Under the Christmas tree
ツリー

この日はいつもより早く目が覚めた。
ゲンキンなもので、いつもは『寒い』といってなかなか寝床から抜けられないでいるのに。

部屋の中は暖房が効いていて暖かい。
寝ぼけ眼で隣をみると、毛布が山形に膨らんだまま口を開けていた。
こんな事も、幸せを感じる要因の一つなんだ。
幼いころは、それが当たり前だった。




****

兄さんが先にプレゼントの包装を解いて、ツリーの下ではしゃいでいる。
『おい、早く起きて来いよ、進! すごいぜ!』
早起きしていた兄さんが、自慢気にプレゼントを見せびらかせた。
プレゼントの包みの模様までまだ覚えている。
あれは確か、誕生日に買ってもらったプレゼントの包装紙と同じものだった。
ツリーの下で、自分へのプレゼントを見つけた時、母さんにそんなことを言った覚えがある。

兄さんのプレゼントと交換しろと泣きついたっけ。
クリスマスの朝から賑やかだった。
諭されて泣き止んだツリーの下で、僕は母さんに訊いた。
『母さんはもうプレゼントもらったの?』
母さんは鼻水を垂らしている僕を抱き上げて
『たくさん貰ったの。ツリーの下に毎年たくさん落ちてるの』と言った。

あの時は、それが何を差していたのかわからなかったけれど、今なら理解できる。

残念なことに、孝行したいときに、両親はもういない。


****

ツリーは雪が持ち込んだものだ。
大して広くもない2LDKに、僕の背丈よりも高いツリーを飾るなんて、と抗議したが
『こんな時くらいお祭り気分を楽しみたいの』と雪が言うものだから、あえて反論しないことにした。
雪が笑顔でいるのが、僕にとって何よりも嬉しいからだ。

僕が断らないことをいいことに、雪はクリスマスに飾るものを大量に持ち込んできた。
ドアにリースを飾り、部屋の中にヤドリギのガーランドを吊るし、ポインセチアの鉢を三つも並べた。
独身男の殺風景だった部屋が、俄然にぎやかになった。
ツリーを飾るだなんて、子どもの頃以来だ。
最初は渋々オーナメントを飾っていたが、遂には本気になって楽しんでいた。

最後に電飾のスイッチを入れると、チカチカと光り輝いた。途端に懐かしい記憶が蘇った。

(母さんのプレゼントって何だったのだろう?)
幼い僕は、母さんが言った『ツリーの下に毎年たくさん落ちてるの』
の言葉に、ツリーのどこに落ちているのだろうかと
隅々まで探したけれど、それが何であるのかわからなかった。

****

「古代君! ねえ。天辺の星が取れちゃった。起きてきて、飾り付けて!」

僕は、片腕をセーターに通しながらリビングにやってきて、雪から星飾りを受け取った。
「いいよ」
雪の頭をひょいと超えて、ツリーの一番上に、それを飾り付けた。

広げた下方の枝に足がぶつかって、玉飾りがころんと落ちた。
「あーあ」
雪はさほど残念そうでもなく溜息を洩らし、屈んで転がった玉飾りを探す。
彼女が屈んだ拍子に、またツリーに体がぶつかって、別の飾りが転がった。
ころんころんと、次々と転がる。
「あーあ」
僕も雪を真似て溜息を吐いた。
二人とも四つんばいになって、あっちこっちに転がった玉飾りを探した。
「古代君、そっちに一つ落ちてるよ」
「雪の足元にも一つある」

両手に玉飾りを持ったまま、僕たちはツリーの下で顔を見合わせた。
「あはははは」
雪が急に笑い始めた。
「ははは、あはははは」
僕も何が可笑しいのかわからないけれど、雪につられて笑った。
「あはっ、あはははは」
笑いのツボに嵌ったらしく、雪は身体を捩って大笑いを始めた。
手に持っていた玉飾りを床に転がして、自分も仰向けになって。
腹を抱えて豪快に笑う雪を、僕は上から覗き込んだ。


『ツリーの下に、毎年たくさん落ちてるの』
母さんの欲しがっていたプレゼントだ。
雪は、僕の下でまだ笑っている。








オマケ
(Under the mistletoe)ヤドリギの下で

彼女が笑い終わるのを待って、僕は静かに降りていく。
唇が触れる寸前で、彼女は、堪えきれずにプッと吹き出した。

「こら、笑うなって。君は僕からのキスを拒否できないんだぜ?」
「なんで?」
雪は涙を溜めてまだ笑っている。

「君が持ってきたヤドリギの話を知らないのか? この下でキスを拒否すると
来年一年、君は結婚できないんだ。知ってたんじゃないの?」
僕がそういうと同時に、二人で上を見上げた。
ツリーから少し離れた天井から、ヤドリギのガーランドを吊るしている。
雪は笑い声をあげるかわりに、満面の笑みで、視線をヤドリギから僕に移した。

「知ってたよ」

彼女は、右手に掴んだ玉飾りを、僕の唇に押しあてた。








2015 1221 hitomi higasino
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