抜けるような白い肌に白のキャミソールワンピース。
頭には麦わら帽子。
サンダルとラタンのかごバッグといういでたち。

土方は、目を細めて雪を見る。
今から古代とデートだという雪を、彼女の一人暮らしの部屋から
徒歩数分の自宅まで土方はわざわざ呼び寄せた。

雪は立派な大人だ。
成人して、一人で部屋も借り、暮らしている。
自分は後見人だったとはいえ、彼女の暮らしぶりにあれこれと口を挟むべきでは、もうないのだ。
しかし、眩いばかりの雪の姿に、土方の心配は尽きないのだ。


「遅くならないようにな。なんなら古代を家に連れて」
「いえ、大丈夫です。ちゃんと早い時間に帰宅します。家からおじさまに電話いれますから」
「古代を、連れ込んではだめだぞ」
「連れ込むだなんて!……わかってます。古代君もそんなことしませんから」
「いや、古代とて男だからな。おまえは大切な私の友人の宝だ。なにかあっては」
「ありませんっ!!」
間髪入れずに雪は返答する。



雪は、ぷうとむくれ顔を土方に向けた。幼少時代の雪も、時折そんな顔をして
大人たちを困らせたものだった。
自分に子どもはいないので、もしいたらと想像すると、それはいつも『雪』の姿になる。
雪もまた、両親を亡くしてからは、自分を親のように慕ってくれたように思う。



そして、これも親ならばもれなくついて回る感情なのだろうか。

――『お嬢さんを、ボクにくださいっ』

想像しただけで、胸くそ悪い。



いや、あいつはそんな台詞を俺に向かって言えるわけはないな。
士官学校時代のアレやコレを引き合いにだすと、きっとあいつは
黙り込むに違いない、と意地悪く思いついてしまう。

「誰がやるか!お前のようなガキに。百年早いわ」
仁王立ちで凄んでやる。
俺は妄想の世界で、古代をコテンパにやっつけるのだ。



「じゃあ、行ってきます」


こんな俺の親心、子知らずとはこのことか。
雪は、麦わら帽子に手を添えて、軽く会釈した。
そしてくるりと背を向けた。
後に残された俺は、見えない敵(古代)に向かってひたすら悪態をつくのだった。

++++++

「アッ!!」
「な、なんだ?雪??」

「……おじさまが…」
エアカーは雪のマンションのすぐそばまで来ている。
古代が雪の指差す方を見ると、彼女の言うとおり、土方がコンビニの袋を後ろ手で持ち、
マンションの人の出入りを気にしている風だった。

「別に遅くなったわけじゃないし。そもそも俺たち、もう大人なんだ。交際のこと
土方さんにとやかく言われたくないな」
「うん、わかってる。文句言われることはないんだけど」
「だけど?」
エアカーをマンションの横手に留め、来るべき攻撃に備え、古代は臨戦態勢をとるのだった。
「とても心配性なの。おじさま」

(あの土方さんがねえ)
雪の後見人だったという事実に、初めこそ驚いたが、土方の裏の顔(?)を知るうちに
面倒だという気持ちと、こそばゆいような気持ちが同居したような説明できないものを
古代は感じている。


「ただいま、戻りました」
古代はクセで敬礼してしまい、土方によせ、と手で制された。

「こんな時間にレディースマンションの出入り口でウロウロされたら、
勘違いされて通報されてしまいますよ?おじさま」

こういう時の雪はかなり強気で、土方を言い負かせてしまう。
「いや、ちょっと、コンビニまで行く用事があってな」
しどろもどろな土方に雪は笑った。
「せっかく来たのだから、おじさまもお茶でも飲んでいってください。古代君も。いいでしょ?」

「お前っ、いつもそう言ってこいつを、つれこんっ」
「いや、今日は色々連れまわしてしまったし、雪も疲れたろ?俺は帰るよ」
『帰っちゃうの??寂しい』雪の瞳はそう訴えているが、古代は涼しい顔で
「じゃあ、またな」と手を振った。

「あ、俺も帰るか……」
肩透かしを喰らったようで、消化不良な気もするが、ひとまずここは退散。
いや、何もなかったから良かったのだが。


涼しい表情の古代と目があうと、取りあえず凄みをきかせて睨み、威厳ある立ち振る舞いで
去っていく。
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