「Just say I do」










後先を考えずに”プロポーズ”してしまった、ヤマトのエレベーターの中。
息を吹き返した彼女を抱いていると、身に纏ったペールピンクのドレスが
どうも、彼女自身の死に対する覚悟のように思えてきて、一緒に生きて行きたいと強く願った。

そして咄嗟に口をついて出た言葉が、プロポーズだったというわけだ。
『雪。君の覚悟も全部僕が引き受ける。いや引き受けたいんだ。できるかどうかまだわからないけど。結婚しよう』



恥ずかしいから止めて欲しいと、かろうじて辞退した<高砂>の席ではなかったが、
それでも、こんなに大勢のゲストを招待しての結婚式は苦手だ。人生で一度で十分だ。
二度も三度も繰り返す人は凄い、とある意味尊敬してしまう。




と、まるで他人事の話のようだが、そうでもしていなければこの緊張感は、増すばかりだ。

「古代くん?」



ガチガチに緊張している僕の横で、彼女は真摯な面持で、じっと祝辞を聞いていた。
僕は、「最後の謝辞、全部忘れた……」と震える声で伝えた。
雪は幾分表情を和らげて、「大丈夫よ、古代くん」と目を合わせた。

初めて土方さんの家に挨拶に訪れた時も緊張したけれど、今回もそれと同じかそれ以上に切羽詰っている。

(やっぱり格式ばった式は苦手だ)
言葉に出して言おうものなら、きっと雪は残念がるだろうから一度も言わなかったけれど。

「ありがとう。古代くん。私の為に無理してくれたんでしょ? 本当は二人きりで外国にでも行って
のんびりしたセレモニーを楽しみたかったんじゃない?」
「そんな事はないよ。いや、雪がそうしたいなら、それも追加する? オプションで選べたと思うけど」
「もうっ!古代くんたら」
冗談のつもりじゃなく本気で言ったので、雪はそれも可笑しかったようだ。

「いいわよ。じゃあ、この式が終わったら、今からでも追加できるか聞いてみる」

見詰め合って微笑み返すと、もう謝辞を思い出すのは無駄な努力だと諦めがついた。

二人に血の繋がった家族はいない。けれどあの大航海で生死を共にしたヤマトクルーを始め
大勢の人が、祝ってくれている。
素直に感謝したいと思った。








あの日、地球が見えてきた第一艦橋に踏み入れた一歩目と同じように。

彼女と幸せになりたい。


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