「笑顔の理由」



「皆が家族だって言ったでしょう?」
雪の発言の意図がわからなくて、いつもにも増して古代は???という顔をする。まわりもった言い方は彼女らしくない。
「それでね、これ」

と手渡されたのは写真が数枚。ああ、あの時のな、としばらく経ってから思い出すような写真ばかりだ。
「で、なんで君がこれを?」
「この集合写真をね、古代君の部屋に飾ればいいんじゃないかなって思ったの。ほら、家族が増える感じしない?」
「家族、か」
ヤマトにも家族写真は二枚持ち込んである。幼いころの自分と兄と両親。 兄と二人の写真。どちらも笑顔のいい写真だ。

そして、この集合写真。
いい写真だと思う。

艦橋のメンバー他数名。たまたまだったか、女子クルーが徳川機関長に写真を撮ろうと言い出したのがきっかけだったか。
あれよあれよと、その場にいた全員がカメラに収まった。初めに写真を撮る予定だったアナライザーまで
自分も入れてくれと言ってきたので、タイマーセットで撮ったのだったと思い出した。




「ああ。みんないい顔してるな」
「ね?」
二枚目、三枚目となってくるといつ撮られたものなのか思い出せない。
「これは?誰が撮ったか覚えてる?」
「太田さん。写真撮るのが趣味だって」
「あいつ、艦橋にもカメラ持ち込んで、非番の時に南部や相原と撮ってたな」
「集合写真も太田さんのカメラで撮ったものよ」


雪は、太田には何度か写真のモデルになるようにお願いされたことがあった。 都合が合えばいいわよと返事しておいたが、
雪本人はそんな事はけろりと忘れていた。ヤマト艦内一高値の花と噂される雪である。
おおっぴらに口説こうとするような輩はいなかったが、お近づきになりたいと願う草食系男子は多いのだった。

「そういえば、私、太田さんに写真のモデルを頼まれて一枚撮ってたわ」
「君が?」
もののついでといった調子で、雪は思い出していた。
「そうなの。モデルになってくれって」
「ふーん」
古代は少し面白くない。自分の知らないところで、彼女は誰か他の男の前でポーズを取っていたりするのだろうかと。

「で、撮ったんだ?」
「そう。これよ」

古代は興味なさ気にちら見する。内心気になってしかたないのだが。

「アナライザー……?」
雪が差したのは、アナライザーとのツーショット写真だった。
「アナライザーが珍しく自己主張して二人で撮らせろって言って、太田さんを困らせちゃって」
「そうなんだ……」
(全く。油断も隙もあったもんじゃない)
自分と雪はいい雰囲気である。これはヤマトの乗組員の周知の事実である、と古代は思っている。

エンジン音が、二人の会話の合間に聞こえる。
ここはヤマトで、イスカンダルからの帰途につく途中だということを時々忘れてしまいそうになる。


「ね?古代君、一緒に記念写真を撮らない?」
「二人の?何の記念?」

と言ってしまってから、古代は(こんな時は兄さんみたいに気の利いた台詞の一つでも言えれば)と後悔する。


君と再会できた記念――とかなんとか言えばかっこつくのだろうが。 気の利いた言葉はまだ言えない。

「何でもいいの。二人で撮ることに意味があるんだから!」
雪は積極的に古代の腕を引っ張った。








******


要はなんでもいいのだ。一緒に撮れるのであれば。 照れ隠しの為だと自覚している古代は淡々とセットをし始めた。

「上手く撮れるかな?」
「ああ。ここにセットしてと。雪、こっち見て?よし。OK」
タイマーセットを完了すると、古代が早歩きで彼女の傍まで来る。そして雪の右側に立ち、そーっと左腕を彼女の肩に伸ばす。

古代の手が、躊躇することなく雪の肩を抱いた。

「あ!!!」

何度となく彼に抱かれた肩である。今更という気がしないでもない。






なのに。

どうしようもなく。

鼓動が早くなる。




まるでスローモーションのように、彼のしなやかな長い指先がゆっくりと雪の肩に止まる。

(ウソ?夢?これは夢??)


「え?」

咄嗟に雪は、古代の手の甲をぎゅうっと抓っていた。

「い、痛ってー!」




(夢じゃ、ない??)

夢ではなく、隣の古代は今自分の肩を、彼の意思で抱こうとした。その事実が、雪に満面の笑みを浮かべさせている。








pipipipi……。タイマーの音と共に、無情にもシャッターが下りた。




「なんで?」

放心した古代の心の声は、思わず口からそのまま声となって出た。




「ごめんなさい。夢じゃないかと思ったの」
雪はすまなさそうに古代に詫びる。 嫌がっている素振りではない。
むしろこうなって喜んでいるような……。
雪はもじもじしながら、「ごめんね、古代君。痛かったでしょう?」と上目づかいで古代を見た。


女心には疎い。女の子の扱いが超絶に下手である。
女性とのスキンシップがどこまで許されるのか?どこからがセクハラになるのか?
古代の思考は、一気にそこまで墜ちてしまった。

「慣れないことはするもんじゃないな……」
雪には聞こえないくらいの小声で呟く古代。
「ねえ、もう一枚撮ろう?」彼女からそう誘われたが、 残念ながら今回はこれでバッテリー切れで終了。
古代は、彼にとっても念願のツーショット写真が、セクハラ紛いの写真になるところだったとしなくてもいい反省をし始めるのだった。
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