してしまった。
雪の誕生日でクリスマスイブである24日は、二人きりで逢いたいと話していたのに。
(土方さんに上手く言いくるめられた……)
コートのポケットから取り出した携帯が、点滅して着信を知らせていた。
******
ヤマト計画が全て完了するのはまだ時間が必要だろう。
復興に向けて、これからの方がはるかに課題は多い。
しかし、コスモリバースシステムによって地球上の汚染が浄化されつつあることは事実だ。
地球帰還後、元ヤマトクルーたちには、一定の休暇が与えられた。
が、未知の航海をやり遂げた充実感に浸り暇もなく、
古代や真田は、午後まで残務処理に追われているらしい。
それが終われば、病院に立ち寄ってくれると聞いていた。
雪は検査入院中のベッドの上で古代からの返信を確認していた。
今月下旬の誕生日には二十歳になる。それを機に、一人暮らしを検討中だ。
まだ土方には話していないが。夫人にはそれとなく伝えてあり、賛成してもらっている。
古代はと言うと、以前住んでいた寮は取り壊しが決まっていて、新しい寮住まいになるか
こちらも独り暮らしの住居を探すかの二択を迫られていた。
二人の間で、一緒に住むという選択はいまのところ案はない。
(それはそうよね。だって私たち、まだ……ってユキ、何考えてるの!!)
雪は独りで赤くなっていた。
彼にもう一度メールを打とうかと思った矢先に、ノックの音が響いた。
「古代君!」
古代は手にコートを抱え、ドアの隙間から顔を覗かせる。
防衛軍の制服ではあるけれど、ヤマトの艦内服姿しか知らない雪は
初めて見る恋人のその姿に胸をときめかせた。
「体調はどうなの?」古代が病室に入ってきた。
「うん、体力や筋力が落ちてるくらいで、あとは大丈夫ですって」
「そうか。よかった。安心したよ」
二人はにっこりと微笑みあう。
「明日再検査の結果次第で退院するの。一週間は自宅療養で暇だわ。古代君は?」
「俺はしばらく真田さんとヤマト関係の残務処理。たぶん春先くらいまでは地上勤務になると思う」
「宇宙に出るための艦がないものね」
「ヤマトを整備点検後、使うわけにいかないからな」
「そうね」
雪は立ち上がって、古代の手からコートを受け取り、来客用のハンガーにかけた。
「お茶、飲む?」
「いいよ。君は休んでろよ。俺がやるから」
「私にやらせて? お茶くらいちゃんと淹れられるわ」
「ん? 大丈夫かなあ」
「あ、島くんが言ってたことを真に受けてるの? あれはちょっとしたミステーク!
本当はコーヒーだって、家じゃ美味しく淹れられるのよ」
甲斐甲斐しく彼の世話ができるのが、こんなにも嬉しい。
急須にお茶の葉を入れながら、雪は幸せを感じている。
(ケッコンってこんな感じなのかな)
ポットのお湯を急須に注ぎいれて蒸らす間、雪は自分の幸せな結婚生活を夢見ていた。
「ねえ、今度のデート、どうしよっか?」
雪の嬉しそうな横顔を見るにつけ、古代はこの女性を一生大事にすると改めて心に誓った。
古代にしてみれば、土方との約束の手前もある。雪とはまだそこまで話していないが
将来を見越した交際をしたいと思っているのだ。
「ちょっと、古代君、聞いてるの?」
「えっ何??」
「今月下旬のクリスマス・イブの計画よ」
「雪の誕生日だよな? 大丈夫。考えてるって」
「二人で逢えるだけでもいいの。初めてのデートなんだもん」
(あ……)
勢いで約束してしまった土方家への訪問について。
雪はまだ知らないのか。
うっかり土方の策略に引っかかってしまったことを今ここで雪に話そうか。
「あの、雪、誕生日は土方さんの家で」
「大丈夫。奥様と二人でお祝いしてくれることになっているんだけど
その後なら時間あるし」
「そう、か。うん。じゃあまた連絡する」
さきほどのロビーでの土方との会話については、今は話さないでいいだろう、と古代は結論付けた。
「わかった」
にっこり笑う雪。
どうやら淹れてくれたお茶は大丈夫そうだ。
と、その前に。
「こっち。まだだったな」
渡された熱めの湯呑を左手に持ち替えて、右手一本で雪を抱き寄せた。
「まだ、信じられない」
こうして、抱き合ったりすること自体が。
雪はそう言いたいようで、古代の言葉を待った。
古代は口をつぐんだ雪と見つめあう。ここは病室だということも忘れて。
二人のまわりの空気が変わる気配がした。互いに同じ事を期待していると感じた。
言葉にするよりも早く体が動いてしまう。
彼女は静かに目を閉じた。
(いいんだよ、な?)
ゆっくり顔を彼女に近づけていくと、触れあう寸前で、彼女はぷっと吹き出した。
ヤマトを降りる前から、彼女とは何度かキスを交わした仲なのに、まだ雪は慣れないらしい。
「な、ダメだった?」
「ううん、違う。なんだか慣れないの。古代君素敵すぎるんだもん」
彼女は顔を自分の胸に埋めて恥ずかしがっている。
本能のまま動いてしまう自分が性急すぎるのかもしれないな、と古代はその都度自省するのだ。
(仕切り直しか)
「……こっちもいただくよ」
古代は一応確認してから、ゆっくり湯呑茶碗に口をつけた。
続きます
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2013 1208 hitomi higasino
前日のメールで、病室番号は雪から聞いている。5分前行動するべく、ここで待機というわけである。
携帯の受信欄には彼女からのメールが、昨日から5通も来ていた。
ごく普通に交わされる恋人同士のメール。
ここはヤマト艦内ではない。地球なのだと何度も思った。
狭い艦内で毎日のように顔を合わせていた日々は、自分の感情を殺して行動することを最優先させていた。
解放された今は、自由な時間が取れるようになった事と、会えなくなってしまった
時間を引き換えてしまったように感じていた。
示し合わせたように会っていた展望室での語らいのかわりに
恐らくこれからは日に数通のメールのやりとりになるのだろう。
雪からのメールは、最後に必ず早く逢いたいとあった。
面と向かって話すには恥ずかしいような言葉も、メールだったら言える気がした。
「古代、待たせたか?」
「土方さん」
緊張した面持ちの古代は、待合席から立ち上がって敬礼する。
「いや、ここではするな」
プライベートだからな、と土方は返礼をせずに、古代に着席を促す。
「はい……あの、ここで?」
「ここでいい。お前と話がしたかったからな」
「はい」
「森雪の後見人は私だ。それももうあとわずかな期間だがな」
「そうなんですか」
「今月の24日で雪も成人だ。引き続き成人後見人として面倒をみることもできなくはないが、
恐らく、彼女はそれを望まないだろう」
古代はただ土方の話をじっと聞いている。
「法律上の繋がりはなくとも、俺は雪の親代わりであり続ける。それは雪も承知してくれていると思う。
古代、だからお前にも話しておきたいのだ」
「二年前の事故の事ですか?」
土方はただ頷いた。
「雪には全部話してある。彼女の父親は俺の友人だった」
古代はじっと土方の話に聞きいっている。
「あの事故で雪は記憶を失った。ユリーシャの事も、知っているな? 雪はユリーシャの
世話係だった。単なる事故なのか、テロだったのか……。あまりにもよく似た二人だったので
雪は、ユリーシャの世話だけではなく、影武者としても動いていたのだ」
「そうだったんですか……」どこかでそうじゃないかと考えていた古代は、雪がそれを言わなかったことに
心を痛めた。
「彼女の後見人となった理由は、軍人としてではない。あの子の父親と約束していたからな。
何かあったら、俺が面倒をみるからと。雪は実の娘も同然だ。心からあの子の幸せを願っている」
古代は土方の言葉に、力強く頷いた。
「記憶がないことについては、いつか思い出すのか、このまま思い出さずに生きていくのか……
どちらでもいいと俺は思っている。あの子が幸せであればそれでいいとな」
土方は、そこで古代の方を見た。
「お前のご両親は亡くなっていると知っている。守のことは、報告で聞いた。残念だった」
「はい。ありがとうございます」
「雪と交際するつもりなんだろう? ならば家にも遊びに来い」
「は、はい」
真面目な顔で土方の話を聞いていた古代は、土方のその一言にすっかり恐縮してしまった。
「雪は大事な娘だ。あの子と付き合うのなら、お前をしっかり指導していく」
「はあ、あの、自分は真面目に考えていますので、お手柔らかにお願いします……」
土方はニヤリと笑って立ち上がった。
「雪の病室はわかるな? 俺はもう帰る」
「あ、はい。ありがとうございました!」
「そうだ。雪の誕生日には、お前も家に来い。いいな?」
「はい、参ります!!」
出口の前で一旦こちらを振り返った土方は、満足そうな表情を浮かべていた。
(シマッタ……)
二つ返事で約束してしまった。
雪の誕生日でクリスマスイブである24日は、二人きりで逢いたいと話していたのに。
(土方さんに上手く言いくるめられた……)
コートのポケットから取り出した携帯が、点滅して着信を知らせていた。
******
ヤマト計画が全て完了するのはまだ時間が必要だろう。
復興に向けて、これからの方がはるかに課題は多い。
しかし、コスモリバースシステムによって地球上の汚染が浄化されつつあることは事実だ。
地球帰還後、元ヤマトクルーたちには、一定の休暇が与えられた。
が、未知の航海をやり遂げた充実感に浸り暇もなく、
古代や真田は、午後まで残務処理に追われているらしい。
それが終われば、病院に立ち寄ってくれると聞いていた。
雪は検査入院中のベッドの上で古代からの返信を確認していた。
今月下旬の誕生日には二十歳になる。それを機に、一人暮らしを検討中だ。
まだ土方には話していないが。夫人にはそれとなく伝えてあり、賛成してもらっている。
古代はと言うと、以前住んでいた寮は取り壊しが決まっていて、新しい寮住まいになるか
こちらも独り暮らしの住居を探すかの二択を迫られていた。
二人の間で、一緒に住むという選択はいまのところ案はない。
(それはそうよね。だって私たち、まだ……ってユキ、何考えてるの!!)
雪は独りで赤くなっていた。
彼にもう一度メールを打とうかと思った矢先に、ノックの音が響いた。
「古代君!」
古代は手にコートを抱え、ドアの隙間から顔を覗かせる。
防衛軍の制服ではあるけれど、ヤマトの艦内服姿しか知らない雪は
初めて見る恋人のその姿に胸をときめかせた。
「体調はどうなの?」古代が病室に入ってきた。
「うん、体力や筋力が落ちてるくらいで、あとは大丈夫ですって」
「そうか。よかった。安心したよ」
二人はにっこりと微笑みあう。
「明日再検査の結果次第で退院するの。一週間は自宅療養で暇だわ。古代君は?」
「俺はしばらく真田さんとヤマト関係の残務処理。たぶん春先くらいまでは地上勤務になると思う」
「宇宙に出るための艦がないものね」
「ヤマトを整備点検後、使うわけにいかないからな」
「そうね」
雪は立ち上がって、古代の手からコートを受け取り、来客用のハンガーにかけた。
「お茶、飲む?」
「いいよ。君は休んでろよ。俺がやるから」
「私にやらせて? お茶くらいちゃんと淹れられるわ」
「ん? 大丈夫かなあ」
「あ、島くんが言ってたことを真に受けてるの? あれはちょっとしたミステーク!
本当はコーヒーだって、家じゃ美味しく淹れられるのよ」
甲斐甲斐しく彼の世話ができるのが、こんなにも嬉しい。
急須にお茶の葉を入れながら、雪は幸せを感じている。
(ケッコンってこんな感じなのかな)
ポットのお湯を急須に注ぎいれて蒸らす間、雪は自分の幸せな結婚生活を夢見ていた。
「ねえ、今度のデート、どうしよっか?」
雪の嬉しそうな横顔を見るにつけ、古代はこの女性を一生大事にすると改めて心に誓った。
古代にしてみれば、土方との約束の手前もある。雪とはまだそこまで話していないが
将来を見越した交際をしたいと思っているのだ。
「ちょっと、古代君、聞いてるの?」
「えっ何??」
「今月下旬のクリスマス・イブの計画よ」
「雪の誕生日だよな? 大丈夫。考えてるって」
「二人で逢えるだけでもいいの。初めてのデートなんだもん」
(あ……)
勢いで約束してしまった土方家への訪問について。
雪はまだ知らないのか。
うっかり土方の策略に引っかかってしまったことを今ここで雪に話そうか。
「あの、雪、誕生日は土方さんの家で」
「大丈夫。奥様と二人でお祝いしてくれることになっているんだけど
その後なら時間あるし」
「そう、か。うん。じゃあまた連絡する」
さきほどのロビーでの土方との会話については、今は話さないでいいだろう、と古代は結論付けた。
「わかった」
にっこり笑う雪。
どうやら淹れてくれたお茶は大丈夫そうだ。
と、その前に。
「こっち。まだだったな」
渡された熱めの湯呑を左手に持ち替えて、右手一本で雪を抱き寄せた。
「まだ、信じられない」
こうして、抱き合ったりすること自体が。
雪はそう言いたいようで、古代の言葉を待った。
古代は口をつぐんだ雪と見つめあう。ここは病室だということも忘れて。
二人のまわりの空気が変わる気配がした。互いに同じ事を期待していると感じた。
言葉にするよりも早く体が動いてしまう。
彼女は静かに目を閉じた。
(いいんだよ、な?)
ゆっくり顔を彼女に近づけていくと、触れあう寸前で、彼女はぷっと吹き出した。
ヤマトを降りる前から、彼女とは何度かキスを交わした仲なのに、まだ雪は慣れないらしい。
「な、ダメだった?」
「ううん、違う。なんだか慣れないの。古代君素敵すぎるんだもん」
彼女は顔を自分の胸に埋めて恥ずかしがっている。
本能のまま動いてしまう自分が性急すぎるのかもしれないな、と古代はその都度自省するのだ。
(仕切り直しか)
「……こっちもいただくよ」
古代は一応確認してから、ゆっくり湯呑茶碗に口をつけた。
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2013 1208 hitomi higasino
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管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
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また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。
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