見守る人々 嘘つき祝い2
明日はいよいよ最愛の人と結婚式を挙げる。独身最後の夜を、婚約者は親友たちと過ごすようである。
進のことだから、明日に響くような過ごし方はしないと、そこは心配していない。それよりも雪が気になるのは、突然現れた守のことだ。
彼は弟の身を案じて、下界に降りてきたのだと言う。
雪は、以前一度、ゆめうつつのうちに、守の魂を受け入れたことがあった。その時はあまりにも急な事だったし、守の弟に対する強い思いを、自分が介することで伝えることができるならと、断らなかったのだ。
そして、再度守が現れた。しかも計ったように明日は大事な結婚式を控えている。守がそれを知った上で降りてきたのだと、理解できるのだが、明日は自分達のことだけに集中していたい。それが雪の偽るざる正直な気持ちだった。
間に進がいたから、守とちゃんと話していない。そのことも雪を不安にさせる。当然のように、守は進にくっついて行ってしまった。
『じゃあ、雪君、明日また!』と進が振り返る前に、大柄な兄が手を振って笑っている。
雪は返事のしようがなく、曖昧に頷いた。
「じゃあ、気を付けて帰るんだよ。明日は土方さんたちと来るんだろ? 綺麗な花嫁姿を期待してるから」
「うん。古代君もね。今夜は楽しんできて、って言いたいけど、ほどほどにね」
ほどほどに、の言葉のところで、雪は進の後ろに立っている兄に視線を向けた。
守は『わかった、わかった』と笑うだけだった。嬉しそうに弟の後ろをついていく兄の姿に、雪は<仕方ないな>と思うしかなかった。
<古代独身最後の夜を騒ぐ会>に集合せよ
島の号令一つの下、元ブリッジクルーの南部、相原、太田をはじめ、北野、林、平田、多忙を極める真田も短い時間であるが顔を出すという。
どこから聞きつけたのか、最後に星名が直接古代に連絡してきて、加わった。
かくして、『古代独身最後の夜を騒ぐ会』が開かれることになった。
「加藤隊長と航空隊員は? お前、加藤の結婚パーティーの発起人だったのに、あいつら呼ばないの?」
「山本以外、地球にいないから来られないってさ」
古代より早く南部が島に答えた。
「へえ。南部、航空隊の面子にもちゃんと連絡したんだな?」
「当り前さ。そこは、いい大人だからね」。
一同は、座敷部屋の一番奥に通され、主役の進を囲むようにして、腰を下ろした。もちろん守もだ。
守は、当然のように進の隣に座ろうとしたのだが、島、南部が弟の脇をがっちり固め、動こうとしない。ここに居る全員に守の姿が見えていないので、それも当然の話ではあるのだが……。
守としては面白くないが、進の後ろに立ち、そこから彼らを眺めることにした。
先ずは、島が音頭を取る。「古代、結婚おめでとう! 乾杯!!」「乾杯!」
皆もそれに合わせて祝杯を挙げた。守も手だけを挙げて調子を合わせた。
「ありがとう」と進は赤くなって礼を言う。
守はすでに泣きそうだ。
明日の結婚式の途中で、守は天に戻らなければならない。非常にも神はタイムリミットの延長は
受け入れてくれなかったのだ。
料理が運ばれ、酒も進むにしたがって、一同は、進と雪のなれ初めから結婚に至るまでを、面白おかしく話し出した。
「初めて会ったのは、司令部のエレベーターの前だったよな」
「そうだ。僕も覚えてるよ。古代が僕に『今の話は本当か?』って凄い剣幕で詰め寄ってきたのを
森くんが、『何なの、あなたたちは!』って応戦したのがきっかけだったよな」
「うん。あれは、兄さんのことで頭が一杯になってて……」
いきなり自分の話が出てきて、守は驚いて進を見た。
「そういえば、森君とエンケラドゥスから戻ってきた後、少しずつ仲良くなったんじゃなかったっけ?
あそこで<ゆきかぜ>を見つけたことが、何かのきっかけになったんじゃないか?」
「うん……。言われてみればそうかもな。兄さんが俺たちを引きあわせてくれたんじゃないかって
思う時もあるよ」
進は陽気にジョッキを傾けた。
「僕の方が、古代より早く、森君と出会ってたのになあ。どこでどう違ったんだろう?」
とうの昔に諦めがついている南部だが、古代の前で雪に失恋していたことを話すのは初めてだった。
「ええ? 南部、雪に惚れてたのか?」
「古代、お前が鈍すぎなの。普通にわかるだろ」
「いや、全くわからなかった。そうなのか、南部」
「……昔の事さ」
南部は残っていたビールを、一気に飲み干した。
まあ、呑めと北野や島が南部のグラスにビールを注いだので、彼は今夜の主役に気遣って、進のジョッキにもう一度グラスをカチンと合わせた。
「なにはともあれ、めでたいってことだ」
「うん。ありがとう」
弟たちを見ていると、<平和だな>と守は思う。
当たり前のように夜が明けて、日が沈むまで人々は生活を営む……。
南部の言葉ではないが、どこでどう違ってしまったのだろう、と思うこともあった。それは決して後悔ではなかった。
守は生きるか死ぬかの二択を迫られて、ではなく、自分は守るべきものを守りたいと、この道を選んだのだ。
その結果が、目前の弟の笑顔だった。
(生きていたかったというより、一緒に祝ってやりたかった)
それができない事実に、一抹の寂しさを覚える。
守の胸に涼風が駆けた。冷やりとさせられて今の自分の立場を思い出させるものだった。
そのうちに遅れた真田も合流して、一同はますます盛り上がった。
真田は、思いのほか酒が強く、平田たちに勧められるまま杯を空にしていた。
アルコールがまわると饒舌になる。いつもの真田より、わずかばかり陽気になる程度だったが
それでも、普段話さないようなプライベートな話もした。
進が守との学生時代の話を聞きたいと言えば、つい口が軽くなったのだ。
名前は出さなかったが、当時の恋人の話を聞かせてやった。
「へえ。守兄ちゃん、恋人がいたんだ。俺には一言も話さなかったのに」
時々呂律が怪しくなり始めた進は、真田の話を面白がった。
「守さん、モテただろうなあ。そりゃあいますよね。恋人くらい」
「ああ、あいつはモテたな。弟以上だったかもしれん。だけどあいつも女心にはどちらかというと疎い方だったな」
「えっ! それ、真田さんが言っちゃうんですか!」
とは、北野の失礼なもの言いだ。
「北野君、私の場合、実害はないだろう?」
「あー、あははは、そうなんですか……」
真田は至って真面目に返答したのだが、北野は言ってしまってからシマッタと思ったらしく、返事を曖昧に誤魔化した。
「でもよかった。守兄ちゃんにちゃんと好きな人が居たってことがわかって。兄ちゃん、俺に構ってばかりでそういうこと、後回しにするひとだと思ってたから」
進がしみじみ言う。
「あいつは、精一杯生きたんだと思うよ」
進の言葉を引き継いで、真田が肯定した。
「あの、真田さん、その元彼女って人は、兄の死を知っているのでしょうか?」
「それは……どうなのかな。そこまで詳しくは知らないんだ。すまないね」
真田は、薫のことを話すつもりはないから、そう答えるに留めた。
「軍人と付き合ってる時点で、結婚していなくても覚悟は必要なんじゃないか? ねえ、真田さん」
「ああ。そうだな」
平田の言葉に、真田はそれ以上の追及を受けずに済み、少し安堵して進を見た。
進も納得した目を真田に向けた。
その間、守は顔を引き攣らせて、真田の後ろに立っていた。余計なひと言が出ようものなら
なんとしてでも、それをやめさせるつもりでいた。
「森君は同じ軍人だから、その辺の心配もないよな」
改めて進と雪の結婚話に話を戻すことにした島が、軽い気持ちで話すと、南部もそれに応じて話す。
「彼女、今頃、土方宙将から軍人の妻たる者の心得なんかを聞かされているんじゃないか」
「軍人同士だからってこともあるにはあるけど、それより、僕たち二人は、もう離れないって約束しているんだ」
進の目が赤い。酔いが回っている。
酔っぱらっている弟が、自分からのろけ話を仲間に話す場面に、こんな形ではあるが、立ち会えて心からよかったと守は、感謝した。
しみじみと、守が神に感謝し、感動していると。
「ところで古代、おまえは、森君の夫となる者としての心構えを、土方さんから聞いているのか」
と島か南部が言い出して、面白がってはやし立て、すっかり出来上がった一行は、酔いが回った勢いのまま
『これから土方さんちに行って、古代に説教してもらおう』という話で一致した。
『土方さんは、僕の事を可愛がっていて、いい婿だと言ってくれている』と進が、自慢げに話したせいだ。
結婚式当日の朝、進は何故か別宅で目覚め、青くなるのである。
頭痛を伴った頭で、昨夜の出来事を思い出して更に青くなった。
「進くん?」
聞き覚えのある声が自分を呼んだ。
進は頭痛のする頭を起こしかけたが、痛みは酷くなるばかりだった。
2015 0714 hitomi higasino
*****
続きます。
明日はいよいよ最愛の人と結婚式を挙げる。独身最後の夜を、婚約者は親友たちと過ごすようである。
進のことだから、明日に響くような過ごし方はしないと、そこは心配していない。それよりも雪が気になるのは、突然現れた守のことだ。
彼は弟の身を案じて、下界に降りてきたのだと言う。
雪は、以前一度、ゆめうつつのうちに、守の魂を受け入れたことがあった。その時はあまりにも急な事だったし、守の弟に対する強い思いを、自分が介することで伝えることができるならと、断らなかったのだ。
そして、再度守が現れた。しかも計ったように明日は大事な結婚式を控えている。守がそれを知った上で降りてきたのだと、理解できるのだが、明日は自分達のことだけに集中していたい。それが雪の偽るざる正直な気持ちだった。
間に進がいたから、守とちゃんと話していない。そのことも雪を不安にさせる。当然のように、守は進にくっついて行ってしまった。
『じゃあ、雪君、明日また!』と進が振り返る前に、大柄な兄が手を振って笑っている。
雪は返事のしようがなく、曖昧に頷いた。
「じゃあ、気を付けて帰るんだよ。明日は土方さんたちと来るんだろ? 綺麗な花嫁姿を期待してるから」
「うん。古代君もね。今夜は楽しんできて、って言いたいけど、ほどほどにね」
ほどほどに、の言葉のところで、雪は進の後ろに立っている兄に視線を向けた。
守は『わかった、わかった』と笑うだけだった。嬉しそうに弟の後ろをついていく兄の姿に、雪は<仕方ないな>と思うしかなかった。
<古代独身最後の夜を騒ぐ会>に集合せよ
島の号令一つの下、元ブリッジクルーの南部、相原、太田をはじめ、北野、林、平田、多忙を極める真田も短い時間であるが顔を出すという。
どこから聞きつけたのか、最後に星名が直接古代に連絡してきて、加わった。
かくして、『古代独身最後の夜を騒ぐ会』が開かれることになった。
「加藤隊長と航空隊員は? お前、加藤の結婚パーティーの発起人だったのに、あいつら呼ばないの?」
「山本以外、地球にいないから来られないってさ」
古代より早く南部が島に答えた。
「へえ。南部、航空隊の面子にもちゃんと連絡したんだな?」
「当り前さ。そこは、いい大人だからね」。
一同は、座敷部屋の一番奥に通され、主役の進を囲むようにして、腰を下ろした。もちろん守もだ。
守は、当然のように進の隣に座ろうとしたのだが、島、南部が弟の脇をがっちり固め、動こうとしない。ここに居る全員に守の姿が見えていないので、それも当然の話ではあるのだが……。
守としては面白くないが、進の後ろに立ち、そこから彼らを眺めることにした。
先ずは、島が音頭を取る。「古代、結婚おめでとう! 乾杯!!」「乾杯!」
皆もそれに合わせて祝杯を挙げた。守も手だけを挙げて調子を合わせた。
「ありがとう」と進は赤くなって礼を言う。
守はすでに泣きそうだ。
明日の結婚式の途中で、守は天に戻らなければならない。非常にも神はタイムリミットの延長は
受け入れてくれなかったのだ。
料理が運ばれ、酒も進むにしたがって、一同は、進と雪のなれ初めから結婚に至るまでを、面白おかしく話し出した。
「初めて会ったのは、司令部のエレベーターの前だったよな」
「そうだ。僕も覚えてるよ。古代が僕に『今の話は本当か?』って凄い剣幕で詰め寄ってきたのを
森くんが、『何なの、あなたたちは!』って応戦したのがきっかけだったよな」
「うん。あれは、兄さんのことで頭が一杯になってて……」
いきなり自分の話が出てきて、守は驚いて進を見た。
「そういえば、森君とエンケラドゥスから戻ってきた後、少しずつ仲良くなったんじゃなかったっけ?
あそこで<ゆきかぜ>を見つけたことが、何かのきっかけになったんじゃないか?」
「うん……。言われてみればそうかもな。兄さんが俺たちを引きあわせてくれたんじゃないかって
思う時もあるよ」
進は陽気にジョッキを傾けた。
「僕の方が、古代より早く、森君と出会ってたのになあ。どこでどう違ったんだろう?」
とうの昔に諦めがついている南部だが、古代の前で雪に失恋していたことを話すのは初めてだった。
「ええ? 南部、雪に惚れてたのか?」
「古代、お前が鈍すぎなの。普通にわかるだろ」
「いや、全くわからなかった。そうなのか、南部」
「……昔の事さ」
南部は残っていたビールを、一気に飲み干した。
まあ、呑めと北野や島が南部のグラスにビールを注いだので、彼は今夜の主役に気遣って、進のジョッキにもう一度グラスをカチンと合わせた。
「なにはともあれ、めでたいってことだ」
「うん。ありがとう」
弟たちを見ていると、<平和だな>と守は思う。
当たり前のように夜が明けて、日が沈むまで人々は生活を営む……。
南部の言葉ではないが、どこでどう違ってしまったのだろう、と思うこともあった。それは決して後悔ではなかった。
守は生きるか死ぬかの二択を迫られて、ではなく、自分は守るべきものを守りたいと、この道を選んだのだ。
その結果が、目前の弟の笑顔だった。
(生きていたかったというより、一緒に祝ってやりたかった)
それができない事実に、一抹の寂しさを覚える。
守の胸に涼風が駆けた。冷やりとさせられて今の自分の立場を思い出させるものだった。
そのうちに遅れた真田も合流して、一同はますます盛り上がった。
真田は、思いのほか酒が強く、平田たちに勧められるまま杯を空にしていた。
アルコールがまわると饒舌になる。いつもの真田より、わずかばかり陽気になる程度だったが
それでも、普段話さないようなプライベートな話もした。
進が守との学生時代の話を聞きたいと言えば、つい口が軽くなったのだ。
名前は出さなかったが、当時の恋人の話を聞かせてやった。
「へえ。守兄ちゃん、恋人がいたんだ。俺には一言も話さなかったのに」
時々呂律が怪しくなり始めた進は、真田の話を面白がった。
「守さん、モテただろうなあ。そりゃあいますよね。恋人くらい」
「ああ、あいつはモテたな。弟以上だったかもしれん。だけどあいつも女心にはどちらかというと疎い方だったな」
「えっ! それ、真田さんが言っちゃうんですか!」
とは、北野の失礼なもの言いだ。
「北野君、私の場合、実害はないだろう?」
「あー、あははは、そうなんですか……」
真田は至って真面目に返答したのだが、北野は言ってしまってからシマッタと思ったらしく、返事を曖昧に誤魔化した。
「でもよかった。守兄ちゃんにちゃんと好きな人が居たってことがわかって。兄ちゃん、俺に構ってばかりでそういうこと、後回しにするひとだと思ってたから」
進がしみじみ言う。
「あいつは、精一杯生きたんだと思うよ」
進の言葉を引き継いで、真田が肯定した。
「あの、真田さん、その元彼女って人は、兄の死を知っているのでしょうか?」
「それは……どうなのかな。そこまで詳しくは知らないんだ。すまないね」
真田は、薫のことを話すつもりはないから、そう答えるに留めた。
「軍人と付き合ってる時点で、結婚していなくても覚悟は必要なんじゃないか? ねえ、真田さん」
「ああ。そうだな」
平田の言葉に、真田はそれ以上の追及を受けずに済み、少し安堵して進を見た。
進も納得した目を真田に向けた。
その間、守は顔を引き攣らせて、真田の後ろに立っていた。余計なひと言が出ようものなら
なんとしてでも、それをやめさせるつもりでいた。
「森君は同じ軍人だから、その辺の心配もないよな」
改めて進と雪の結婚話に話を戻すことにした島が、軽い気持ちで話すと、南部もそれに応じて話す。
「彼女、今頃、土方宙将から軍人の妻たる者の心得なんかを聞かされているんじゃないか」
「軍人同士だからってこともあるにはあるけど、それより、僕たち二人は、もう離れないって約束しているんだ」
進の目が赤い。酔いが回っている。
酔っぱらっている弟が、自分からのろけ話を仲間に話す場面に、こんな形ではあるが、立ち会えて心からよかったと守は、感謝した。
しみじみと、守が神に感謝し、感動していると。
「ところで古代、おまえは、森君の夫となる者としての心構えを、土方さんから聞いているのか」
と島か南部が言い出して、面白がってはやし立て、すっかり出来上がった一行は、酔いが回った勢いのまま
『これから土方さんちに行って、古代に説教してもらおう』という話で一致した。
『土方さんは、僕の事を可愛がっていて、いい婿だと言ってくれている』と進が、自慢げに話したせいだ。
結婚式当日の朝、進は何故か別宅で目覚め、青くなるのである。
頭痛を伴った頭で、昨夜の出来事を思い出して更に青くなった。
「進くん?」
聞き覚えのある声が自分を呼んだ。
進は頭痛のする頭を起こしかけたが、痛みは酷くなるばかりだった。
2015 0714 hitomi higasino
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続きます。
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
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