海の中の

「海の中のキス」  まみ 





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「海の中のキス」 ひがしのひとみ 

 

「おはよ」

俺は、テントの中から適当にTシャツを引っ掴んで外に出た。

彼女と日の出を見るんだ。昨日の夜、約束したから。

空が白み始めているが、まだ薄暗い。
波の打ち付ける音と、時折飛んでくるかも めの鳴き声が交差する。
彼女は、もう砂浜で待っていた。


「星空も綺麗だったけど、朝焼けもきっと綺麗よね。日の出をみるなんて私は初体験よ」
俺は雪の隣に並んで腰を下ろす。
「雪と見る日の出は、俺も初体験」
雪の肩を抱き寄せて耳元で囁くと、雪は「くすぐったい!」と身を縮こませて笑った。
「あ、上がってきた!」
「きれいね……」

太陽が水平線の向こうに顔を出した。海面にオレンジ色が広がる。
俺たちは、太陽がすっかり姿を現すまでの間、無言で眺めていた。
「空も海も、あんな色に変わるのね」
「うん。感動した」
尻についた砂を払って、俺が先に立ち上がる。
「まだ早い時間だし、ビーチの向こうまで行ってみないか? 」
俺はロープが張られたその先を指した。
返事を訊くまでもなく、ニコニコ笑う彼女の手を取って砂の上を歩きはじめる。


一般用のビーチの向こうに、リゾートホテル宿泊者用のプライベートビーチが続いていた。

こんな早朝だからか、監視員もいないようだ。
「古代君、こっちは入っちゃダメなんじゃないの?」
「いいって。予約済だから」
「いつの間に?」
雪はいたずらっ子のように目を輝かせた。
俺はパラソルの下にタオルが用意されている区画まで到着すると、
今度は雪の手を引っ張って海へと向かう。
「水着持って来ればよかったね」
「必要ないよ。ここ、俺たち二人きりだから」

砂浜の上にTシャツもハーフパンツも脱ぎ捨てて、ついには全てを取り去って、
俺は先に海に入っていく。
「待って! 古代君、私……」
「誰も来ないから、雪も来いよ」
腰まで海に浸かり雪を振り返ると、彼女は最後の一枚を取り去るところだった。
「見ないで! 隣に行くまで振り返らないでね!」
海面が揺れる。やがてそれが止まり、白い肩が隣に並んだ。





お題 まるち
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