雪から来た返事は「明日はお迎えにいけない。家で待ってる」だった。
古代は、ゲートを出てすぐに(今着いた。これから帰るから)とメールを返した。
見上げると、当たり前のように空が広がっている。ここはもう地下都市ではない。
平和な日々が続いている。彼は地球再建の為、身を粉にして働いてきた。
一年のうちの三分の一程度にしか地球に帰って来れなくなるほどに。
宇宙からの物資を運ぶ輸送船の護衛任務に就いていた。
似通ったスケジュールで移動を繰り返す日々の中で、疲労を感じないではなかったが
地球に帰ってくるたびに、復興していく過程を見るにつけ、自分たちの仕事に意味を見出す事が出来た。
イスカンダルから帰還して4年ほどしかたっていないが、地球は復興しつつあった。
古代と雪は、互いに多忙な身でありながら、離れている間も愛を育んできた。
古代が、雪の待つ家に帰るのも3か月ぶりだ。
彼は空の月を見上げて、はあっと白い息を吐き出す。
季節はすっかり冬に移行していた。
3か月前、ここのターミナルに雪と一緒に来たときは、彼女は確かブラウスに
薄手のカーディガンといういでたちだったと思う。
(四季があるっていいな)
宇宙に出ている間は、時間の経過も四季の移ろいも感じることができないから。
何気ない日常を感じることが、幸福なのだとつくづく思うのだ。
『きっと帰ってくる頃には寒くなっているから、荷物になるでしょうけど、暖かいインナーが必要よ』という彼女に助言に従って
一枚、スタッフサックに潜り込ませて正解だった。気密性の『高いインナー一枚だけで、かなり暖かい。
同僚たちと別れると、古代の足は自然と速くなった。
雪が初めて彼の官舎の部屋に入ったのは、イスカンダルから帰還してわりとすぐだった。
そこは立て直しが決まっていて、年明け早々に取り壊される予定だった。
引っ越し先がみつかるまでの少しの間だからという理由で、彼の部屋は殺風景そのものだった。
独身男のひとり暮らしなら、それもしかたのないことなのだろうけど。
第一印象が「暗い」「寒い」「狭い」で、古代君にそれを言うと
苦笑いして、「仕方ないだろ」と一言。
家具も備え付けのテーブルにデスク、二段ベッドと簡素なものだ。
軍支給品であるから、華美なものは一切ない。
そこで雪は、古代に一冬を暖かく過ごしてほしくて、あるものをコッソリこの部屋に持ち込んだのだ。
それはコタツだった。
この時代にコタツ??と思われるかもしれないけど、密かにレトロブームが来ていて
20世紀の遺物のような、暖房器具、コタツが今、脚光を浴びているのです!
等と、コタツを見てポカンとしている古代に説明したのだ。
初めて二人でその温もりを確かめた時、何とも言えない暖かさと、触れ合った足先が恥ずかしくて
いきなり笑いあったものだ。
あの暗くて狭い官舎に、ひと時の温もりを与えてくれたコタツは、その後も彼の新居へとお供したのだった。
「転寝」
染みついた彼の匂いが心地よくて、雪は古代が帰ってくるまでの時間をコタツで横になっていた。
独り暮らしの頃から、自分の代わりに彼の身体を暖め続けていたコタツ。
二人が入れば狭くて嫌でも足が触れ合って、喧嘩したあともすぐに仲直りできたっけ。
雪はうとうとしながら携帯を見た。
手元の携帯は、メール着信を知らせている。彼がもう30分くらいで帰ってくる。
少しだけ。
ちょっとだけ、20分だけ。
見ていないTVをつけっ放しにしたのも、すぐに起きるという前提があったから。
(古代君が帰ってくる少し前から、キッチンに立てばいい。時間をかけて作ったおでんは出来上がってるし)
頭の中で、細やかな晩餐が始まっている。
お鍋の蓋を開けて、もう一度味見をして、『いいにおいだなあ』って言いながら帰ってくる人を待つだけ。
「ただいま」
古代は部屋に入ってくるなり「美味そうなにおいだな。今日は煮物?」などと言いながら
雪を探す。
鍋の火は止めてあり、まだ湯気が立っている。しかしキッチンに妻の姿はない。
「雪?」
少し心配になって、風呂場にも声をかけたが、そこにも姿はなかった。
(また寝てるのか?)
案の定、雪は居間のコタツで丸くなっていた。
肩を揺すって雪、と呼べば彼女は「おかえりなさい」と目をこすってハグをねだった。
伸ばされた両手を迎えにいくようにして、古代が顔を近づける。
そして頬にちゅっとキスをした。
「ダメじゃないか。またコタツで横になってて。風邪ひくぞ?」
「大丈夫。ほんの20分ほどだから」
「だめだって。今大事な時だろ?風邪ひいちゃマズイ」
「うん。これから気をつける」
ね?だから抱きしめて?
雪はいたずらっぽい笑みを浮かべて夫を見た。
「しようがないお姫様だなあ。ほら」
自分の首に腕を巻き付けてくる雪を、抱きかかえるようにして起こしてやる。
「流石にそろそろ前からじゃ抱き合えないなあ」
「そうね」
大きなお腹を愛おしそうに見る妻を、夫は後ろからそっと抱きしめた。
2013 1112 hitomihigasino
****
<あとがき>
2200 キリバンゲッター 柊 悠さまからのリクエスト『こたつ』をネタに古代×雪のほのぼのストーリーでした。
ほっこりできるSSを目指してみましたが、いかがでしょうか??
昨日から全国的に冷え込んでいるせいもあって、鍋物(特におでん)を登場させてみました。
おでん、こたつ=ほっこり という図式。
ちなみに続編の情報が届いていないので(現在2013 11.12)イスカンダル編後にガトランティス戦があったのかもしれないですが、すっとばしました。
なんだかんだあって、今は幸せなんですよ~~っていうお話です。
素敵なリクエストを柊様、ありがとうございました!
古代は、ゲートを出てすぐに(今着いた。これから帰るから)とメールを返した。
見上げると、当たり前のように空が広がっている。ここはもう地下都市ではない。
平和な日々が続いている。彼は地球再建の為、身を粉にして働いてきた。
一年のうちの三分の一程度にしか地球に帰って来れなくなるほどに。
宇宙からの物資を運ぶ輸送船の護衛任務に就いていた。
似通ったスケジュールで移動を繰り返す日々の中で、疲労を感じないではなかったが
地球に帰ってくるたびに、復興していく過程を見るにつけ、自分たちの仕事に意味を見出す事が出来た。
イスカンダルから帰還して4年ほどしかたっていないが、地球は復興しつつあった。
古代と雪は、互いに多忙な身でありながら、離れている間も愛を育んできた。
古代が、雪の待つ家に帰るのも3か月ぶりだ。
彼は空の月を見上げて、はあっと白い息を吐き出す。
季節はすっかり冬に移行していた。
3か月前、ここのターミナルに雪と一緒に来たときは、彼女は確かブラウスに
薄手のカーディガンといういでたちだったと思う。
(四季があるっていいな)
宇宙に出ている間は、時間の経過も四季の移ろいも感じることができないから。
何気ない日常を感じることが、幸福なのだとつくづく思うのだ。
『きっと帰ってくる頃には寒くなっているから、荷物になるでしょうけど、暖かいインナーが必要よ』という彼女に助言に従って
一枚、スタッフサックに潜り込ませて正解だった。気密性の『高いインナー一枚だけで、かなり暖かい。
同僚たちと別れると、古代の足は自然と速くなった。
雪が初めて彼の官舎の部屋に入ったのは、イスカンダルから帰還してわりとすぐだった。
そこは立て直しが決まっていて、年明け早々に取り壊される予定だった。
引っ越し先がみつかるまでの少しの間だからという理由で、彼の部屋は殺風景そのものだった。
独身男のひとり暮らしなら、それもしかたのないことなのだろうけど。
第一印象が「暗い」「寒い」「狭い」で、古代君にそれを言うと
苦笑いして、「仕方ないだろ」と一言。
家具も備え付けのテーブルにデスク、二段ベッドと簡素なものだ。
軍支給品であるから、華美なものは一切ない。
そこで雪は、古代に一冬を暖かく過ごしてほしくて、あるものをコッソリこの部屋に持ち込んだのだ。
それはコタツだった。
この時代にコタツ??と思われるかもしれないけど、密かにレトロブームが来ていて
20世紀の遺物のような、暖房器具、コタツが今、脚光を浴びているのです!
等と、コタツを見てポカンとしている古代に説明したのだ。
初めて二人でその温もりを確かめた時、何とも言えない暖かさと、触れ合った足先が恥ずかしくて
いきなり笑いあったものだ。
あの暗くて狭い官舎に、ひと時の温もりを与えてくれたコタツは、その後も彼の新居へとお供したのだった。
「転寝」
染みついた彼の匂いが心地よくて、雪は古代が帰ってくるまでの時間をコタツで横になっていた。
独り暮らしの頃から、自分の代わりに彼の身体を暖め続けていたコタツ。
二人が入れば狭くて嫌でも足が触れ合って、喧嘩したあともすぐに仲直りできたっけ。
雪はうとうとしながら携帯を見た。
手元の携帯は、メール着信を知らせている。彼がもう30分くらいで帰ってくる。
少しだけ。
ちょっとだけ、20分だけ。
見ていないTVをつけっ放しにしたのも、すぐに起きるという前提があったから。
(古代君が帰ってくる少し前から、キッチンに立てばいい。時間をかけて作ったおでんは出来上がってるし)
頭の中で、細やかな晩餐が始まっている。
お鍋の蓋を開けて、もう一度味見をして、『いいにおいだなあ』って言いながら帰ってくる人を待つだけ。
「ただいま」
古代は部屋に入ってくるなり「美味そうなにおいだな。今日は煮物?」などと言いながら
雪を探す。
鍋の火は止めてあり、まだ湯気が立っている。しかしキッチンに妻の姿はない。
「雪?」
少し心配になって、風呂場にも声をかけたが、そこにも姿はなかった。
(また寝てるのか?)
案の定、雪は居間のコタツで丸くなっていた。
肩を揺すって雪、と呼べば彼女は「おかえりなさい」と目をこすってハグをねだった。
伸ばされた両手を迎えにいくようにして、古代が顔を近づける。
そして頬にちゅっとキスをした。
「ダメじゃないか。またコタツで横になってて。風邪ひくぞ?」
「大丈夫。ほんの20分ほどだから」
「だめだって。今大事な時だろ?風邪ひいちゃマズイ」
「うん。これから気をつける」
ね?だから抱きしめて?
雪はいたずらっぽい笑みを浮かべて夫を見た。
「しようがないお姫様だなあ。ほら」
自分の首に腕を巻き付けてくる雪を、抱きかかえるようにして起こしてやる。
「流石にそろそろ前からじゃ抱き合えないなあ」
「そうね」
大きなお腹を愛おしそうに見る妻を、夫は後ろからそっと抱きしめた。
2013 1112 hitomihigasino
****
<あとがき>
2200 キリバンゲッター 柊 悠さまからのリクエスト『こたつ』をネタに古代×雪のほのぼのストーリーでした。
ほっこりできるSSを目指してみましたが、いかがでしょうか??
昨日から全国的に冷え込んでいるせいもあって、鍋物(特におでん)を登場させてみました。
おでん、こたつ=ほっこり という図式。
ちなみに続編の情報が届いていないので(現在2013 11.12)イスカンダル編後にガトランティス戦があったのかもしれないですが、すっとばしました。
なんだかんだあって、今は幸せなんですよ~~っていうお話です。
素敵なリクエストを柊様、ありがとうございました!
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。
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