2200年7月6日、午後5時30分。
定時で国連宇宙軍司令本部から駆け足で駅に向かう一人の女性が。
その女性の名は森雪。


明日は休日という事で、普段生活を送っている土方家ではなく、雪が以前両親と暮らしていた自宅マンションで過ごす日である。
『自宅で過ごす時は自炊する』という事を土方とも約束をしていたのもあるが、その日急いで帰宅の途についていたのはそれだけではなかった。


マンションの近くのスーパーで買い物を済ませると、帰宅して着替える時間も惜しく、エプロンをつけ、早速夕飯の支度に取り掛かる。
今日の献立は、サバの塩焼き、茄子とピーマンのしぎ焼き、豆腐サラダ、オクラとわかめの味噌汁。
一人暮らしの練習もだいぶ板についてきた雪は、これらのメニューを手際よく作っていく。


食卓の準備も整え、支度が一段落しやっと着替えができた頃、来客を告げるチャイムが鳴った。
「は~い!」
「雪ぃ?ちょっと早いかな?」
モニター越しに、来客の姿を確認すると、
「大丈夫、時間通りよ!待ってて、今開けるから」
インターフォン越しに返事をすると、玄関へと向かう。


「いらっしゃい、今日は暑かったでしょ?中へどうぞ」
玄関のドアを開けると、焼き魚のいい匂いがしてきて思わず、
「お邪魔します。ん!?今日は魚?いい匂いだ!」
そう言いながら嬉しそうに中に入る。
と、その後から、
「ただっ…!!じゃないっ………おじゃましますっ!」
いつもの調子で思わず『ただいま』と言ってしまいそうになり、慌てて言い直した。
ちょっと気まずそうな顔する古代に対し、僅かにしかめっ面してしまう土方。


二人の間に流れる微妙な空気を変えようと、雪はダイニングへ向かうように促す。
「はい!二人ともちゃんと手を洗ってダイニングへきてね。鞄はあっちへ置くから貸して」
というと、二人の鞄を持って、さっさと1人リビングへと向かう。
一方的に言って去っていく雪の態度に、顔を見合わせ苦笑いしながらも、なぜか素直にいう事を聞いてしまう二人だった。


洗面所の壁に作り付けの棚には、歯ブラシが2本並んで立ててあり、別の棚には女性用と男性用、それぞれのスキンケア用品が綺麗に並べられている。
それをチラっと横目に見て、手洗いを始める土方。
「古代。雪はいつもあんなに一方的な感じか?」
「えっ?あ、いや、そんなことはない…ことも…ない…かな?……はっ!いや、ないです!」
手を洗いながら鏡越しに古代の表情を見るが、ちょっと困ったような古代の顔を見て、
『ふん、そういう態度も古代に見せられるくらい、雪は気持ちを許してるってことか。まあ、そういう相手がいるなら安心と言えば安心か…』
と、少し嬉しそうだ。
一方古代は、
『うわ~!今の答えはまずかったか?……いや、土方司令の顔はそんなに険しくないから大丈夫…か?』
内心ドキドキしながら土方の手洗いが終わるのを待って、自分も手洗いを済ませるとダイニングへ急いだ。


雪の料理もかなり上達してきたもので、特に古代が好きな和食を中心にかなりのレパートリーが増えてきた。
そして、土方家でも作れる日はできるだけ料理を教えてもらい、さらにそれを古代の好みにアレンジするまでになっていた。
凝りだしたらとことん追求してしまうという癖が、良い方向に向いてるようだ。


食事を堪能した土方は、食後のお茶を飲みながら、雪の自宅を訪れた本題に入る。
「これがこないだ話をしていたやつだ」
とういうと、鞄の中からA4サイズの書類が入る封筒を取り出す。


古代は一体なんだろうと思い、封筒に書いてある文字に目を向けた。
そこに書かれている宛名は《土方様方 森雪様》、差出人は《浜田蒼太》となっていた。
差出人の名前に、何か引っかかるものがあった古代だが、その場では深く考えることはなかった。


「雪の記憶がまだ完全には戻ってないし、知らない人からの郵便物を受け取るのは難しいだろうと思って、わしの家に届くようにしたんだが…。浜田さんのことは覚えてるか?」
雪の記憶や気持ちを汲み、敢えて自分のところへ届くようにした土方。
「…いいえ、お名前だけ聞いても何も…」
「そうだろな。まあ、雪はおそらく浜田さんとは数回くらいしか会ってかもしれないけど、わしや直之は学生時代からの友人で、気の置けない友人の一人だったからなぁ」
懐かしそうに遠くを見つめる土方。
「その浜田が1年前に亡くなり、奥さんと息子さんが遺品整理をしていたらこれが出てきたという事だが…。中身が何かは知らないが、詳しくは手紙が添えてあるようだから…」
と、持っていた封筒を雪に渡し残りのお茶を飲み干して席を立つと、帰り支度を始めた。


「もう、お帰りになるんですか?」
時計はあと少しで午後9時になる事をさしていた。
「ああ、わしも二人の時間を邪魔するほど野暮じゃあないつもりなんだがな。それに、あまり遅くなるとあれの機嫌が悪くなる」
笑ってウインクを二人にすると、玄関へと向かった。
「そうね。あまりお一人で長居されたらきっとおばさまに、『また色々あれこれとうるさくしてるんじゃないでしょうね!』と聞かれてしまうでしょうしね」
と、クスクス笑いながら一緒に玄関まで歩く。
そんな土方と雪の態度に、どうリアクションしたらいいのか戸惑う古代。


玄関で靴を履き終え、
「じゃ、またな」
といいながら、ドアを開けて出る寸前。
ふっと何かを思い出したように立ち止まって振り返ると、
「そうだ、古代。夜更かし禁止だからな」
と言い放ち、さっさとドアを閉めて帰ってしまった。
「なっ!………ったく、土方さん何言ってんだか」
焦って顔が赤くなる古代をみて、雪も思わず照れてしまった。
「おじさまったら、あんないい方しなくても…ねぇ。……でも、半年前に比べると古代くんの事で、そんなに反対ばかりしなくなったと思うな」
そう言いながら古代の顔を覗き込む雪。
「そうだね。少しずつだけど俺たちの事、認めてくださってるのがわかるよ」
優しい瞳をして見つめ返す古代は雪に近づき、頬にキスしようとした瞬間、
「あ!私、後片付けがまだ残ってるから、古代くん、先にお風呂どうぞ」
土方の一言で変に意識してしまって照れ隠しに後片付けを始める雪に、肩透かしを食らった古代だった。


雪もお風呂を済ませると、先にソファーで寛いでいた古代の横に座り、土方から受け取った封筒を開封し始めた。
「それ、さっき土方さんが持ってこられた封筒だろ?何なんだ?」
「ん?ああ、これね。おじさまもさっきおっしゃってたけど、家族ぐるみでお付き合いのあった方からなの。以前、私がこの方の家に忘れ物をしてしまったらしいのよ」
「なんでその時に送ってこなかったんだろ?」
「父が外務次官だったっていう事をおじさまに聞いたって話をしたでしょ。父の職業柄、転勤も多く、その当時もその後すぐ外国へ行ってしまったので、帰国してからって思ってらしたみたい」
封筒の中身を出しながら、それらをテーブルの上に並べる。
写真が4枚と8㎝×30㎝くらいの色画用紙が1枚と手紙が入っていた。


手紙は、次のように書かれていた。

  突然のお手紙、失礼いたします。
  1年前に父が他界し、母と一緒に遺品整理をしていましたら、父が大切なものを収めている箱の中に更に大切にしまってあったのが、同封しているものでした。
  母に尋ねたところ、次のように聞きました。
  
  父と仲の良い友人であった土方さんと森さん。
  お二方とは家族ぐるみのお付き合いがあり、今から15年前に我が家に土方さんと森さん一家が来られ、これはその時の森さんの娘さんの忘れ物だと。
  森さんは仕事の関係で急いで帰宅されたため、忘れてしまったようです。
  忘れ物をされてすぐに送ってあげるのがよかったのでしょうが、森さん一家はその直後にお引越しされたので、帰国後にお渡しする約束をしました。
  しかし森さんはその後、なかなか帰国されることがないくらいお忙しかったようで。
  そうこうしてる内に、ガミラスからの攻撃で連絡を取ることもままならず…。

  今年に入って土方さんと連絡を取ることができ、そこで森さんにお渡しすることが可能だと聞き、土方さんにお願いしました。
  昔の事なので、今更と思われるかもしれませんが、父が大切にしまっていたものですのでお受け取りいただけたら幸いです。
  
  浜田 蒼太

同封された4枚の写真。
日付は2185年7月7日。
1枚目:土方夫妻、森一家、浜田一家の全員集合写真、背景には大きな七夕の笹飾りがあった。
2枚目:みんなで食事している時の写真らしく、写っていたのは森一家。
3枚目:雪と蒼太、そして蒼太の友達10人くらいでの集合写真で、1枚目同様、大きな七夕の笹飾りを背景に。
4枚目:雪と男の子の2SHOT写真。
同封の色画用紙は短冊らしく、そこには『およめさん』と書かれてあった。


3枚目の子供の集合写真を見た古代は驚いた。
「雪、この浜田って人、どこの人か知ってる?」
「たしか、三浦の方って聞いたけど、…どうして?」
「やっぱり…。これ、俺、写ってる」
「ええっ!!ホントに!?どこ?」
古代が3枚目と4枚目の写真に指をさす。
さした場所は雪の隣に立ってる男の子だった。


それぞれの写真を指さしながら、
「これ、俺。浜田蒼太って、俺の幼馴染みの一人で、蒼ちゃんの事だよ」
「ええ!!そうなの!?じゃあ、私達って小さい頃に会ってたって事!?」
「ああ、そういう事だな」
二人は驚いて、信じられないといった顔でお互いを見ていた。
そう、4枚目の2SHOTO写真は雪と古代の写真だった。
その写真の二人はお互いの手を繋ぎ、反対の手には短冊を持って、満面の笑みを浮かべている。


同封された短冊と写真の短冊。
見比べてみると、どうやら別のものらしい。
そして、手元にある短冊を見て、あることに気が付いた。
「この短冊、『およめさん』って書いてる字だけ明らかに違うよなぁ……。あっ!!そっか!」
短冊を手にした古代が、何か思い出した。
「これ、俺の字だ…。そっか、そういう事か」
「え?何?どういう事?」


15年前─。
雪は両親とともに両親の友人の地元で行われてる有名な七夕まつりへ参加するため、三浦市へと向かっていた。
夏真っ盛りで、海では子供たちが元気に泳いだり、砂浜をかけったりととても賑やかだった。
両親の友人である浜田家は海の近くに家があり、そこの子供達も皆、家の前の海岸で遊んでいた。
雪は両親たちと浜田家に上がったが、外の様子が気になって落ち着きがない。


「雪ちゃんもうちの子たちと一緒に海へ遊びたいみたいだね。ちょっと待っててごらん。お~~~い!蒼太ぁ~~~!ちょっと戻ってこ~~~~い!!」
そういうと、海岸にいた一人の男の子が家の方へ走ってきた。
「なんだよ、父ちゃん。今、メッチャ面白れぇことになってるのに!」
「じゃあ、その面白い事にこの子も一緒に連れて行ってあげなさい」
「ええっ!?こんなチビ連れてくのヤダよ~!」
真っ黒に日焼けした少年はふくれっ面で父親に告げると、母親から容赦なくデコピンが飛んできた。
「なぁに言っての!自分がちょっとカラがでかいからって。雪ちゃんはあんたと1つしか違わないんだよ。ちゃんと一緒に遊んでおあげ」
「ちぇっ!しょうがねぇな。チビ、一緒に行くか?」
デコピンくらったおでこを摩りながら、もう片方の手を雪に差し伸べて、声をかけると、待ってましたとばかりにその手を握り、
「うん!!」
と元気よく返事をして、嬉しそうに外へと出ていった。


それを見ていた大人たちは、
「やっぱり子供は子供同士で遊ぶ方が楽しそうだな」
「ほんと。……でも…」
雪の母親が少し心配そうにしてると土方が、
「何か心配事でも?」
「いえ、心配事ってほど大げさなことではないんですが、今日も服を選んでる時に、『お出かけだから』と言ってもあの恰好でしょ。また男の子に間違えられるんじゃないかなぁって思って…」
「雪がもう少しおとなしくなってくれたらって思うけど、なかなかなぁ…」
父・直之まで同じ心配をしている。
「夫婦そろって同じ心配されるなんて、雪ちゃんは本当に活発なお嬢さんなんですね。でも、それくらいの方が将来楽しみでしょ」
蒼太の上にも女の子を持つ母は、全く心配ないといった風に返事をした。


「お~い、みんなぁ!こいつ雪ちゃんっていうだ。俺んちに遊びに来たんだけど、一緒に遊んでやってくれよな!」
「もり ゆきです。よろしくね!!」
いかにもやんちゃ坊主な感じで元気に挨拶をする雪は、そこにいた10人くらいの蒼太の友達とすぐに仲良くなり、一緒になって遊んでいた。
そして海岸にある潮だまりでカニや小さな魚を見つけては捕まえて、蒼太達に名前を教えてもらったり、蒼太の母親がおやつにとスイカを出すと、海に向かって誰が一番遠くまで種を飛ばせるか競争してみたり。


楽しい時間は早く過ぎていくもので、お祭りへ行く時間だと両親に告げられた雪は、みんなと離れなくないと駄々をこねた。
けど蒼太をはじめ、みんな一緒のお祭りへ行くという事がわかると、とたんに機嫌も良くなった。
そんな雪を見ていて、蒼太達は、
「やっぱ、チビって簡単だよな~!」
とお兄ちゃんぶってみる。
「チビじゃないもん!ゆきは、ねんちょうさんだもん!」
「やっぱ、チビじゃんか!」
と笑われた雪は悔しそうに涙を浮かべて、じっと堪えてると、
「うん、君はチビじゃなくて、『ねんちょうさん』だもんね」
少年は少し屈んで、雪に目線を合わせて頭を撫でた。
雪は自分の存在を認めてくれたその少年の事が気になり、
「おにいちゃん、おなまえ、おしえて」
「ん?僕?僕は、『こだい すすむ』っていうんだよ」
「すすむくん?」
「うん、そうだよ」
「すすむくん!すすむくん!…ゆき、すすむくん、すき!」
雪は古代の事を気に入ったようで、古代の手を握ると、それからずっと古代のそばを離れようとしなかったが、その姿がちょっと嬉しくて、本当の弟ができたみたいな気持ちだった。


七夕まつりの会場に着くと中央には大きな笹があり、色とりどり飾りがついている。
笹の周りでは祭りのスタッフが子供たちに短冊を配っていた。
蒼太達は一目散にそこへ行くと、短冊をもらってそれぞれ願い事を書いていく。
「蒼太、お前なんて書くんだ?」
友達の中の一人が尋ねた。
「ん~~~、色々あんだけど、やっぱ、あれかな、世界一の料理人になる!」
「お前、痩せの大食いで、食べる事、大好きだもんな」
「じゃあ、お前は何書くんだよ」
「俺?俺はプロ野球選手!」
「俺も!プロ野球選手!」
子供たちは次々と将来なりたいものを口にしながら短冊に書いている。


雪も何を書こうかと、たくさん考えて、やっと書くことを決めた。
その頃には、他の子供たちはみんな書き終え、屋台の方へ移動しようとしていた。
「あ!まってぇ!まだ、ゆき、かいてないよぉ!」
「これだからチビってぇのはよぉ。…そうだ!進!雪のやつ、お前の事気に入ってるみたいだし、こいつが書き終わるまで待っててやってくんない?」
「ええっ!?」
古代もみんなと一緒に屋台の方へ行きたかったので思わず声が出たけど、古代の言葉は雪には届かず、どちらかといえば、
《一緒にいてくれるの?》という期待した目で古代を見ている。
そんな雪の姿勢に負け、
「も~、蒼ちゃんはいつも勝手に決めちゃうんだから…。…じゃあ、雪ちゃん、書いて。書き終わったらみんなのところへ行こ。で、なんて書くの?」
「ん~?なんだとおもう~?」
やっと最近自分で字を書くという事を覚えたばかりの雪は、一生懸命丁寧な字で書こうと必死な顔をしていた。
「ん~~と、こんなじだったかなぁ?」
短冊いっぱいの大きな字で書かれた文字はこうだった。


《よ`すのさん》


《よ`すのさん》…。
そうとしか読めない。
古代は考えた。
一体これはなんなんだろうかと…。
一生懸命考えてみたけど、やっぱりわからない。


わからないままでいる事に耐えられなくなり、雪、本人に聞いてみた。
「ね、これ、なんて書いたの?」
「これ?これは、『およめさん』ってかいたんだよ!…すすむくん、じ、よめないの?」
「え?これ、『およめさん』って書いたの?……ちょ~~~ぉっと、字が違うかなぁ…」
ちょっと困ったように、雪に書いた字が違う事を告げる。
「ええっ!これ、ちがうの!?まちがえちゃったんだぁ。どうしよ~~」
真剣に困ってる雪がかわいそうになり、
「じゃあ、新しい短冊貰って書き直そ」
「もういちまい、もらえるの?」
そういうと二人は手をつないでもう一枚短冊を貰いに行った。


新しい短冊を目の前にした雪は、また間違えたらどうしようと思ってなかなか書き出せずにいた。
「どうしたの?書かないの?字、わからないなら教えてあげようか?」
「…ん~~。……すすむくんにかいてもらったらだめかなぁ?」
「僕が書くの?」
「うん!」
古代も早く蒼太達と合流して遊びたかった。
でも、弟のように慕ってくる雪の事も気になるので、
「雪ちゃんが書いた方がいいと思うけどぉ…、しょうがないなぁ。じゃあ、書いてあげるから貸して」
そういうと、1年生とは思えないくらいとてもきれいな字で、短冊のど真ん中に
『およめさん』と書いてあげた。


「はい、これでいい?…ねぇ、雪ちゃんは『およめさん』でいいの?(大人になったらおよめさんが欲しいのかなぁ?)」
「ありがと!すすむくん!ゆき、これでだいじょうぶだね!(すすむくんのおよめさんになれる~~~!!)」
「そ、そう…だね。…よし!じゃ、これ笹につけてもらって、みんなの所へ行こっか!!」
「は~い!!あっ、でもちょっとだけまって!」
元気に手を挙げて返事をし、古代に背を向けなにやら短冊に書き込んで笹の方へ向かった。


短冊を付ける直前、直之らが雪を見つけた。
「雪!短冊、ちゃんと書けたのか?」
「うん!ゆき、ちゃんとかいたよ!」
2枚の短冊を持ってる雪が答える。
「あら?雪ちゃん、2つ書いたの?」
蒼太の母が尋ねると、
「あ!蒼ちゃんのお母さん。違うんだ。雪ちゃん、書き間違えたから、新しいのもらって書いたの」
「そうなの。ありがとね、進くん。…で、うちの蒼太はどこいったのかしら?も~!まぁ~た進くんに迷惑かけて!!」
「そうちゃんママ!すすむくん、とってもやさしいの!ほら、これ、てつだってくれたんだよ!」
蒼太の母に短冊を一つ手渡す。
そこには古代が書いた『およめさん』という文字と右上に『よよむくんの』、左下に『もり ゆき』と書かれてあった。
それを見た大人たちは、先程の男の子っぽく育ってる雪への心配は吹き飛んで、逆にほほえましく思った。


「ね、パパ!ゆき、すすむくんといっしょに、しゃしんとりたい!」
と、雪にお願いされると弱い直之は、古代に尋ねる。
「進くん、雪と一緒に記念写真とってもいいかな?」
「うん!いいよ」
「やったぁ!じゃ、パパ、撮って~!」
雪は古代の手を握って、反対の手には短冊を持ち、
「すすむくんも、きねんにたんざくもってしゃしんとろ!」
というと、古代も思わずその声に素直に従って、記念写真を撮ったのだった。
そして、もっている短冊を笹につけるため二人でその場を去った。


屋台で、いろんなものを食べたり遊んだりした後、祭りの一番の見せ場がやってきた。
大きな笹を大人たちが近くの川まで運び、そこで下流へ向けて川に入れると、川の流れに乗ってゆっくりと流れていった。
短冊に込めた願いは必ず叶うといわれ、流れていく笹を見て安心した雪は疲れて直之の背中で寝てしまい、古代たちとちゃんとお別れもせずに浜田家へ帰宅した。



翌朝、直之が緊急の呼び出しがかかり、雪は着替えもそこそこに、寝たままの状態で車に乗せられ帰宅。
雪は古代に書いてもらった短冊をどうしても手放したくなくて、昨夜の七夕祭りでは、願いをしっかり込めて自分で書いた短冊を流し、古代に書いてもらった短冊は大切に持っていたのだった。
しかし帰宅後、その大切な短冊がないことに大泣きした雪。
急遽海外へ移住しなければならず、帰国するまでお預け状態に。
そしてそれが今回15年の時を経て、雪の手元に戻ってきたのだった。


同封された短冊には、綺麗な字で『およめさん』と書かれてあるが、それ以外の字を読むと、
「よよむくんの?………これって、『すすむくんの』って書いたつもりだったのかしら」
「ん?…ぷっ!ホントだ!…『よよむ』って!……」
思わず笑ってしまう古代。
「も~~!笑っちゃヤダ!」
唇をとがらせ、頬を思いっきり膨らませて拗ねる雪。


「でも、これを見ているとなんだかその時の事を、少しだけ思い出せそうな気がするわ」
「それより、俺はあの時の子が女の子だったことにちょっと安心した」
「どういう事?」
「だって、男の子が『およめさん』になりたいってビックリ以外なにもんでもないだろ」
「古代くんまで私の事、男の子って思ってたの!?………でも、そうよ、この頃からよ、私が髪を伸ばし始めたのって」
突然、過去の事に対し確信をもって話し始めた。


「雪?思い出したの?」
「全部じゃないけど、髪を伸ばしてスカートを履くようになったのは、この夏からだったし、スイカの種飛ばし、誰が一番遠くへ飛んだのかも思いだした!」
「ホントに?」
「じゃあ、せぇ~ので答えを言ってみる?」
「いいよ。雪こそ言える?」
「大丈夫!」
「それじゃ、言うよ。せぇ~の…」
二人は声を合わせて、


「蒼ちゃんのお母さん!!」「蒼ちゃんママ!!」


「!!」
「!!」
「すっご~い!!本当に私、小さい頃に古代くんと出会ってて、再会もできたんだね!」
「ああ!短冊の願い事って、叶うんだな」
見つめ合い、お互いの存在を確認すると、どちらからともなく近づいて軽く唇を重ねる。
と、ちょうどその時、時計の日付が変わろうとしていることに気付いた雪は、
「古代くん、お誕生日おめでとう。それと、何度も出会う事が出来てすごく嬉しい」
「ありがとう。俺の方こそ、雪とはずっと昔から繋がっていたことが嬉しいし、これからも一緒にいたい」
「もちろん!私もずっと一緒にいたいし、それに離れるつもりなんてないからね」
「うん」
笑顔で見つめあう二人。



七夕の短冊に込めた願い事。
叶うと信じた者の願いを神様は願いを聞いてくれたのでした。
あなたも今年は七夕の短冊に願いを書いてみてはいかがですか?


おしまい


柊さんSS
イラストbyココママ

2014 0707 古代君誕生日祭企画  柊悠
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