Side Kodai
「任務、ご苦労だった。ありがとう、古代、森君」
真田は、100式から降りると、古代と雪に右手を差し出した。
システム衛星攻略に成功した真田、古代、雪の三人を乗せた100式偵察機が、ヤマトに戻った。
亜空間ゲートのシステム起動も充分可能なようだ。
ユリーシャ・イスカンダルとは誰なのか。何処にいるのか。その真相を真田から告げられた雪は、ただただ驚いた。
非人道的なユリーシャの扱いに憤慨もしたが、彼女を救うにはイスカンダルまで無事に到着するしかないと思い直した。
そして、それは古代も同じ思いだった。
システム衛星に、真田と古代と三人きり。
100式に乗り込んだ時点で、自分は他の二人に命を預けたのも同然だという揺るぎない信頼を、
三人は各々に感じていた。
命がけの任にあって、この場で嘘をつく必要はない。
だからこそ、真田は言いづらいことを雪と古代に告げたのだ。
「これはあなたが持っていてください」
真田から手渡された文庫本を、古代は丁寧に押し戻した。
丁度雪が入ろうとして、観測室のドアを開けると、中には真田と古代がなにやら笑い合っている。
雪はいつものように古代に会いに来た。
古代一人だと思っていたのが、先客があったのだ。
「あ、すみません」と咄嗟に謝った雪に、真田と古代は、同時に「構わないよ。どうぞ」と雪を中に招いた。
「いえ、お邪魔しちゃ悪いので」
ぺこりと頭を下げる雪に対して、真田は意味ありげに笑って言った。
「邪魔なのは、私の方じゃないのかい? 用は済んだから、古代は君に返すよ」
「真田さん!」
「私に返すって、どういう……」
真田の言葉に、顔を真っ赤にしたのは雪だけでなく、古代もだ。
「君達の顔を見れば一目瞭然じゃないのかな?」
古代をちらっと見やってから、真田はさっさと出て行こうとする。
「あのっ、副長!お聞きしたいことが! 新見さんは、どうなってしまうのでしょうか」
雪の問いに、真田だけでなく、古代までもが、おや?と雪の方を向いた。
「新見君は……独房で謹慎の身だ。解かれることはほぼないだろう」
「あの人、私を心配だ、と言ったんです。言われた時は、何か裏があるんだろうって勘繰ってしまいましたけど。
今になって思えば、あれは本当にユリーシャや私について何も知らなくて、心配していただけなんじゃないかって」
「……、どうしてそう思う?」
「駆け引きのような問答は、私大嫌いなんです。初めは新見さんも、私を試していろいろ質問をぶつけてくるんだと思いました。
だけど、嘘じゃない目を見たんです。私を試そうとしている目じゃないとわかりました」
真田は雪の言葉を聞いて、視線を下にずらした。
「彼女が加担した反乱は、赦し難い。けれど、まだ自分を信用してくれる人間が、この艦に少なくとも二人はいるんだと彼女に伝えよう」
「ありがとうございます。副長」
「信頼は、一度失ってしまえば再び築くことは非常に困難だ。厳しいが、彼女はそれをやらなければならない。君の言葉は糧になるだろう」
そう言うと、真田はじゃあ、と片手を上げて退室していった。
古代は、真田と雪のやりとりに口を挟まずに、じっと聞いていた。
「入れば?」と手招きをして、雪を招き入れる。
「真田さんと話してたの?」
「ああ。兄貴の詩集を返すって言われたけど、俺がもつより真田さんに持っていてほしいって言ったんだ」
「そう。お兄さんの話も聞けたのね?」
「うん」
古代は、言葉少なに頷いた。
自分が頷くと、雪も嬉しそうに笑っている。雪の穏やかな笑顔を古代は久しぶりに見た気がした。
異星人疑惑の渦中にいて、恐らく心細い思いをしていたに違いない。そんな雪の嬉しそうな顔を見て、古代は心底(よかった)と思った。
「ユリーシャに会えたの?」
「うん。自動航法室で眠っていたわ。確かに、私にそっくりだった。自分でもそう思うくらい」
「そうか。今はゆっくり休んでいるんだろう。イスカンダルに着いたら、起こしてあげたらいい」
雪は無言で目を細めて頷いた。
「何? 俺、へんなこと言った?」
「ううん。そうじゃないよ。古代君は優しい人だなって思って。親切で良い人」
「俺が? 優しい? 親切? 良い人?」
古代は、雪からかけられた言葉に戸惑って、オウム返しに訊きかえした。
「そうよ。だから、今日もちゃんとお礼が言いたくて来たの」
「何のお礼? 」
「この前、私を励ましてくれたでしょ? 中原中也を知ってるってことは、地球人だって。嬉しかったの、私」
「ああ……」
「たとえ任務だろうとね。親切にされるのは嬉しいものよ。ありがとう」
一瞬、何のことだろう? と古代は考えた。そして、以前も似たような言葉を雪にかけられて、
その時自分は「任務だから当然だ」と答えたことを思い出した。
あの時は、確かにそうだったが……。
「あれは、その、任務じゃないよ。前は任務だからって答えたけど、先日のあれは、そうじゃない」
「そうなの?」
「うん」
「任務じゃないんだ。古代君の気持ちなんだ……」
「えっと、まあ、そうなんだけど……」
二人とも少し照れ臭い。互いの言葉を嬉しく思っているのに、素直に受け入れようにも、どういえばいいのかわからない。
「あのさ、俺もっ、この前の、君のあれは、驚いたけど、嬉しかった」
自分も何か言わなくては、と絞り出した言葉は、支離滅裂で、要領を得ないものだった。
今度は雪の頭の中が疑問符だらけになった。
「私の? 何だろう? 私、古代君に何かしたっけ……」
「あれだよ、俺の無事を喜んで、泣いてくれた」
「あっ」
雪の頭の中の疑問符が弾けると、中から出てきたのはハートの矢だった。
甘ったるい感情の矢が、雪の胸をぷちぷちと突いた。
息が苦しくなるほど、胸が痛い。雪は両手で自分の胸を押さえた。
「あの時は、ごめんなさい。私、つい嬉しくて、感情的になってしまって。びっくりしたよね?」と雪が恐る恐る古代に訊ねる。
「いきなり抱きつかれて泣かれたから、びっくりしたけど……」
古代は、あの時、どうしたらベストだったのか、未だに答えが見つからないようだ。情けなさそうに眉を下げて、雪を見る。
「ごめんね」
上目使いで古代に詫びる雪に、古代の心臓は、どきどきと彼女に聞こえるくらい大きく打った。
「いや、全然、そんなのはいいんだ。雪が、俺の無事を」
と言いかけて、古代は、呆けたように口をぽかんと開けた。
「私のこと、雪って呼んでくれた?」
「ごめんっ! 馴れ馴れしいよな! 悪気はないんだ! つい、その、その方が呼びやすいから」
「馴れ馴れしいなんて、ちっとも。親しみを込めたんだよね? 嬉しい」
てっきり怒ると思った雪が、頬を染めてはにかんでいる。
古代は、今度こそ言葉を失って息を呑んだ。
こういった場合の対応を、古代は未経験なので、どうすればいいのかわからない。
雪は、胸の前で手を握り、今にも泣き出しそうな目をして古代を見る。
自分の言葉を、彼女は待っている。
「なんで、泣きそうなんだ?」
ここでそれを聞くのかよ、と古代は自分で自分に突っ込みを入れた。
雪は、首を振って、はっきり答えない。
「また、俺が、泣かしてるの?」
雪は肯定する代わりに、笑いながら涙を零した。
「わっ、ちょっ、どうすりゃ、泣き止む?」
彼女の肩に手を置いて、下から覗きこんでみるが、「泣かないで」とお願いするのは違う気がした。
「優しいのは、俺じゃなくて、雪の方だ」
それは素直な古代の今の気持ちだった。
口にすると、益々雪は涙を流した。
「あれ? 逆効果か……」
おろおろする古代の本音を聞いた雪は、泣きながら、フフっと笑った。
雪が笑ったことが、古代はとても嬉しかった。ただ嬉しかった。
(そうか。それだけでいいんだ)
古代は、しばらく頭を掻いていた右手を下してその手を見る。それから左手の掌も。
誰かの為に怒り、泣き、悲しみ、喜んで泣く雪を、古代は愛おしさのあまり、抱きしめたい、と心から思った。
人の本質を、打算じゃなく、素直な心で感じる能力に、雪は長けているんだ。
自分が誰なのかわからなくて不安がっていた本人が、人の心に寄り添うことは、苦にしない。
それが、君なんだよ、と雪に伝えたかった。
頭で考えるより、感情に素直に従った古代は、雪に向けて大きく両手を広げた。
2016 0920 hitomi higasino
*****
書いてて、こそばゆい;;けどなんだか嬉しい^^
「任務、ご苦労だった。ありがとう、古代、森君」
真田は、100式から降りると、古代と雪に右手を差し出した。
システム衛星攻略に成功した真田、古代、雪の三人を乗せた100式偵察機が、ヤマトに戻った。
亜空間ゲートのシステム起動も充分可能なようだ。
ユリーシャ・イスカンダルとは誰なのか。何処にいるのか。その真相を真田から告げられた雪は、ただただ驚いた。
非人道的なユリーシャの扱いに憤慨もしたが、彼女を救うにはイスカンダルまで無事に到着するしかないと思い直した。
そして、それは古代も同じ思いだった。
システム衛星に、真田と古代と三人きり。
100式に乗り込んだ時点で、自分は他の二人に命を預けたのも同然だという揺るぎない信頼を、
三人は各々に感じていた。
命がけの任にあって、この場で嘘をつく必要はない。
だからこそ、真田は言いづらいことを雪と古代に告げたのだ。
「これはあなたが持っていてください」
真田から手渡された文庫本を、古代は丁寧に押し戻した。
丁度雪が入ろうとして、観測室のドアを開けると、中には真田と古代がなにやら笑い合っている。
雪はいつものように古代に会いに来た。
古代一人だと思っていたのが、先客があったのだ。
「あ、すみません」と咄嗟に謝った雪に、真田と古代は、同時に「構わないよ。どうぞ」と雪を中に招いた。
「いえ、お邪魔しちゃ悪いので」
ぺこりと頭を下げる雪に対して、真田は意味ありげに笑って言った。
「邪魔なのは、私の方じゃないのかい? 用は済んだから、古代は君に返すよ」
「真田さん!」
「私に返すって、どういう……」
真田の言葉に、顔を真っ赤にしたのは雪だけでなく、古代もだ。
「君達の顔を見れば一目瞭然じゃないのかな?」
古代をちらっと見やってから、真田はさっさと出て行こうとする。
「あのっ、副長!お聞きしたいことが! 新見さんは、どうなってしまうのでしょうか」
雪の問いに、真田だけでなく、古代までもが、おや?と雪の方を向いた。
「新見君は……独房で謹慎の身だ。解かれることはほぼないだろう」
「あの人、私を心配だ、と言ったんです。言われた時は、何か裏があるんだろうって勘繰ってしまいましたけど。
今になって思えば、あれは本当にユリーシャや私について何も知らなくて、心配していただけなんじゃないかって」
「……、どうしてそう思う?」
「駆け引きのような問答は、私大嫌いなんです。初めは新見さんも、私を試していろいろ質問をぶつけてくるんだと思いました。
だけど、嘘じゃない目を見たんです。私を試そうとしている目じゃないとわかりました」
真田は雪の言葉を聞いて、視線を下にずらした。
「彼女が加担した反乱は、赦し難い。けれど、まだ自分を信用してくれる人間が、この艦に少なくとも二人はいるんだと彼女に伝えよう」
「ありがとうございます。副長」
「信頼は、一度失ってしまえば再び築くことは非常に困難だ。厳しいが、彼女はそれをやらなければならない。君の言葉は糧になるだろう」
そう言うと、真田はじゃあ、と片手を上げて退室していった。
古代は、真田と雪のやりとりに口を挟まずに、じっと聞いていた。
「入れば?」と手招きをして、雪を招き入れる。
「真田さんと話してたの?」
「ああ。兄貴の詩集を返すって言われたけど、俺がもつより真田さんに持っていてほしいって言ったんだ」
「そう。お兄さんの話も聞けたのね?」
「うん」
古代は、言葉少なに頷いた。
自分が頷くと、雪も嬉しそうに笑っている。雪の穏やかな笑顔を古代は久しぶりに見た気がした。
異星人疑惑の渦中にいて、恐らく心細い思いをしていたに違いない。そんな雪の嬉しそうな顔を見て、古代は心底(よかった)と思った。
「ユリーシャに会えたの?」
「うん。自動航法室で眠っていたわ。確かに、私にそっくりだった。自分でもそう思うくらい」
「そうか。今はゆっくり休んでいるんだろう。イスカンダルに着いたら、起こしてあげたらいい」
雪は無言で目を細めて頷いた。
「何? 俺、へんなこと言った?」
「ううん。そうじゃないよ。古代君は優しい人だなって思って。親切で良い人」
「俺が? 優しい? 親切? 良い人?」
古代は、雪からかけられた言葉に戸惑って、オウム返しに訊きかえした。
「そうよ。だから、今日もちゃんとお礼が言いたくて来たの」
「何のお礼? 」
「この前、私を励ましてくれたでしょ? 中原中也を知ってるってことは、地球人だって。嬉しかったの、私」
「ああ……」
「たとえ任務だろうとね。親切にされるのは嬉しいものよ。ありがとう」
一瞬、何のことだろう? と古代は考えた。そして、以前も似たような言葉を雪にかけられて、
その時自分は「任務だから当然だ」と答えたことを思い出した。
あの時は、確かにそうだったが……。
「あれは、その、任務じゃないよ。前は任務だからって答えたけど、先日のあれは、そうじゃない」
「そうなの?」
「うん」
「任務じゃないんだ。古代君の気持ちなんだ……」
「えっと、まあ、そうなんだけど……」
二人とも少し照れ臭い。互いの言葉を嬉しく思っているのに、素直に受け入れようにも、どういえばいいのかわからない。
「あのさ、俺もっ、この前の、君のあれは、驚いたけど、嬉しかった」
自分も何か言わなくては、と絞り出した言葉は、支離滅裂で、要領を得ないものだった。
今度は雪の頭の中が疑問符だらけになった。
「私の? 何だろう? 私、古代君に何かしたっけ……」
「あれだよ、俺の無事を喜んで、泣いてくれた」
「あっ」
雪の頭の中の疑問符が弾けると、中から出てきたのはハートの矢だった。
甘ったるい感情の矢が、雪の胸をぷちぷちと突いた。
息が苦しくなるほど、胸が痛い。雪は両手で自分の胸を押さえた。
「あの時は、ごめんなさい。私、つい嬉しくて、感情的になってしまって。びっくりしたよね?」と雪が恐る恐る古代に訊ねる。
「いきなり抱きつかれて泣かれたから、びっくりしたけど……」
古代は、あの時、どうしたらベストだったのか、未だに答えが見つからないようだ。情けなさそうに眉を下げて、雪を見る。
「ごめんね」
上目使いで古代に詫びる雪に、古代の心臓は、どきどきと彼女に聞こえるくらい大きく打った。
「いや、全然、そんなのはいいんだ。雪が、俺の無事を」
と言いかけて、古代は、呆けたように口をぽかんと開けた。
「私のこと、雪って呼んでくれた?」
「ごめんっ! 馴れ馴れしいよな! 悪気はないんだ! つい、その、その方が呼びやすいから」
「馴れ馴れしいなんて、ちっとも。親しみを込めたんだよね? 嬉しい」
てっきり怒ると思った雪が、頬を染めてはにかんでいる。
古代は、今度こそ言葉を失って息を呑んだ。
こういった場合の対応を、古代は未経験なので、どうすればいいのかわからない。
雪は、胸の前で手を握り、今にも泣き出しそうな目をして古代を見る。
自分の言葉を、彼女は待っている。
「なんで、泣きそうなんだ?」
ここでそれを聞くのかよ、と古代は自分で自分に突っ込みを入れた。
雪は、首を振って、はっきり答えない。
「また、俺が、泣かしてるの?」
雪は肯定する代わりに、笑いながら涙を零した。
「わっ、ちょっ、どうすりゃ、泣き止む?」
彼女の肩に手を置いて、下から覗きこんでみるが、「泣かないで」とお願いするのは違う気がした。
「優しいのは、俺じゃなくて、雪の方だ」
それは素直な古代の今の気持ちだった。
口にすると、益々雪は涙を流した。
「あれ? 逆効果か……」
おろおろする古代の本音を聞いた雪は、泣きながら、フフっと笑った。
雪が笑ったことが、古代はとても嬉しかった。ただ嬉しかった。
(そうか。それだけでいいんだ)
古代は、しばらく頭を掻いていた右手を下してその手を見る。それから左手の掌も。
誰かの為に怒り、泣き、悲しみ、喜んで泣く雪を、古代は愛おしさのあまり、抱きしめたい、と心から思った。
人の本質を、打算じゃなく、素直な心で感じる能力に、雪は長けているんだ。
自分が誰なのかわからなくて不安がっていた本人が、人の心に寄り添うことは、苦にしない。
それが、君なんだよ、と雪に伝えたかった。
頭で考えるより、感情に素直に従った古代は、雪に向けて大きく両手を広げた。
2016 0920 hitomi higasino
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書いてて、こそばゆい;;けどなんだか嬉しい^^
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管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
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