「臆病の仮面」
中性子星での戦闘中、きっと誰もが思ったことを、南部だけが口にした。
「あきらめるな!!」 古代の檄がとんだ。
その後、ガミラスの謎の撤退で、九死に一生を得たわけだ・・・
俺こと島大介は、その時士官学校での通称「撃滅作戦」訓練をしていた頃を思い出していた。
基礎科→本科→専科 大方の学生が専科へ移る前に入ってくる授業が「作戦行動」
小隊行動をとる授業だった。宇宙にでて防衛艦隊任務だろうに、なんで「人質奪還」や「陣取り」のようなことをするのだか。と大方の学生には評判の悪い授業だった。
小隊は、あまり平均的な組み方はされておらず、騎兵専科を取る予定の奴が小隊に2人もいれば、楽勝。1人もいなければ、カモにされかねない地獄の授業だった。
そんな授業のなかで「古代と組めれば赤はつかない」とウワサされるようになった。その頃の古代は、2年で砲雷術専科を終了し(これは異例の事だった)3年目は戦術専科と艦載機専科をとると言っていた。
小隊行動の要は作戦と適切な人員配置。戦術科志望の奴の何人かと組んだけれど、古代は断トツだった。
「あきらめるな」
よれる隊員を励まし作戦をさずけ、これ以上は・・・となれば自分で行ってしまう。
隊長だから良いことではないのだけれど、当たり前のように危険なきざはしを渡っていく。万が一の作戦を、何度あいつから付託されたことやら。でも、必ずあいつは帰ってきた。
そんなころに、初めて守さんにあったんだ。
「はじめまして、進の兄。守です。」 差し出された手と笑顔は、古代そっくりだった。
古代と違って社交的な雰囲気があり、話しやすい人だった。
そういえば寮で古代とおなじ部屋になって、ぎこちない時間を通り過ぎて、やっと話した学校以外のことは、ありきたりな家族のことだった。
「入学式に来ていたのは、島君の母親と弟さん?」
「そう、古代君のところはお兄さん?艦隊勤務の制服だったよな」
「そうだよ。今頃、星の海かな」
そんな風に話し出して、いつの間にかよくある歳の差の話になった。
「うちはさ、兄さんと8つ離れているんだけれど、島君のところはいくつ?」
・・・一番嫌いな話題だ。
「ひとまわり・・・」
「負けた。・・・初めて負けた。 くっそ~」
ん、ん? なんだ、そのリアクションは・・・
「弟を見てるのってどんな感じ?」 は?
「別に仕方ないし、小さいしな。兄貴の義務だ」
・・・父親はいないし。 なんとなく、後ろを向いた。
「ふぅん。優しく見守ってやれよ。 島にいちゃん。 」
「なんだよ」
ムカついて振り向いたら、古代の懐こい笑顔が目にはいった。なんだかムカつく自分が
ちっさくて。
「先輩の弟からのお願いだよ~」 なんてことを言いやがったもんだから、おかしくて。
「なっ なんだよ、それは~」
多分、あの時が本当の寮生活のはじまりだった。
守さんと3人で話をしていて、そのうち飲んでいたお茶がきれて、守さんがカードを取り出した。
「ほーら進。 行ってこーい。」
「なんだよぉ。その言いぐさ」 ははっ 古代むくれてら。
「俺、行きますよ。守さん」
「いーの。いーの。」 「頼むよ。進。」
「いつもの紅茶でいいよな。」 そう言うと、あっさり出て行った。
古代と入れ替わりに女の子が来て、お菓子を置いて行った。彼女の従兄が、守さんの同期だそうだ。
「なぁ、島君」
「はい」
「進って、・・・男色家」
「はあぁ なんで、そうなるんですか!!おかしいです」
「そうだよなぁ。浮いた話が、無さすぎるからさぁ。」 こ・・この人って
「君はあいつのこと、どう見てる」
「どうって・・古代は、誰にでも同じです。」
「同じ?」
う~ん
「等しく。かなぁ」
いつでも少し控えめで、だけど小隊行動時の強力なリーダーシップ 仲間を守ってみせる。的な強い意思表示。
それでもって、不意打ちのあの笑顔。あれが、誤解のもと。何人の女子が落ちてると思いますかっ・・・。
でも、古代自身は・・・まったく意識していない。その時だけ、なのだ。
以前、古代に告白った女子が詰め寄った。
「・・・あの時は大切な仲間で、それ以上でもそれ以下でもなくて・・・」
バスン!
手持ちのバインダーでぶん殴られていたっけ。
「お前ねぇ、もうすこしさ、言いかたってものをさぁ」
「他にどう言えと・・・」ムッツリと黙り込む。
「あんなに気も配るし、目も届くやつなのに、こと、恋愛方面だけは・・」
「欠落してる。か」
・・・そこまで言いますか。守さん。
「小学生くらいの頃は、好きなものいっぱい。な感じだったんだけどなぁ」
いや・・その、いっぱい。は違うのでは・・・
「あいつも大事な人を見つけられればいいけどな」
あれ・・・
「そういえば、進が気にしていたけれど」
?
「君は弟さんと話すと顔がコワくなるんだって」
「なんですか、それ」
「部屋に戻ってきたとき、電話の締めの相手が誰だか、顔ですぐわかるって」
・・・
「弟くんが相手だと目が三角になっているんだって。」
あのやろー、数少ない電話の機会に、何で人の事を話しているんだよ。
「まぁ、怒らないでやってよ」 守さんが柔らかく笑っている。
「島君のとこ、弟さんとひとまわりって聞いたけど、負けたなあ」
なんで、ここの兄弟は揃いも揃って、負けたっていうかな。
「俺もそうだったけれど、父親の不在って堪えるよな」
あぁ・・そうだった。 この人も
「-はい。」 あの日から、寄る辺のない毎日が始まった。
「弟の事、周りに引けを取らないようにと、自然と必死になっちゃうんだよな」
「そうですね。・・・父親が居ないからなんて、言い訳みたいに言われたくないし。そんな目すらも、嫌です。」
「そうだよ。 そうなんだよな。」
――?
「島君 すこし、気負い過ぎてない?」
「毎回の電話で目を三角にしていたら、弟君はどう感じる?」
「今は離れているし、今後もいつ戻れるか分からないし・・・」
「一番あいたい兄ちゃんに、いっつも怒られて、心はしぼまない?」
「それは・・・」
「弟は、なんだかんだ言っても、兄ちゃんが一番好きなんだよ。」
「認めてほしいんだよ。褒めてほしいんだよ。 父親は、もう居ないんだから」
ズキン と、くる。
「進はさ 島はしっかりして、頼れる奴だ。って、いつも言ってるよ」
ゲッ なんだそれは。 照れるぞ。
「進に 頼れる奴 なんて言わせた君だから、きっとそんなに頑張らなくても大丈夫だよ。
島君、いつでも父親の話ばかり、しているんじゃない?」
・・・う、図星。
「もっと気楽にさ、話でも聞いてあげなよ」
「――考えてみます。」
「考えるって、何を?」 げ~ 古代、居たのか? 聞いたのか?
「いんや、なんでも。それより、紅茶はあったか?」
守さんは、すっとぼけた。
「悪い。無かったから、微糖のコーヒーにしたよ。」
「おぉ いい塩梅じゃないか」
守さんは、貰ったお菓子の袋をとりだした。いかにも、かわいらしいその袋をみた古代は、露骨に嫌そうな顔をした
「なに、それ」
「俺の同期の丹羽さんの従妹がここにいて、差し入れてくれたんだよ」
「なに、話したんだよ」、
「べつに、艦隊生活はどのような感じか教えてください。そう言われたから。今度、時間のある時に。って答えたよ」
守さんは、にこやか~に答えた。
「あのね・・そういう安請け合いは、やめてくれない。全部、俺にかかってくるんだから」
古代のやつ、ホント嫌そう・・・。
「まぁ、そんなにカリカリするなよ。」
守さんは、袋から焼き菓子のようなものを取り出してかじりだした。
「お、なかなかイケる。島君も、どう」
古代の手からコーヒーをむしり取り、お菓子と一緒に渡してきた。
食べるしか、ないよな。
「あ、ほんとだ。手作りにしてはグーです。」
「そうだろー。
女の子って、こんなに何もないご時世に、どうやってウマいお菓子をつくる方法を見つけてくるかねぇ」 ぱり。ぱりん。いい音がする。
「ほら、毒見はすんだぞ」 守さんが古代に、袋ごとお菓子を渡した。
ぱりん。ぱりん。
「まぁ、普通だよ」 古代がいう。
「そうだろ、普通にウマいだろ」 守さんがいう。
「まぁねぇ・・・」 古代がいう。
なんか、二人で褒めつつ、けなしつつ、仲良く食べてる。
んで、俺はどこにいたらいいんだあっ!! マジで思った。
別れ際に、守さんに言ってみた。
「古代を スーパー弟。にしたのは、守さんですよね。」
「どのへんが?」
「かまいたくなるような、かまわせたくなるような。 やってやりたいって、思わせるでしょ。行動が」
「ざんね~ん。あれは、生まれつき。あいつの才能。 かまいたくなる風情があるから、 いつか、人さらいにさらわれないかと、子供心に冷や冷やだったよ」
はあぁ なんです マジですか その想像 冗談でしょ
「まあ、俺は常にカッコいいスーパー兄ちゃんで、こんちくしょう。と言わせたい。とは思っているけどな」 守さんはニコッとわらった。
・・・多分それは、間違いなく成功しています。
今にして思えば、一度しか会えなくて、残念だった。
ここは、第一艦橋。そろそろシフト交代だ。
森君は少し前に、交代して出て行った。南部と太田がやってきた。今日も、古代はヤル気だ。
中性子星の一件以来、交代時に古代は南部と机上戦術を繰り広げている。今日は北野もいるから、もりあがりそうだ。
あいつは、航海科志望だった。なんていっているけど、絶対これ、好きだよな。
古代の出した設定に南部がこたえる。ダメ出しがでる。唸りながら南部が答える。その端を取り上げて、北野がちゃかす。南部抗議。古代ダメ出し。南部唸る。
こりゃあ、今日も、しばらくかかるな。
艦橋に上がってくる奴は、もういない。一度、いってみるか。
後方観測室の扉が開く。
「やぁ、おつかれさま」
「あら、島君。おつかれさま」
森君、やっぱりいたんだ。 いい笑顔だな。
カップディスペンサーから、コーヒーを頂く。
「古代なら、もうしばらくかかるから」
?
「南部を今日も、シゴいてる」
「あいつを走らせて根性つけば、こんな苦労はないんだけれどな~」
プ、プッ と彼女がふきだす。
「そっか、森君でもそう思うか」 二人してケラケラ笑う。
彼女はいつから、古代を見るようになったのだろう。
最初は無神経で無愛想な(そのように見えたハズの)古代をほどほど見ないように、していたみたいなのに・・・。
いまでは、すっかり打ち解けたらしい。
あの二人を見掛けたようなウワサ話を、時々聞くようなった。
きっと古代に、真意を尋ねてみても
「別に、同じ艦橋メンバーだし。普通だろ」
守さんみたく へらり と言いそうだ。
「じゃあ、お先に」 俺は手を挙げた。
「おやすみなさい。」 彼女も手を振った。
扉が閉まる時、向こうの扉から、誰かが来たのがわかった。 俺は、立ち止まった。
彼女の楽しげな雰囲気が伝わる。 何かを告げた。 ハーモニカの音がする。
言葉は認識できないのに、旋律だけが、やけにしっかり響いてくる。
あぁ、聞き覚えがある。
古代は時々、行方をくらます。士官学校時代、同室の俺が、古代の探索係だった。
大抵、屋上か何処かの片隅に奴はいて、ハーモニカを演奏していた。
あの頃は、ただの寂しい曲だと思っていたのに、これは違う。奴が上手くなっただけじゃなくて・・・。
ほんの少しの寂しさと、包むような、押し出すような・・・。
これって・・どう考えても、森君にだけに向けているワケで・・・
(こんな古代、誰も知らない)
うわ~、何で俺が赤くなるっ
お前の気付けない、守さんの言うところの 欠落したモノは・・・。いつのまにか、彼女に向かって、こんなに湧き上がっていたんだ。
さあ、とっとと部屋へ帰るぞ。
こんなとこに出くわして、喜ぶのは守さんだけだからな。 まったく。
気の置けない友人の、本人すら気づいていない・・・こころ・・か
イケナイ事ヲシッテシマッタ、本当ノ素顔ヲシッテシマッタ。
そんなことを思ったら、5分位の後に古代から業務連絡が入った・・・。
・・・ナニヤッテンダヨ 欠落ヤロウ
古代進の隠された顔。どうか、穏やかに速やかに、あいつが気づきますように・・・
その時、あいつはどんな顔をするのだろう。 これは少し、見てみたい。
~ おわり ~
お題は夢見月*さま より拝借いたしました.
2015 0709 高梨じぇる
*******
高梨じぇるさまからSSが届きました!
島兄弟の年の差を聞いて、同じ反応を返す古代兄弟に、にやにやさせていただきました。
兄として、また亡くなった父親の代わりとなってふんばってる島君の気負いを、
進君は弟目線で、守さんは同じ兄貴の立場で、それぞれ思いやっているところも、いい兄弟、いい友人!だと嬉しくなりましたv
人タラシ は進くんだけにあらず^^ 守さんだって、周りに人か寄ってくるような雰囲気がありますもんね。似たもの同士な兄弟だと。
じぇるさま、素敵なお話をありがとうございました!
hitomi higasino
中性子星での戦闘中、きっと誰もが思ったことを、南部だけが口にした。
「あきらめるな!!」 古代の檄がとんだ。
その後、ガミラスの謎の撤退で、九死に一生を得たわけだ・・・
俺こと島大介は、その時士官学校での通称「撃滅作戦」訓練をしていた頃を思い出していた。
基礎科→本科→専科 大方の学生が専科へ移る前に入ってくる授業が「作戦行動」
小隊行動をとる授業だった。宇宙にでて防衛艦隊任務だろうに、なんで「人質奪還」や「陣取り」のようなことをするのだか。と大方の学生には評判の悪い授業だった。
小隊は、あまり平均的な組み方はされておらず、騎兵専科を取る予定の奴が小隊に2人もいれば、楽勝。1人もいなければ、カモにされかねない地獄の授業だった。
そんな授業のなかで「古代と組めれば赤はつかない」とウワサされるようになった。その頃の古代は、2年で砲雷術専科を終了し(これは異例の事だった)3年目は戦術専科と艦載機専科をとると言っていた。
小隊行動の要は作戦と適切な人員配置。戦術科志望の奴の何人かと組んだけれど、古代は断トツだった。
「あきらめるな」
よれる隊員を励まし作戦をさずけ、これ以上は・・・となれば自分で行ってしまう。
隊長だから良いことではないのだけれど、当たり前のように危険なきざはしを渡っていく。万が一の作戦を、何度あいつから付託されたことやら。でも、必ずあいつは帰ってきた。
そんなころに、初めて守さんにあったんだ。
「はじめまして、進の兄。守です。」 差し出された手と笑顔は、古代そっくりだった。
古代と違って社交的な雰囲気があり、話しやすい人だった。
そういえば寮で古代とおなじ部屋になって、ぎこちない時間を通り過ぎて、やっと話した学校以外のことは、ありきたりな家族のことだった。
「入学式に来ていたのは、島君の母親と弟さん?」
「そう、古代君のところはお兄さん?艦隊勤務の制服だったよな」
「そうだよ。今頃、星の海かな」
そんな風に話し出して、いつの間にかよくある歳の差の話になった。
「うちはさ、兄さんと8つ離れているんだけれど、島君のところはいくつ?」
・・・一番嫌いな話題だ。
「ひとまわり・・・」
「負けた。・・・初めて負けた。 くっそ~」
ん、ん? なんだ、そのリアクションは・・・
「弟を見てるのってどんな感じ?」 は?
「別に仕方ないし、小さいしな。兄貴の義務だ」
・・・父親はいないし。 なんとなく、後ろを向いた。
「ふぅん。優しく見守ってやれよ。 島にいちゃん。 」
「なんだよ」
ムカついて振り向いたら、古代の懐こい笑顔が目にはいった。なんだかムカつく自分が
ちっさくて。
「先輩の弟からのお願いだよ~」 なんてことを言いやがったもんだから、おかしくて。
「なっ なんだよ、それは~」
多分、あの時が本当の寮生活のはじまりだった。
守さんと3人で話をしていて、そのうち飲んでいたお茶がきれて、守さんがカードを取り出した。
「ほーら進。 行ってこーい。」
「なんだよぉ。その言いぐさ」 ははっ 古代むくれてら。
「俺、行きますよ。守さん」
「いーの。いーの。」 「頼むよ。進。」
「いつもの紅茶でいいよな。」 そう言うと、あっさり出て行った。
古代と入れ替わりに女の子が来て、お菓子を置いて行った。彼女の従兄が、守さんの同期だそうだ。
「なぁ、島君」
「はい」
「進って、・・・男色家」
「はあぁ なんで、そうなるんですか!!おかしいです」
「そうだよなぁ。浮いた話が、無さすぎるからさぁ。」 こ・・この人って
「君はあいつのこと、どう見てる」
「どうって・・古代は、誰にでも同じです。」
「同じ?」
う~ん
「等しく。かなぁ」
いつでも少し控えめで、だけど小隊行動時の強力なリーダーシップ 仲間を守ってみせる。的な強い意思表示。
それでもって、不意打ちのあの笑顔。あれが、誤解のもと。何人の女子が落ちてると思いますかっ・・・。
でも、古代自身は・・・まったく意識していない。その時だけ、なのだ。
以前、古代に告白った女子が詰め寄った。
「・・・あの時は大切な仲間で、それ以上でもそれ以下でもなくて・・・」
バスン!
手持ちのバインダーでぶん殴られていたっけ。
「お前ねぇ、もうすこしさ、言いかたってものをさぁ」
「他にどう言えと・・・」ムッツリと黙り込む。
「あんなに気も配るし、目も届くやつなのに、こと、恋愛方面だけは・・」
「欠落してる。か」
・・・そこまで言いますか。守さん。
「小学生くらいの頃は、好きなものいっぱい。な感じだったんだけどなぁ」
いや・・その、いっぱい。は違うのでは・・・
「あいつも大事な人を見つけられればいいけどな」
あれ・・・
「そういえば、進が気にしていたけれど」
?
「君は弟さんと話すと顔がコワくなるんだって」
「なんですか、それ」
「部屋に戻ってきたとき、電話の締めの相手が誰だか、顔ですぐわかるって」
・・・
「弟くんが相手だと目が三角になっているんだって。」
あのやろー、数少ない電話の機会に、何で人の事を話しているんだよ。
「まぁ、怒らないでやってよ」 守さんが柔らかく笑っている。
「島君のとこ、弟さんとひとまわりって聞いたけど、負けたなあ」
なんで、ここの兄弟は揃いも揃って、負けたっていうかな。
「俺もそうだったけれど、父親の不在って堪えるよな」
あぁ・・そうだった。 この人も
「-はい。」 あの日から、寄る辺のない毎日が始まった。
「弟の事、周りに引けを取らないようにと、自然と必死になっちゃうんだよな」
「そうですね。・・・父親が居ないからなんて、言い訳みたいに言われたくないし。そんな目すらも、嫌です。」
「そうだよ。 そうなんだよな。」
――?
「島君 すこし、気負い過ぎてない?」
「毎回の電話で目を三角にしていたら、弟君はどう感じる?」
「今は離れているし、今後もいつ戻れるか分からないし・・・」
「一番あいたい兄ちゃんに、いっつも怒られて、心はしぼまない?」
「それは・・・」
「弟は、なんだかんだ言っても、兄ちゃんが一番好きなんだよ。」
「認めてほしいんだよ。褒めてほしいんだよ。 父親は、もう居ないんだから」
ズキン と、くる。
「進はさ 島はしっかりして、頼れる奴だ。って、いつも言ってるよ」
ゲッ なんだそれは。 照れるぞ。
「進に 頼れる奴 なんて言わせた君だから、きっとそんなに頑張らなくても大丈夫だよ。
島君、いつでも父親の話ばかり、しているんじゃない?」
・・・う、図星。
「もっと気楽にさ、話でも聞いてあげなよ」
「――考えてみます。」
「考えるって、何を?」 げ~ 古代、居たのか? 聞いたのか?
「いんや、なんでも。それより、紅茶はあったか?」
守さんは、すっとぼけた。
「悪い。無かったから、微糖のコーヒーにしたよ。」
「おぉ いい塩梅じゃないか」
守さんは、貰ったお菓子の袋をとりだした。いかにも、かわいらしいその袋をみた古代は、露骨に嫌そうな顔をした
「なに、それ」
「俺の同期の丹羽さんの従妹がここにいて、差し入れてくれたんだよ」
「なに、話したんだよ」、
「べつに、艦隊生活はどのような感じか教えてください。そう言われたから。今度、時間のある時に。って答えたよ」
守さんは、にこやか~に答えた。
「あのね・・そういう安請け合いは、やめてくれない。全部、俺にかかってくるんだから」
古代のやつ、ホント嫌そう・・・。
「まぁ、そんなにカリカリするなよ。」
守さんは、袋から焼き菓子のようなものを取り出してかじりだした。
「お、なかなかイケる。島君も、どう」
古代の手からコーヒーをむしり取り、お菓子と一緒に渡してきた。
食べるしか、ないよな。
「あ、ほんとだ。手作りにしてはグーです。」
「そうだろー。
女の子って、こんなに何もないご時世に、どうやってウマいお菓子をつくる方法を見つけてくるかねぇ」 ぱり。ぱりん。いい音がする。
「ほら、毒見はすんだぞ」 守さんが古代に、袋ごとお菓子を渡した。
ぱりん。ぱりん。
「まぁ、普通だよ」 古代がいう。
「そうだろ、普通にウマいだろ」 守さんがいう。
「まぁねぇ・・・」 古代がいう。
なんか、二人で褒めつつ、けなしつつ、仲良く食べてる。
んで、俺はどこにいたらいいんだあっ!! マジで思った。
別れ際に、守さんに言ってみた。
「古代を スーパー弟。にしたのは、守さんですよね。」
「どのへんが?」
「かまいたくなるような、かまわせたくなるような。 やってやりたいって、思わせるでしょ。行動が」
「ざんね~ん。あれは、生まれつき。あいつの才能。 かまいたくなる風情があるから、 いつか、人さらいにさらわれないかと、子供心に冷や冷やだったよ」
はあぁ なんです マジですか その想像 冗談でしょ
「まあ、俺は常にカッコいいスーパー兄ちゃんで、こんちくしょう。と言わせたい。とは思っているけどな」 守さんはニコッとわらった。
・・・多分それは、間違いなく成功しています。
今にして思えば、一度しか会えなくて、残念だった。
ここは、第一艦橋。そろそろシフト交代だ。
森君は少し前に、交代して出て行った。南部と太田がやってきた。今日も、古代はヤル気だ。
中性子星の一件以来、交代時に古代は南部と机上戦術を繰り広げている。今日は北野もいるから、もりあがりそうだ。
あいつは、航海科志望だった。なんていっているけど、絶対これ、好きだよな。
古代の出した設定に南部がこたえる。ダメ出しがでる。唸りながら南部が答える。その端を取り上げて、北野がちゃかす。南部抗議。古代ダメ出し。南部唸る。
こりゃあ、今日も、しばらくかかるな。
艦橋に上がってくる奴は、もういない。一度、いってみるか。
後方観測室の扉が開く。
「やぁ、おつかれさま」
「あら、島君。おつかれさま」
森君、やっぱりいたんだ。 いい笑顔だな。
カップディスペンサーから、コーヒーを頂く。
「古代なら、もうしばらくかかるから」
?
「南部を今日も、シゴいてる」
「あいつを走らせて根性つけば、こんな苦労はないんだけれどな~」
プ、プッ と彼女がふきだす。
「そっか、森君でもそう思うか」 二人してケラケラ笑う。
彼女はいつから、古代を見るようになったのだろう。
最初は無神経で無愛想な(そのように見えたハズの)古代をほどほど見ないように、していたみたいなのに・・・。
いまでは、すっかり打ち解けたらしい。
あの二人を見掛けたようなウワサ話を、時々聞くようなった。
きっと古代に、真意を尋ねてみても
「別に、同じ艦橋メンバーだし。普通だろ」
守さんみたく へらり と言いそうだ。
「じゃあ、お先に」 俺は手を挙げた。
「おやすみなさい。」 彼女も手を振った。
扉が閉まる時、向こうの扉から、誰かが来たのがわかった。 俺は、立ち止まった。
彼女の楽しげな雰囲気が伝わる。 何かを告げた。 ハーモニカの音がする。
言葉は認識できないのに、旋律だけが、やけにしっかり響いてくる。
あぁ、聞き覚えがある。
古代は時々、行方をくらます。士官学校時代、同室の俺が、古代の探索係だった。
大抵、屋上か何処かの片隅に奴はいて、ハーモニカを演奏していた。
あの頃は、ただの寂しい曲だと思っていたのに、これは違う。奴が上手くなっただけじゃなくて・・・。
ほんの少しの寂しさと、包むような、押し出すような・・・。
これって・・どう考えても、森君にだけに向けているワケで・・・
(こんな古代、誰も知らない)
うわ~、何で俺が赤くなるっ
お前の気付けない、守さんの言うところの 欠落したモノは・・・。いつのまにか、彼女に向かって、こんなに湧き上がっていたんだ。
さあ、とっとと部屋へ帰るぞ。
こんなとこに出くわして、喜ぶのは守さんだけだからな。 まったく。
気の置けない友人の、本人すら気づいていない・・・こころ・・か
イケナイ事ヲシッテシマッタ、本当ノ素顔ヲシッテシマッタ。
そんなことを思ったら、5分位の後に古代から業務連絡が入った・・・。
・・・ナニヤッテンダヨ 欠落ヤロウ
古代進の隠された顔。どうか、穏やかに速やかに、あいつが気づきますように・・・
その時、あいつはどんな顔をするのだろう。 これは少し、見てみたい。
~ おわり ~
お題は夢見月*さま より拝借いたしました.
2015 0709 高梨じぇる
*******
高梨じぇるさまからSSが届きました!
島兄弟の年の差を聞いて、同じ反応を返す古代兄弟に、にやにやさせていただきました。
兄として、また亡くなった父親の代わりとなってふんばってる島君の気負いを、
進君は弟目線で、守さんは同じ兄貴の立場で、それぞれ思いやっているところも、いい兄弟、いい友人!だと嬉しくなりましたv
人タラシ は進くんだけにあらず^^ 守さんだって、周りに人か寄ってくるような雰囲気がありますもんね。似たもの同士な兄弟だと。
じぇるさま、素敵なお話をありがとうございました!
hitomi higasino
スポンサードリンク
プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。