引っ越し 番外編 過去話
「何なの、あなたたちはっ!」
釣り上げた目で睨まれた後、ツンと顔を逸らされ、刺々しい口調でバッサリだ。
びっくりしたのは、火星で見た女性にそっくりだったからだ。
それから自分の非礼を責める口調の厳しさに気圧されて戸惑った。
内心(キツイ女だなあ)と苦笑していた。
けれど、それはエレベーターの扉が閉まるまで思わず見惚れていた自分に対する感情だったのだ。
「なあ、古代。おまえ以前、ああいうツンツンした子が好みだとか言ってなかったか?」
「はあ? いつ俺がそんな事言った?」
「士官候補生学校時代にさ」
「……覚えてないな」
メ号作戦が陽動で、兄さんが囮だったかもしれないと聞いて、一瞬頭に血が上った。
が、彼女を見て別の血が騒いだ。
島に気取られたくない。
ウソをついた方がいいだろうと咄嗟に思ったのだ。
島はその話を蒸し返すことはせずに、「何処に行く?」と聞いてきた。
俺は「病院区画」と短く返答する。
いや、本当はよく覚えてる。
入学して一年が経とうとしていた頃の話だったと思う。
男子学生寮の前で、上級生の女の子二人に呼び止められたんだ。
****
「島君と、古代君ね?」
「はい、そうですが」
敬語は使うが、島の態度は馴れ馴れしい。二人がこちらに近づいてくるにつれ
島は俺の脇腹を小突き、『たぶん、あれだぜ?』なんて耳打ちしたんだ。
俺は出来るだけぶっきら棒に「なんでしょうか?」と尋ねた。
「噂通り可愛いのね。君たち」
その言葉に、むっとした態度を取ってしまった。
「ごめんなさいね。悪気はないの。これ! 受け取ってほしくて」
二人はそれぞれ俺たちの目の前に、ラッピングされた小さな箱を差し出した。
「……、だから何なんです?」
意味が分からない。
「ありがとう! 遠慮なくいただきます」
横を見ると、島のヤツ、さっさと受け取ってるじゃないか!
今度は女の子の方がむくれた表情になった。
「バレンタインデーよ。知らないの?」
女の子は尚も、受け取れとばかりにその手を突き出してきた。
「ありがたく頂戴しとけって」
島は、ウィンクしてそういうが、これは規則違反じゃないのか。
つまり、これはチョコレートだろ? 菓子の類の持ち込みは禁止されているはずだ。
俺はいい、と突っぱねようとしていたら、廊下の向こうから榎本教官がやったきた。
「ありがとう! じゃあ、俺たちはこれで」
教官に見つかるのを恐れた島が、女の子の手から箱をぱっと取り去って、俺の上着のポケットにねじ込んだ。
「お、おいっ!」
上級生の女の子たちは、そそくさとその場を離れ、残された俺と島は、榎本教官に叱られるのではないかと
戦々恐々としていたんだ。
「島、古代」
目礼してやり過ごせたと思った次の瞬間、低い声に呼び止められた。
「は、ハイッ!!」
「女の子の扱いは、ここじゃ教えないが、個人的になら教えてやってもいいぞ?」
教官はにやっと笑い、それだけ言って立ち去った。
俺たち二人とも、教官の姿が見えなくなると、走って自室まで逃げ帰ったんだ。
「おまえ、頭固すぎ。いいじゃんか。くれるって言うものは貰っておけば」
「だって規則だぞ? 俺たち女にちやほやされるために此処に来たんじゃないだろう?」
「榎本さんだって、知ってて知らんふりしてくれたんだ。貰っておけよ」
「いいよ。一人から貰うと全部断れなくなるだろ?」
「もう遅い。俺経由ですべて頂いた!」
島は机の引き出しを開けて見せた。色とりどりに包装された箱が転がっている。
ハアァァァァ。
長い長い溜息を吐き出した。
島のヤツ、鼻の下伸ばしまくって「この子、前からカワイイなって思ってたんだ」なんてデレデレしてやがる。
「ああそうですか」
俺は、そんな島に付き合いきれなくて、ベッドの硬いマットの上に寝転がった。
「おまえ、ひょっとしてさ」
早速その中の一つを口に入れて、島が俺を見た。
「なんだよ?」
二段ベッドの下段に寝そべってる俺に、ぬっと顔を近づけて来たものだから
俺は逃げ場を失って、顔をしかめた。
「女に興味ねえの?」
「別に」
「やるよ」
島が落としたチョコレートは、あれだ。洋酒が利いてるヤツ。
「じゃあオトコに興味あるのか??」
「はああああ???」
酷い冗談だ! あいつ口を尖らせて目を閉じて俺に迫ってくるなんて!
「ちょ、やめろ! おまえ冗談が過ぎるぞ!!」
足蹴にして滅茶苦茶抵抗してると、目尻に涙溜めて、大笑いしやがって!
「俺はダメだぞ? 古代のことは好きだけど、俺にそっちの趣味はないからな」
くそ、まだ笑ってやがる。本気で怖かったんだからな。
「女っていきものは、俺にはよくわからない」
ベッドの上に起き上がった俺は、まだ笑ってる島にそう零した。
「だけどカワイイなって思うこともあるだろ? デートしたいなって思わないのか?」
「女が何考えてるのかわからないんだ」
「まあ、俺も大抵そうだけど?」
「プリプリ怒るし。真剣な顔はカワイイなって思うこともあるけど……」
「誰だよ? この学校の子か?」
俺の言葉に、島は身を乗り出してきた。
「どうなのかな? 入学式にピアノ弾いてた子でさ」
「それは初耳だな! どんな子?」
「演奏がまずかったから、俺つい、言ったんだ”ひっでぇな”って。
そしたらその声が彼女に丸聞こえでさ」
「うんうん」
「怒りだしたから、謝ったんだ。ごめんって。でもツンツンしたままで
許してもらえなかった。最後に”イーーーーダ”ってされて終わり」
「フフーン」
「ピアノは下手だったけど、一生懸命弾いてる姿は可愛かったよ」
白状してしまった(たぶん俺の初恋の)女の子の話に、島はガッツポーズして
部屋の中を走り回って喜んでいた。
ん? なんでお前がそんなに喜んでるんだ??
「よかった、おまえちゃんと女の子が好きなんじゃないか! そうか。よし、俺が責任もって
お前の初恋の相手を探し出してやる! ってか簡単だろ? 上級生の女の子に間違いないよ」
「いや、はっきり覚えていないんだ」
「大丈夫。恥ずかしがるなって! さっきの上級生に話聞けばいいんだよ」
それからしばらくして、島はそれを実行した。
入学式の新入生歓迎式典で、ピアノ演奏を披露した上級生を、探し出してきたんだ。
俺の承諾も得ずに、さっさとデートする約束まで取り付けてきたと聞いて、勘弁してくれと思った。
どんな顔して会えばいいのかわからない。
デートって何するんだ? 何を話せばいいんだ??
貰った手紙に書かれた待ち合わせ場所に行くと、確かに上級生らしき女の子がいた。
だけどどこか違う気がしたんだ。
「すみませんでした」
開口一番、謝った。
間違えてしまって。と続けるはずだった。だけど彼女の言葉に遮られた。
「古代君たちのことは、私たちの間でも噂になってるの」
島と自分が何かやってしまったかと恐縮してしまった。
「だから島君から、私が君の初恋の相手だって聞かされてびっくりしちゃった」
「あ、それは」
「ピアノはね、自分でも巧いなんて思ってないのよ? だけど下手ってはっきり言われるのもね」
「すみません……」
「いいの。気にしてないよ?」
違和感を覚えたまま続けられた会話は、時々かみ合わなくなったが、それは普段でもそうだったから
俺は”こんな子だったんだ”と自分自身に納得させていた。
その子は、上級生らしくよく気の付く子で、可愛い子だった。
それは事実だったけれど、特別な感情は最後まで沸かなかった。
断りきれなくて2回もデートした。3回目のデートの話が出た時、「ごめん、間違いでした」と
素直に謝ろうと思ったんだ。
が、向こうから「思ってた人と違ったから」という理由で『俺』が『振られた』。
女の子は難しい。
素直に話せば角が立つ。優しくていい子だったし、恋愛感情なんてわからなかったし。
これがそうだとその時は思ったんだ。
だけど、そういった態度が、相手を傷つけてしまったみたいだ。
それから、島は何度か俺と他の女の子の間を取り持とうとしたようだったけど
俺は金輪際ごめんだと突っぱねた。
はっきり言ってやったんだ。
「ツンツンしてて、ピアノが超絶下手で、怒った顔もカワイイ子」
あの子以外はダメだと。
*****
「着いたよ、病院。マジで行くのか?」
「ああ。島は来なくてもいい」
「乗りかかった舟だ。お供する」
緊張しているはずの足取りは、決して重くはなかった。
(さっきの子、火星で見た綺麗な人に似てたよな)
と思った頭の隅で、十五歳の自分が囁いた。
『今度彼女に逢ったら、それは運命だ』ってね。
2014 0122 hitomi higasino
「何なの、あなたたちはっ!」
釣り上げた目で睨まれた後、ツンと顔を逸らされ、刺々しい口調でバッサリだ。
びっくりしたのは、火星で見た女性にそっくりだったからだ。
それから自分の非礼を責める口調の厳しさに気圧されて戸惑った。
内心(キツイ女だなあ)と苦笑していた。
けれど、それはエレベーターの扉が閉まるまで思わず見惚れていた自分に対する感情だったのだ。
「なあ、古代。おまえ以前、ああいうツンツンした子が好みだとか言ってなかったか?」
「はあ? いつ俺がそんな事言った?」
「士官候補生学校時代にさ」
「……覚えてないな」
メ号作戦が陽動で、兄さんが囮だったかもしれないと聞いて、一瞬頭に血が上った。
が、彼女を見て別の血が騒いだ。
島に気取られたくない。
ウソをついた方がいいだろうと咄嗟に思ったのだ。
島はその話を蒸し返すことはせずに、「何処に行く?」と聞いてきた。
俺は「病院区画」と短く返答する。
いや、本当はよく覚えてる。
入学して一年が経とうとしていた頃の話だったと思う。
男子学生寮の前で、上級生の女の子二人に呼び止められたんだ。
****
「島君と、古代君ね?」
「はい、そうですが」
敬語は使うが、島の態度は馴れ馴れしい。二人がこちらに近づいてくるにつれ
島は俺の脇腹を小突き、『たぶん、あれだぜ?』なんて耳打ちしたんだ。
俺は出来るだけぶっきら棒に「なんでしょうか?」と尋ねた。
「噂通り可愛いのね。君たち」
その言葉に、むっとした態度を取ってしまった。
「ごめんなさいね。悪気はないの。これ! 受け取ってほしくて」
二人はそれぞれ俺たちの目の前に、ラッピングされた小さな箱を差し出した。
「……、だから何なんです?」
意味が分からない。
「ありがとう! 遠慮なくいただきます」
横を見ると、島のヤツ、さっさと受け取ってるじゃないか!
今度は女の子の方がむくれた表情になった。
「バレンタインデーよ。知らないの?」
女の子は尚も、受け取れとばかりにその手を突き出してきた。
「ありがたく頂戴しとけって」
島は、ウィンクしてそういうが、これは規則違反じゃないのか。
つまり、これはチョコレートだろ? 菓子の類の持ち込みは禁止されているはずだ。
俺はいい、と突っぱねようとしていたら、廊下の向こうから榎本教官がやったきた。
「ありがとう! じゃあ、俺たちはこれで」
教官に見つかるのを恐れた島が、女の子の手から箱をぱっと取り去って、俺の上着のポケットにねじ込んだ。
「お、おいっ!」
上級生の女の子たちは、そそくさとその場を離れ、残された俺と島は、榎本教官に叱られるのではないかと
戦々恐々としていたんだ。
「島、古代」
目礼してやり過ごせたと思った次の瞬間、低い声に呼び止められた。
「は、ハイッ!!」
「女の子の扱いは、ここじゃ教えないが、個人的になら教えてやってもいいぞ?」
教官はにやっと笑い、それだけ言って立ち去った。
俺たち二人とも、教官の姿が見えなくなると、走って自室まで逃げ帰ったんだ。
「おまえ、頭固すぎ。いいじゃんか。くれるって言うものは貰っておけば」
「だって規則だぞ? 俺たち女にちやほやされるために此処に来たんじゃないだろう?」
「榎本さんだって、知ってて知らんふりしてくれたんだ。貰っておけよ」
「いいよ。一人から貰うと全部断れなくなるだろ?」
「もう遅い。俺経由ですべて頂いた!」
島は机の引き出しを開けて見せた。色とりどりに包装された箱が転がっている。
ハアァァァァ。
長い長い溜息を吐き出した。
島のヤツ、鼻の下伸ばしまくって「この子、前からカワイイなって思ってたんだ」なんてデレデレしてやがる。
「ああそうですか」
俺は、そんな島に付き合いきれなくて、ベッドの硬いマットの上に寝転がった。
「おまえ、ひょっとしてさ」
早速その中の一つを口に入れて、島が俺を見た。
「なんだよ?」
二段ベッドの下段に寝そべってる俺に、ぬっと顔を近づけて来たものだから
俺は逃げ場を失って、顔をしかめた。
「女に興味ねえの?」
「別に」
「やるよ」
島が落としたチョコレートは、あれだ。洋酒が利いてるヤツ。
「じゃあオトコに興味あるのか??」
「はああああ???」
酷い冗談だ! あいつ口を尖らせて目を閉じて俺に迫ってくるなんて!
「ちょ、やめろ! おまえ冗談が過ぎるぞ!!」
足蹴にして滅茶苦茶抵抗してると、目尻に涙溜めて、大笑いしやがって!
「俺はダメだぞ? 古代のことは好きだけど、俺にそっちの趣味はないからな」
くそ、まだ笑ってやがる。本気で怖かったんだからな。
「女っていきものは、俺にはよくわからない」
ベッドの上に起き上がった俺は、まだ笑ってる島にそう零した。
「だけどカワイイなって思うこともあるだろ? デートしたいなって思わないのか?」
「女が何考えてるのかわからないんだ」
「まあ、俺も大抵そうだけど?」
「プリプリ怒るし。真剣な顔はカワイイなって思うこともあるけど……」
「誰だよ? この学校の子か?」
俺の言葉に、島は身を乗り出してきた。
「どうなのかな? 入学式にピアノ弾いてた子でさ」
「それは初耳だな! どんな子?」
「演奏がまずかったから、俺つい、言ったんだ”ひっでぇな”って。
そしたらその声が彼女に丸聞こえでさ」
「うんうん」
「怒りだしたから、謝ったんだ。ごめんって。でもツンツンしたままで
許してもらえなかった。最後に”イーーーーダ”ってされて終わり」
「フフーン」
「ピアノは下手だったけど、一生懸命弾いてる姿は可愛かったよ」
白状してしまった(たぶん俺の初恋の)女の子の話に、島はガッツポーズして
部屋の中を走り回って喜んでいた。
ん? なんでお前がそんなに喜んでるんだ??
「よかった、おまえちゃんと女の子が好きなんじゃないか! そうか。よし、俺が責任もって
お前の初恋の相手を探し出してやる! ってか簡単だろ? 上級生の女の子に間違いないよ」
「いや、はっきり覚えていないんだ」
「大丈夫。恥ずかしがるなって! さっきの上級生に話聞けばいいんだよ」
それからしばらくして、島はそれを実行した。
入学式の新入生歓迎式典で、ピアノ演奏を披露した上級生を、探し出してきたんだ。
俺の承諾も得ずに、さっさとデートする約束まで取り付けてきたと聞いて、勘弁してくれと思った。
どんな顔して会えばいいのかわからない。
デートって何するんだ? 何を話せばいいんだ??
貰った手紙に書かれた待ち合わせ場所に行くと、確かに上級生らしき女の子がいた。
だけどどこか違う気がしたんだ。
「すみませんでした」
開口一番、謝った。
間違えてしまって。と続けるはずだった。だけど彼女の言葉に遮られた。
「古代君たちのことは、私たちの間でも噂になってるの」
島と自分が何かやってしまったかと恐縮してしまった。
「だから島君から、私が君の初恋の相手だって聞かされてびっくりしちゃった」
「あ、それは」
「ピアノはね、自分でも巧いなんて思ってないのよ? だけど下手ってはっきり言われるのもね」
「すみません……」
「いいの。気にしてないよ?」
違和感を覚えたまま続けられた会話は、時々かみ合わなくなったが、それは普段でもそうだったから
俺は”こんな子だったんだ”と自分自身に納得させていた。
その子は、上級生らしくよく気の付く子で、可愛い子だった。
それは事実だったけれど、特別な感情は最後まで沸かなかった。
断りきれなくて2回もデートした。3回目のデートの話が出た時、「ごめん、間違いでした」と
素直に謝ろうと思ったんだ。
が、向こうから「思ってた人と違ったから」という理由で『俺』が『振られた』。
女の子は難しい。
素直に話せば角が立つ。優しくていい子だったし、恋愛感情なんてわからなかったし。
これがそうだとその時は思ったんだ。
だけど、そういった態度が、相手を傷つけてしまったみたいだ。
それから、島は何度か俺と他の女の子の間を取り持とうとしたようだったけど
俺は金輪際ごめんだと突っぱねた。
はっきり言ってやったんだ。
「ツンツンしてて、ピアノが超絶下手で、怒った顔もカワイイ子」
あの子以外はダメだと。
*****
「着いたよ、病院。マジで行くのか?」
「ああ。島は来なくてもいい」
「乗りかかった舟だ。お供する」
緊張しているはずの足取りは、決して重くはなかった。
(さっきの子、火星で見た綺麗な人に似てたよな)
と思った頭の隅で、十五歳の自分が囁いた。
『今度彼女に逢ったら、それは運命だ』ってね。
2014 0122 hitomi higasino
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
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