「約束」
地下都市から、一部のみ地上へと機能を移動させ始めた防衛軍は、コスモリバースとなったヤマトを
地下ドックに収めてからは、新世代の艦を造ることになった。
古代や島は、しばらく地上での勤務を強いられた。古代は、地球の復興していくスピードに驚きながら
戦いを終えた安堵感からなのか、最近は他愛もない噂話を聞くようになり、それは平和の証なのだと思っていた。
恋人の雪は、司令部でも美人と誉れ高い有能な女性だ。周りの同僚たちはどうやって彼女を落としたのか
結婚はいつするのかなどと、はやし立てていた。
そんな彼らに、古代ははっきりとした答えができないまま、今日に至っている。
司令部近くの店で一杯やっていくか、と島から誘われた古代は、そこでも同じような噂話を耳にしていた。
カウンター席に並んだ三人組だ。すでにアルコールが回っているのか、賑やかな店の中でも聞こえるほど
声が大きい。
『長官付きのあの子に、手を出そうとしたんだってなー。あいつも身の程知らずだねえ』
『飯でもどうですか?って誘っただけらしいぜ。見事に玉砕したけどな』
『森さん、彼氏が居るって聞いてますけど』
『俺も聞いてるよ。一緒にヤマトに乗ってた古代じゃないかな?』
『仲が良かったのは本当らしいけど、付き合ってはいないんじゃねえの? あいつと同期のヤツから訊いたけど
古代って、昔から女っ気なしだってさ』
『だったら、今がチャンスだな。付き合い始める前に、さっさと交際を申し込んで』
『ムリムリ。お前なんか相手にもされないって』
『いいや、難攻不落な高根の花を射とめるのは、俺様だ』
自分の名前まで出されて、離れたテーブルに座っていた古代も、思わずぴくりと肩を動かした。
「おい、やめておけよ? あいつらとは顔見知りでもないんだろ?」
「知るかよ。あんな奴ら」
ビールをグラスに注ぎながら、島が古代を見た。上気しているのは、アルコールのせいではない。
不機嫌な態度を隠すこともしない親友に、島は笑って諭した。
「話すべき相手は、あいつらじゃないだろう? 森君だよ」
「……ナンダヨ、それ」
「ライバルは多いんだよ。知らなかったのか? 彼女、かなりモテるぞ?」
「雪とはちゃんと付き合ってるし、彼女を信じてる」
空のグラスを、ドンとテーブルに置くと、件のカウンターの三人が一斉にこちらを振り返っていた。
「お前たちの付き合い方に口出しする気はないけど、女ってのは」
そこまで言って、声のトーンを落とした島は、古代に耳打ちするように囁いた。
「おまえ、ちゃんとやってるのか?」
「はあ? 何のことだ」
島の言葉の意味がわからず、古代は訊き返した。
「何って、アレだよ」
「だから、アレって何?」
島の声がどんどん小さくなるので、古代もつられてヒソヒソ声で訊きかえす。
「キスしたら、次はアレだろ? もう寝たのか」
「え……それは、その、べ、べつにいいじゃないか! 雪は恋人なんだから!」
思わず出した大きな声に、カウンターの三人は完全に聞き耳を立てていた。
「古代、落ち着け」
島が目配せを送ると、三人組は大人しくなり、席を立って店を出て行った。
「そうか。オトコになったか。よし、今日は俺の驕り」
古代の答えを聞くと、心底愉快だとでも言いたそうに、島は早速店員にジョッキのビールをオーダーした。
「勘違いするなよ。雪とは真面目に付き合ってるんだからな」
古代の熱弁に、島はからかうような笑みを消して、真顔に戻って言う。
「何を迷う事がある?」
古代は、島の問いに「迷いはない」と断言した。
「だったら、話は早い。行動せよ」
島は古代の背をポンと叩き、ジョッキを一気に傾けた。
*****
雪が昨日の夜から泊まりに来ている。
独り暮らしを始めた彼女を、自分の部屋に誘うのは難しくはなくなっていた。
結婚を前提とした交際を認めてもらっている。土方も公認の仲なのだ。
肝心のプロポーズはまだだが。
「結婚しよう」
古代は組み敷いた雪を見下ろしそう言いながら、彼女に口づけた。
チュっと合わせただけの唇を離して、古代は雪を見た。
「そうね」
彼女はうっとりとした表情こそ崩さないでいるが、返事は素っ気ないものだった。
「信用されてないのか? 俺」
雪がそうじゃないと答えるよりも早く、古代は深く唇を食む。
何度も。
音を立てたり、舌を絡ませながら、より深いものへ。
「待って、古代君」
雪はそう言い、上半身を起き上がらせた。
乱れた髪を手で撫でて整え、彼の横に並んだ。
「これのおかげで、古代君は寝転がってばかりいるわ」
「触り心地を確認してるんだ。雪だって気に入ったって言ってたじゃないか」
「それはそうだけど」

イラスト:ココママさま
古代は、頬をフェイクファーのラグマットにつけて、隣の雪を見た。
何事にも無頓着な古代が、気に入って『これがいい』と買ったものだ。
最近は、ソファで映画を見ていても、いつの間にかその下のラグに横になって
二人で抱き合いながら寝そべることが多くなっていた。
「リビングダイニングを全部覆うラグにすればよかったな。この大きさじゃ二人で寝転ぶには狭いよな」
「夏になったら外すのが面倒なの。だからこの大きさにしたんじゃない」
「大したことじゃないよ、そんなの。俺に任せろよ」
「古代君に任せてたら、物事は進まない」
思い余った雪の一言だった。古代は小さく溜息を洩らし、彼女の肩を軽く抱いた。
「ごめん。深い意味はないの。だけど、ラグを取り換えるみたいに、軽く言わないで……」
雪は、敢えて「結婚」という文字を言葉にしなかった。八つ当たりする気持ちが全くなかったわけではない。
いつかは二人で暮らすつもりの彼の部屋は、部屋の主が留守がちなこともあって、新築の部屋特有の
匂いがまだ抜けないでいる。必要最低限の家具に、色彩の乏しい部屋の中は、借主不在の留守を
預かったことのある雪に、寂しさを感じさせていた。
『寒いから冬が近くなる前にラグが欲しい』と雪は古代にこぼしていた。
雪のお願いは、三週間ぶりに古代が地球に戻ってきてすぐに、叶えられた。
古代なりの気遣いがあるのだろう。
いずれ。そのうち。
とは思っているものの、自分たちを取り巻く環境が、そう易々と二人を自由にはしてくれないでいるのだ。
結婚前提の交際を認めてくれた土方にしてもそうだ。
古代が「今度こそ」と決心すると、なぜか土方が多忙になり、二人と話すことが出来ないでいた。
そんなことが二度三度と重なると、古代から話を持ち出すきっかけを失ってしまったのだ。
『部屋の中は、雪の好きにしていい』とまで古代が言ってくれるのは、早く結婚をしたいとの気持ちのあらわれだ。
それも理解できるのだけれど。
何度か彼はこんな風に「結婚しよう」と言った。それは決して思い付きだけの言葉ではない。
雪は嬉しい反面、少し複雑でもあるのだった。
古代は、じっと雪の瞳を見詰めて答えた。
「俺はいい加減な気持ちでいるわけじゃない」
雪の不安な気持ちは、態度に顕れている。
古代は、彼女の固く組まれている手を、両手で包み込んだ。
「家族になって」
俯いてしまいそうになる雪に、古代がくちびるを寄せた。
秋の夕日が、リビングの窓から差し込み、雪の亜麻色の髪を照らしている。
色素の薄い彼女の肌も、ほんのりピンクに輝いていた。
「あ……ホントに?」
「ああ。本当だ。約束する」
古代は、肌蹴ていたシャツのボタンを留め、立ち上がった。
雪の手を取り、抱き起す。そして彼女のほっそりした左の薬指に触れた。
「土方さんに話しに行く。来週必ず」
古代はスウェットパンツのポケットをごそごそと探り、取りだしたビロードの箱を雪の目の前に差し出した。
「古代君、これ……」
「結婚しよう」
雪の薬指に収まった輝きに、二人は<永遠の愛>を誓い、目を細めて笑いあった。
2014 1106 ココママXひがしのひとみ (お題:komiyu)
地下都市から、一部のみ地上へと機能を移動させ始めた防衛軍は、コスモリバースとなったヤマトを
地下ドックに収めてからは、新世代の艦を造ることになった。
古代や島は、しばらく地上での勤務を強いられた。古代は、地球の復興していくスピードに驚きながら
戦いを終えた安堵感からなのか、最近は他愛もない噂話を聞くようになり、それは平和の証なのだと思っていた。
恋人の雪は、司令部でも美人と誉れ高い有能な女性だ。周りの同僚たちはどうやって彼女を落としたのか
結婚はいつするのかなどと、はやし立てていた。
そんな彼らに、古代ははっきりとした答えができないまま、今日に至っている。
司令部近くの店で一杯やっていくか、と島から誘われた古代は、そこでも同じような噂話を耳にしていた。
カウンター席に並んだ三人組だ。すでにアルコールが回っているのか、賑やかな店の中でも聞こえるほど
声が大きい。
『長官付きのあの子に、手を出そうとしたんだってなー。あいつも身の程知らずだねえ』
『飯でもどうですか?って誘っただけらしいぜ。見事に玉砕したけどな』
『森さん、彼氏が居るって聞いてますけど』
『俺も聞いてるよ。一緒にヤマトに乗ってた古代じゃないかな?』
『仲が良かったのは本当らしいけど、付き合ってはいないんじゃねえの? あいつと同期のヤツから訊いたけど
古代って、昔から女っ気なしだってさ』
『だったら、今がチャンスだな。付き合い始める前に、さっさと交際を申し込んで』
『ムリムリ。お前なんか相手にもされないって』
『いいや、難攻不落な高根の花を射とめるのは、俺様だ』
自分の名前まで出されて、離れたテーブルに座っていた古代も、思わずぴくりと肩を動かした。
「おい、やめておけよ? あいつらとは顔見知りでもないんだろ?」
「知るかよ。あんな奴ら」
ビールをグラスに注ぎながら、島が古代を見た。上気しているのは、アルコールのせいではない。
不機嫌な態度を隠すこともしない親友に、島は笑って諭した。
「話すべき相手は、あいつらじゃないだろう? 森君だよ」
「……ナンダヨ、それ」
「ライバルは多いんだよ。知らなかったのか? 彼女、かなりモテるぞ?」
「雪とはちゃんと付き合ってるし、彼女を信じてる」
空のグラスを、ドンとテーブルに置くと、件のカウンターの三人が一斉にこちらを振り返っていた。
「お前たちの付き合い方に口出しする気はないけど、女ってのは」
そこまで言って、声のトーンを落とした島は、古代に耳打ちするように囁いた。
「おまえ、ちゃんとやってるのか?」
「はあ? 何のことだ」
島の言葉の意味がわからず、古代は訊き返した。
「何って、アレだよ」
「だから、アレって何?」
島の声がどんどん小さくなるので、古代もつられてヒソヒソ声で訊きかえす。
「キスしたら、次はアレだろ? もう寝たのか」
「え……それは、その、べ、べつにいいじゃないか! 雪は恋人なんだから!」
思わず出した大きな声に、カウンターの三人は完全に聞き耳を立てていた。
「古代、落ち着け」
島が目配せを送ると、三人組は大人しくなり、席を立って店を出て行った。
「そうか。オトコになったか。よし、今日は俺の驕り」
古代の答えを聞くと、心底愉快だとでも言いたそうに、島は早速店員にジョッキのビールをオーダーした。
「勘違いするなよ。雪とは真面目に付き合ってるんだからな」
古代の熱弁に、島はからかうような笑みを消して、真顔に戻って言う。
「何を迷う事がある?」
古代は、島の問いに「迷いはない」と断言した。
「だったら、話は早い。行動せよ」
島は古代の背をポンと叩き、ジョッキを一気に傾けた。
*****
雪が昨日の夜から泊まりに来ている。
独り暮らしを始めた彼女を、自分の部屋に誘うのは難しくはなくなっていた。
結婚を前提とした交際を認めてもらっている。土方も公認の仲なのだ。
肝心のプロポーズはまだだが。
「結婚しよう」
古代は組み敷いた雪を見下ろしそう言いながら、彼女に口づけた。
チュっと合わせただけの唇を離して、古代は雪を見た。
「そうね」
彼女はうっとりとした表情こそ崩さないでいるが、返事は素っ気ないものだった。
「信用されてないのか? 俺」
雪がそうじゃないと答えるよりも早く、古代は深く唇を食む。
何度も。
音を立てたり、舌を絡ませながら、より深いものへ。
「待って、古代君」
雪はそう言い、上半身を起き上がらせた。
乱れた髪を手で撫でて整え、彼の横に並んだ。
「これのおかげで、古代君は寝転がってばかりいるわ」
「触り心地を確認してるんだ。雪だって気に入ったって言ってたじゃないか」
「それはそうだけど」

イラスト:ココママさま
古代は、頬をフェイクファーのラグマットにつけて、隣の雪を見た。
何事にも無頓着な古代が、気に入って『これがいい』と買ったものだ。
最近は、ソファで映画を見ていても、いつの間にかその下のラグに横になって
二人で抱き合いながら寝そべることが多くなっていた。
「リビングダイニングを全部覆うラグにすればよかったな。この大きさじゃ二人で寝転ぶには狭いよな」
「夏になったら外すのが面倒なの。だからこの大きさにしたんじゃない」
「大したことじゃないよ、そんなの。俺に任せろよ」
「古代君に任せてたら、物事は進まない」
思い余った雪の一言だった。古代は小さく溜息を洩らし、彼女の肩を軽く抱いた。
「ごめん。深い意味はないの。だけど、ラグを取り換えるみたいに、軽く言わないで……」
雪は、敢えて「結婚」という文字を言葉にしなかった。八つ当たりする気持ちが全くなかったわけではない。
いつかは二人で暮らすつもりの彼の部屋は、部屋の主が留守がちなこともあって、新築の部屋特有の
匂いがまだ抜けないでいる。必要最低限の家具に、色彩の乏しい部屋の中は、借主不在の留守を
預かったことのある雪に、寂しさを感じさせていた。
『寒いから冬が近くなる前にラグが欲しい』と雪は古代にこぼしていた。
雪のお願いは、三週間ぶりに古代が地球に戻ってきてすぐに、叶えられた。
古代なりの気遣いがあるのだろう。
いずれ。そのうち。
とは思っているものの、自分たちを取り巻く環境が、そう易々と二人を自由にはしてくれないでいるのだ。
結婚前提の交際を認めてくれた土方にしてもそうだ。
古代が「今度こそ」と決心すると、なぜか土方が多忙になり、二人と話すことが出来ないでいた。
そんなことが二度三度と重なると、古代から話を持ち出すきっかけを失ってしまったのだ。
『部屋の中は、雪の好きにしていい』とまで古代が言ってくれるのは、早く結婚をしたいとの気持ちのあらわれだ。
それも理解できるのだけれど。
何度か彼はこんな風に「結婚しよう」と言った。それは決して思い付きだけの言葉ではない。
雪は嬉しい反面、少し複雑でもあるのだった。
古代は、じっと雪の瞳を見詰めて答えた。
「俺はいい加減な気持ちでいるわけじゃない」
雪の不安な気持ちは、態度に顕れている。
古代は、彼女の固く組まれている手を、両手で包み込んだ。
「家族になって」
俯いてしまいそうになる雪に、古代がくちびるを寄せた。
秋の夕日が、リビングの窓から差し込み、雪の亜麻色の髪を照らしている。
色素の薄い彼女の肌も、ほんのりピンクに輝いていた。
「あ……ホントに?」
「ああ。本当だ。約束する」
古代は、肌蹴ていたシャツのボタンを留め、立ち上がった。
雪の手を取り、抱き起す。そして彼女のほっそりした左の薬指に触れた。
「土方さんに話しに行く。来週必ず」
古代はスウェットパンツのポケットをごそごそと探り、取りだしたビロードの箱を雪の目の前に差し出した。
「古代君、これ……」
「結婚しよう」
雪の薬指に収まった輝きに、二人は<永遠の愛>を誓い、目を細めて笑いあった。
2014 1106 ココママXひがしのひとみ (お題:komiyu)
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
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