「怪我」 yamami
2201 元旦
ここは土方宅。
「……俺は賛成できかねる。何を急ぐ必要がある?」
土方は、古代から注いでもらった酒をくいっと飲み干した。
おせち料理に舌鼓を打ち、酒も少々入ったところで、古代と雪が婚約をしたと土方に報告したのだ。
結婚の約束をしたのだから、具体的に話を進めたい、と若い二人がそう思うのも当然の事。
「結婚を焦っているわけではありません。けれど自分はいつ戦場に赴くことになるのかわからない身です。
雪さんと早く家庭を持ちたいと思うことは、急ぎ過ぎなんでしょうか?」
珍しく古代は反論した。
「いや、その気持ちはよくわかる。だがな」
「古代君と支え合って生きていきたいんです」
雪にもそう言われると、土方も反対しにくくなる。
「家庭を持つということは、相手に責任を持つということだ。そこを理解しているのか」
「はい」
「わかっています」
「……そうか」
お正月からそんなしかめっ面はよしてください、と夫人は土方にいい、古代にも酒を勧めた。
「準備に時間をかけることは悪いことじゃないわよ、雪さん。土方はそう言いたいのよ」
ねえ、あなた? と今度は夫にも酒を注いだ。
憮然とした表情で酒をすする土方だが、古代からの提案にどうしたものかと心の中では思い始めていた。
*****
古代は、まさか自分が月面基地で足止めを食らう羽目になるとは思いもしなかったのだ。
予定通り雪の誕生日の前週には地球に帰還し、彼女と一年前に約束をしたレストランでデートをするはずだった。
自分では似合わないようなサプライズも仕込んでおいて。
馴染みのフラワーショップに無理を言って、彼女のために花も用意した。
さっぱりした雪の性格上、古代に無理を言って何かをねだるようなことは普段はないのだが、
彼女が時折見せる遠い目に、古代は特別な何かを贈りたいと思うようになっていた。
平和なときを二人で過ごすことが、一番の幸せだと理解していても。
油断をしていたわけではない。
予定が変わることも、想定内だ。
輸送船のトラブルもたいしたことではない。
電気系統の故障は、すぐに復旧して、わずかな遅れのまま帰還できるはずだった。
緊急着陸した月面基地で、暇をもてあましていたわけではなかったが、偶然に偶然が重なり、
新型戦闘機のテストパイロットが続けざまに飛べなくなり、その場に居合わせた古代にたまたま声がかかった。
準備もそこそこに飛び出してしまう。テスト飛行を請け負ったばかりに、右腕を骨折してしまったのは不運でしかない。
彼自身、それでもすぐに帰るつもりだったのだ。
しかし再三のテスト失敗による戦闘機の改良意見を、古代も求められた。
一日の遅延が二日になり三日になり、ついには雪との約束の前日となってしまったのだ。
入院とは言っても、古代をここに留めておくためだけのものだ。
私的な報告は禁じられ、『予定より遅れるが心配しないで』とだけ雪には伝えていたが、身動きがとれない。
帰還後さてどうするかと古代は考えていた。
*****
雪がその一報を知ったのは、司令部に出勤してからだった。
古代が乗っている護衛艦が、何らかのアクシンデントにより、地球帰還が一日遅れるというものだった。
(何があったんだろう? 古代君のことだから心配するようなことはないと思うけど)
藤堂に書類を手渡しながら、雪はモニターを食い入るように見つめている。
そこには、これから地球に帰還する艦の予定が映し出されている。
「どうした? 古代のことが気になるのか?」
いつの間にか土方が雪の後ろに立っていて、浮かない表情の彼女に声をかけた。
「あ、いえ。そんなことはありません。長官、これで全部です」
雪は、一礼をして長官室を後にした。
(明日になれば会えるから、大丈夫よね?)
雪は少しの不安と、明日になれば会えるという希望を胸に、その日の仕事をこなしていった。
何の詳しい情報も得られないまま司令部を出た雪の後姿に、元ヤマトクルーの相原が珍しく声をかけてきた。
「森さん、お疲れ様です。あの、古代さんの事、聞いてますか?」
懐かしい声に振り返った雪は、微笑むことも忘れて
「相原さん、何があったの? 教えて」と相原に詰め寄った。
「いえ、僕も詳しいことまではわからないんです。護衛艦にトラブルがあったんじゃなくて
輸送船に問題があったみたいで。それで月基地に緊急着陸したみたいです」
「あったみたいとか、したみたいとか。はっきりしないの?」
「あ、すみません。でも大きなトラブルだったら、雪さんのところにも連絡行くでしょうし。何もないってことは
大したことじゃないんですよ」
「……ならいいけど」
「予定では、明日の夕刻には帰還すると聞いてます」
「ええ。変更がなければ」
「大丈夫ですよ。古代さんの事ですから」
「そうよね。ありがとう、相原さん。実は少し心配してたんだけど、安心しました」
<帰還が遅れる>
と簡単なメッセージのみで、まさか恋人が事故に遭い、けがを負って帰れなくなっているなんて知り得もしなかった。
翌日、古代からのメッセージに気が付いた雪は、前日の予感が悪い方へと当たっていることに愕然とする。
月基地内の病院からのメッセージだ。心当たりのないアドレスからのメールを恐る恐る開く。
『入院することになって、地球帰還が少し遅れる。心配しないで。またメールする。古代』とある。
雪はすぐさま「どうしたの? 何があったの? 教えて」と返信をしたがすぐに返事が返ってくる様子はなかった。
仕方なく支度をして仕事に向かうことにする。
朝のロビーで偶然一緒になった相原に呼びかけた。
「おはようございます。相原さん! あれから何かわかった? 古代君、入院するだなんてメールを寄越したの」
「ええっ? それは聞いてないですよ。トラブルって護衛艦の事故ではなかったみたいなんですけどね」
古代の乗っていた護衛艦は、彼を乗せずに予定より一日遅れで帰還することになっていた。
******
入院することになったと聞いてからの数日を、雪は悶々として過ごした。
そして、ようやく彼からのメールが届いたのは、雪の誕生日の前日の事。
昼の休憩時のカフェテリアでだった。
『連絡できなくごめん。今到着した。大した怪我じゃないから安心して。これから佐渡先生に診てもらって
今日は帰宅する。明日は約束通り雪の誕生日を一緒に祝うから。またメールする。古代』
彼の通り一遍の報告に、雪はワナワナと肩を震わせた。
(それはあまりに他人行儀ではないの?)
怪我の為に帰還が一週間も遅れたというのなら、もうすこし詳しいことを聞きたい。
大した怪我ではないというのなら、どうして自分を寄せ付けない態度なのだろう?
古代らしいシンプルなメール文だけでは、すべては伝わらない。
メールがきたのは一時間以上前だ。
(今なら、電話して捕まえられるかも)
雪はためらうことなく、彼の番号を呼び出した。
三回コールすると、彼がでた。
「はい。古代です」
「古代君!大丈夫なの?」
雪の尋常でない大声に、古代は思わず携帯を耳から離した。
「え? メールしておいただろう? 大丈夫。心配ないよ」
「あんな短いメールだけじゃ、心配するなという方が無理よ。今は病院なの? 今日そっちに行ってもいい?」
「さっき診察してもらって今は家。今日こっちにくるの? え、と今日は、俺、疲れてるし……」
「私が行ったら、休まらない?」
「そういうわけじゃないけど……でも今日はいいよ。俺のこと心配しないで。」
彼の気遣いだろうと雪は思ったが、ここは我を通さず、明日、元気な彼と会えればいい。そう思い直した。
「そうね。それがいいかもね。わかった。今日はゆっくり休んで。明日のことも無理しないでね。連絡待ってるわ」
このとき二人は、明日が長い長い一日になるとは露にも思っていない。
****
通話を終えた後、古代の額に汗が噴く。
ただでさえ腕を吊った状態で、動き回るのも億劫だというのに。
(マズイぞ。どこから手を付けていいのか、さっぱりだ……)
雪の誕生日を祝うデートは、今年もここで、と決めた場所があった。
そこに予約は入れているが、予定が狂ってしまった。
彼女に渡す花束は、以前世話になったことがあるフラワーショップで、と決めていて
おおまかに話だけはしてあった。
(そうだ。花屋に電話して、明日取りに行く確認をして、と)
古代は大急ぎで花屋に連絡を入れる。
「あの、明日花をお願いしている古代です。明日持って行くのでその時でいいですか」
電話を切った古代は、続けて慣れない左手である場所に電話をかけた。
数か月前から、何度か連絡していた先だ。
何度かけても、無理だと断られ、最後の頼みだと直接出向いた際に、ついにはイエスと言わせたのだ。
計画の相談をする約束の日、古代はそこに出かけられないでいた。怪我をしてしまったせいだ。
約束を反故にしてしまったうえ、こんなギリギリに電話をして断られても仕方がないと半分腹をくくっていたが
先方はあっさり古代の申し出を了承した。
『そういうことならわかりました。どうぞ。お待ちしております』
「ありがとうございます!」
古代は携帯を耳に当てながら、深くお辞儀をしていた。
一通り電話を終えた古代は、ダイニングテーブルに突っ伏したい気分だ。
いや、あとひと踏ん張りだ。
雪の笑顔を見たい。自分で立てた計画だ。
彼女を喜ばせたい一心で、こうしたいと決めていた。
古代は不器用ながらも左手を使い、明日のデートの約束メールを彼女に送信した。
『明日、七時に駅の改札で待っている。雪の好きなもの買いにでかけよう』。
*****
クリスマスイブで、雪の誕生日当日。
古代にはある計画があった。その準備の為に一旦部屋に戻っている。
右手が使えないということがどれだけ不便なのか、古代は身を以って知る。
バケツに水を張った中から一輪の花を取りだして、困ってしまう。
(これ、どうやって持っていこう……)
鉢植えのままの方がよかったかもと思い直すが、片手しか自由が利かない身で
それを抱えての移動も難しい。
雪と一緒に選んだコートを用意し、スーツも出そうとして手を止めた。
(これ着ると、革靴しか合わないんだよな。あれは紐結ぶの面倒だ……。
ネクタイも無いから締まらないし。腕を骨折してるからそれも無理だけど)
「あ、いけね」
時計を見ると、出かける予定の時間を五分過ぎている。
いつもよりも時間がかかることを見越して、仕方なくジーンズを手に取った。
考えている暇もない。古代は花をコンビニ袋に突っこんで、コートの内ポケットに仕舞い込んだ。
プルプルと携帯が震えている。
――っ。
こんな時によりによって土方からだ。
土方からのプライベートな電話は、いつも緊張する。
古代は、咳払いをしてから電話にでる。
『今夜は雪と会うのだろう? よろしく頼む』
「は、はい!」
『それから、例の件だが、やはり急ぐ必要はないと俺は思う。
従って、今夜は俺たちは遠慮しておくことにした。おまえたちだけでやればいい』
古代は緊張しつつも、どこか少しほっと気が緩むのを感じた。
「わかりました。正月にきちんと挨拶と報告に伺います」
夫から無理やり携帯を奪ったとみられる土方の妻、今日子は「私たちは二人の幸せを心から願っているのよ。
それだけはわかって頂戴」と話した。
「ありがとうございます」
古代は見えない相手に向かって、再び深々とお辞儀をするのだった。
一年前の今日。楽しい時間を二人は過ごした。
甘えることが少ない雪が、目を輝かせた瞬間だった。古代はその時の事を忘れられない
****
ちょうど一年前の雪の誕生日に、二人はデートをした。
2200 12月24日
帰還して二回目の雪の誕生日。
ヤマト乗艦中よりも多忙になった古代と雪にとって、束の間の甘い時間だ。
残業続きだった雪もこの日は早めに切り上げて、待ち合わせのロビーに急ぐと
古代は、ジャケットのポケットに手をつっこみ、壁にもたれて雪を待っていた。
「ごめん、待った?」
「いや、そうでもないよ」
古代は雪に気づくと、トンと背中で壁を押して並んで歩きだした。
「何処に行くの? 急だからどのレストランも満席かも」
「うん。えっと、雪は今日は何時まで一緒に居られる?」
「今日はいつもより一時間遅くても大丈夫。おじ様と約束したの。だから日付が変わるまでに帰ればいいの」
「そうか」
いつもより一時間長く一緒に居られるというだけで、二人は幸せを感じていた。
「実は、レストランを予約した」
「古代君が?」
「俺だってそれくらいの事は出来るよ」
雪があまりに驚いたので、古代は苦笑いを浮かべる。
女性を喜ばせるような演出が、古代は得意ではないはず、と雪は思っていた。
これは誠実な彼からの思いやりだ。
「ありがとう。嬉しいな」
地下鉄の改札を抜ける頃、雪は彼の腕に自分の腕を絡ませた。
雪から素直に礼を言われると、古代だって嬉しくなる。
人目を気にして離れて歩いていたのを、彼女から腕を絡ませてきたのを合図に、古代は自ら体を寄せてみた。
古代が案内してくれたのは、司令部から地下鉄で三駅ほど行った場所にある、小さなトラットリアだった。
「可愛らしいお店ね。古代君、どうしてこんな素敵なところ知ってるの?」
古代はドアを開け、雪を先に通しながら「実は真田さんお勧めの店なんだ」と打ち明けた。
「真田さんとよく来るの?」
「一度連れてきてもらって、気に入ったんだよ。絶対雪も気に入るだろうと思ってた」
店員に会釈している様子を見ると、一度来ただけではなく、なかなかの常連ではないかと思えるほどだ。
真田と来たときも、相当楽しかったに違いない、と雪は思った。
そこは格式ばった様子もなく、適度にカジュアルでそれでいて落ち着いた雰囲気だ。
店内は、他にリザーブと書かれた席がいくつかある他は全て埋まっていた。
テーブル席に通された古代は、上着を預け、雪の椅子を引き、まず彼女を座らせた。
「どうしちゃったの? 古代君。今日はすごく紳士に見えるわ」
「俺は、いつも紳士だよ?」
古代は上機嫌だった。雪も彼の態度につられて自然と笑顔になる。
「二十一歳おめでとう」
二人は、さっそくワイングラスを合わせ、雪の誕生日を祝った。
ワインも進み、料理に舌鼓をうち、二人はよくしゃべった。
ナイフとフォークを持ったまま熱弁をふるう古代を、雪が「お行儀が悪い」と窘めることもあった。
デザートと最後のエスプレッソまで堪能した二人は、土方との約束を守るべく、店を出た。
「ありがとう、古代君。美味しかったし、楽しかった。ごちそうさまでした」
少し酔いの回った潤んだ目で、雪は古代を見上げた。
「君の誕生日を一緒に祝えて嬉しいよ。来年も、再来年も」
「うん。ずっとこのお店でお祝いしようか? 来年の古代君の誕生日もここで」
「いいね」
今度は古代から手を差しだした。雪は躊躇わずにその手を握る。
今日の門限まではあと三時間近くある。
「少し散歩していいかな?」
古代の提案に、雪は頷いた。
「いつかみたいに地上に出たら、下りるエレベーターを探すのに手間取って大変だったから、
今夜は地下都市を散歩してみよう。地上に出ていくのも時間の問題だしな。こっちはもう見納め」
「それもいいかもね」
完全な復興まではまだまだだが、地下都市の繁華街では、クリスマスのイルミネーションが光り輝いている。
一年前は考えもできなかったことだ。
「こうやって復興していくのね」
一つの光が二つになり、十になり、やがて百になる。そうやって個々の力が大きなパワーとなって
いつの日か地上で生活できるようになるのだろう。それもそう遠くない未来に。
はた、と雪が足を止める。
「ん?」
雪が、足を止めた先は教会だった。
「クリスマス・イブ礼拝が終わったんだ」
雪に言われて、古代も教会の中を覗き込むと、中から人がぞろぞろと出てきた。
「礼拝?]
「私、信者じゃないから詳しくはないんだけど。イブの日は、信者じゃない人も大勢集まるみたい」
「ふーん」
古代は大して興味はない。そのまま通り過ぎようとして、雪に手を引っ張られた。
「な、何? 中を見たいのか?」
「きっと今日は特別な日だから、私たちだって受け入れてくださるわよ」
「いや、俺は大して興味ないんだけど……」
いいからいいから、と雪はそんな古代を引っ張って奥までずんずん進む。
「おい、いいのか? 勝手に入って」
「大丈夫よ」
雪に手を引かれ、古代は左右の窓に埋め込まれたステンドグラスをきょろきょろ見ながら祭壇前までやってきた。
「酔っ払ってるのに、罰当たらないか?」
「しいっ! 静かに」
人差し指を口元に当てて、雪は誰かに聞かれていないとあたりを見渡した。が、二人の他にだれもいない。
繋いでいた手をさっと解き、両手を前で組み、雪は何かをお願いし始めた。
手持無沙汰で、さてどうしようかと思っていた古代は、雪の横顔を見て段々と神妙な気分になって行った。
彼女が何かを祈る姿は、神々しいと感じるのだ。
ヤマトの中から、星に向かって何かを祈っていた彼女。
要塞から投げ出され、宇宙空間を漂いながら祈り続けていた姿。
あの時の彼女を思い出すと、自分も彼女以上に強い気持ちで願わずにはいられなくなる。
先ほどまでのほろ酔い気分は、どこかにすっ飛んでしまった。
古代は、何も言わずに組まれている雪の手を取った。
目を閉じていた雪は、そんな古代に驚いた。
「?」
「結婚しよう、雪」
その言葉は、古代自身、今の今まで心の奥に大事にしまっていた言葉だった。
*****
雪は一年前のデートを思い出していた。
彼と約束したのだ。来年もここで一緒に祝おうと。
しかし今年の彼は約束の時間を過ぎても、まだ来ない。
(古代君らしくないなあ)
何度目かのメールにやっと返事が来た。
『ごめん。少し遅れてるんだ。悪いけどいつものトラットリアで待ってて』
思わずはあっと溜息が出た。
雪はコートの襟を立てて、寒空の下歩き出した。手には彼へのクリスマスプレゼントを持って。
少なからずの下心もある。
去年の誕生日のデート帰りに、彼は土方への挨拶を約束してくれた。
そしてそれは実行され、晴れて後見人も公認の婚約者となった。
問題はそこからが、進まない点だ。
古代は、一つの壁を乗り越えたことに安堵して、その先を忘れているのではないか。
彼を疑うわけではないが、本音を訊きだしてみたい。
カジュアルなスーツしか持っていないと言う彼に、スーツとコートをセットで買わせた。
正月に、また土方の元を訪れようと、二人で約束をしている。その時の為に。
クリスマスプレゼントに選んだネクタイは、その時に着けてもらおうと、雪は思っている。
店に到着した雪は、奥のリザーブ席に通された。
周りはカップルで埋まっていて、かなり盛り上がっている客もいた。
コートを店員に預け、席に座ると、携帯を眺めることしかすることがなくなって
どうにも居心地が悪い。<ごめん、少し遅れるけど待ってて>彼からの返事は素っ気ないものが一通入っていた。
何度も彼にメールをするが、それ以降返事はない。
(んもうっ! 古代君たら、雪ちゃんを待たせるなんて百万年早いのよ!)
などと強がってみても、携帯はうんともすんとも反応しない。
痺れを切らした雪は、コース料理が並び始めたテーブルの前で、携帯を取りだした。
相変わらず着信もメールもなし。
仕方なく席を立ち、レストルームで電話をかける。
prrrrr、prrrrr。
七回目のコールで、やっと相手が出た。
『ハイ?』
*****
度重なる雪からの着信に、古代は満員の地下鉄の中で焦った。
右手が使えない。左内側のポケットの携帯を取り出すことも困難だ。
雪に待ち合わせに遅れると伝えなければならなかったが、今の状況ではメールも電話も難しい。
ようやくホームに降りた古代は、左手で内ポケットを探り、携帯を取りだした。
『ごめん。少し遅れてるんだ。悪いけどいつものトラットリアで待ってて』
買い物はそのあとでもいいだろう。
それまでに、フラワーショップに行って、花束を作ってもらわなくてはいけない。
古代は左手を上げて、タクシーに乗り込んだ。
彼女から『わかったわ。待っています』とメールの返事が来た。
それを見て、少し安心したせいか、古代は大事なものを車内に置いて降りてしまった。
フラワーショップに着くと、店員はすぐさま「古代様! ご用意できております」と
小さな花束を古代に見せた。
「あ、うん。ありがとう。で、悪いんだけど、一本こっちに替えて、ってあれ?」
そこで、古代はやっと気が付いた。
「さっきのタクシーで、財布を出した時だ。シートに置いて忘れてきた……」
古代は真っ青になって、花屋にそう説明をした。
「はい? 他の花に変更ですか? なら、こちらから選んでいただいて……」
「いや、それは無理なんだ。どうしよう、携帯も一緒に置いてきた……」
頭を抱える古代を気の毒に思ったのだろう。
「うちの電話をお使いになってください。予約をされているレストランで森様を呼び出されてはどうですか?」
と花屋が助け船を出してくれた。
花の事は諦めるしかなさそうだ。雪をこれ以上待たせるわけにもいかないし。
古代は、改めて十二本の花束を作ってもらい、言われた通りにレストランで雪を呼び出してもらう。
しばらく待たされた後、雪はすでに帰ったと聞かされた。
花屋は二人の行き違いを聞き、
「……そういうことなら、仕事抜きにお手伝いさせてもらいます!」と古代に言ってくれた。
レストランから訊いた話によると、雪は、落とし物を受け取りに行くと話していたそうだ。
(間違いない。雪は俺の携帯を取りに行ってくれている)
萎れた花と携帯をタクシーに忘れるだなんて、何をやっているのかと笑われそうだ。
古代は、自分の携帯にコールをする。
電話に出た運転手に、ある場所の住所を告げた。
思ったよりも遠い町まで走っていたようで、雪を乗せてそこに着くまでは一時間以上かかると古代は考えた。
(思い通りに事は運ばないんだな)
急いては事をし損じる、か。土方のそんな声が聞こえてきそうで、古代は思わず辺りを見渡した。
「古代様?」
「あ、いえ、この辺り、確かあの方のジョギングコースだったなと思って……」
「???」
「何でもないです」
腹が減っていることも忘れて、古代は一人笑うのだった。
*****
車が止まり、バタンとドアを閉める音がした。
雪を乗せたタクシーがやっと到着した。
続いてコツコツとヒールが歩く。
ガラスドアに雪のシルエットが映っている。
白と赤のコントラストが美しいワンピース姿だ。
手にはプレゼントの箱と携帯、少々萎れかけた花一輪。
ガチャリ、とドアが開く。
「古代君?」
雪の期待と不安をよそに、古代はそこにいた。
「こっちこっち!」
入り口にずっと突っ立ったままの雪に向かって古代が手を振っている。
「ウソ」
「うそじゃないよ」
「じゃあ、夢?」
古代はそこで破顔した。
「ウソでも夢でもないって! 現実!」
右手を上げかけた古代は、思いとどまって左手を軽く上げた。
「ほら。怪我はまだ治ってないし。おかげで無茶苦茶な誕生日になったな」
「ううん、そんなことない!」
雪は返事と同時に駈け出していた。
去年のデートの帰りに、立ち寄った教会だ。
イブの礼拝は終わっていて、今は静かだ。
牧師はそんな二人をにこやかに迎えてくれた。
厳かな教会内で、二人の声と足音だけが響いた。
「怪我~十三本の青い花」
礼拝堂に足を踏み入れた雪は、見知った花屋の店員の姿に驚いた。
「あれ? あなたはいつかのフラワーショップの店員さん?」
「ご無沙汰しております。森様。今日はこんな素敵なセレモニーのお手伝いができることを
とても喜んでおります。お花をお預かりしますね」
「はい?」
「婚約式、おめでとうございます。こちらは愛情、友情、 感謝、誠実、信頼、健康 、幸福、尊敬、繁栄、情熱、希望 、の意味がありまして
古代様、十三番目の意味はどういたしましょうか」
「うっ、そうだった。考えてなかった」
雪にはさっぱり意味が分からなかった。
花屋は青いバラを一本ずつ雪に手渡しながら、その花の意味を説明していた。
最後に残った一本はバラではなかった。
「すみません。こちらのお花は、古代様がどうしてもブーケにしてくださいとのお話で、
急なことだったので、こちらも十分な準備ができずにおりまして、お花の元気が……」
ビニール袋に入れられた花が何であるかは、雪も承知していた。
「ごめん、雪。手違いで一ダースのはずが十三本になっちまった」
最後の一本だけバラとは違う形状の花だった。
花屋から手渡された『碧水晶』を雪が受け取り、一つに束ねるようにしてブーケにした。
「最後のお花には、古代様から特別に『永遠』の意味を込めていると伺いました」
さあ、どうぞ。花屋が祭壇前まで進むように雪を促した。
不思議な事に、碧水晶は、雪の手の中で輝き、瞬く間に元気を取り戻した。
「えっ」
――ユキ。あなたの秘めた想いは、コダイと二人の永遠の想いになるの
どこからか、雪の大事な友人からの想いが、十六万年光年彼方から碧水晶を通して雪の耳に届いた。
雪は驚きながらも歩を進め、古代の隣に並んだ。
「古代君、ユリーシャが、おめでとうって」
「そうか。じゃあ、追加のもう一本の意味は『平和』にしよう」
牧師がブーケの中から一つを選んで、古代のポケットに挿すよう雪に告げる。
「これ、ブートニアだったの?」
ここまでして、やっと雪にはその意味が分かったようだった。
雪は迷うことなく、碧水晶を選び、古代のポケットに挿した。
「全部碧水晶にしたら、鉢に花がなくなってしまうからな。だから他はバラにしたんだ」
「そうだったのね」
目を見合わせて微笑みあう。
「これは、二人だけの婚約式。今度は碧水晶を一ダース揃えなくちゃいけない」
「ううん、私たち流に今度は十四本に増やしちゃわない?」
「それもいいな」

イラスト:ココママ様
サボテンですら、何度枯らしてしまったか。それでもこの碧水晶だけは、毎年見事に花をつけた。
雪がこの花を大切に、慈しむようにして育てているのを、古代は知っている。
古代が雪から分けて貰ったこの花を、留守中は彼女が預かって水やりをしてくれていたのだ。
「怪我しても、何をしたって君の元に戻るからな。絶対に。俺が誓えるのは、今のところそれだけだ」
「うん。必ずよ。私、待ってるから。古代君を信じてます」
すぐに連絡がなくても、メールの返事が来なくても、きっと古代は自分の元に帰ってくる。
雪も彼を信じることを誓った。
堅苦しい儀式はナシにしてとの古代からの要望で、牧師は特になにもせず二人の会話を黙って聞いていたが
ここで一つの提案をした。
「今の約束を誓うということで、記念に交換する品はお持ちではないですか?」
「……俺からはそのブーケで、君から何かある?」
「それなら、これがいい!」
雪は花屋に預けていた古代へのプレゼントの包装をペリペリと剥がし、古代の首に巻きつけた。
「右手が使えない古代君の代わりに、私が結んであげる」
レストランで待ちぼうけを食わされたことも、一向に返事がかえってこなかったことも、
今となっては小さなことだと雪には思えた。
古代は、彼女にネクタイを結ばれている間、その距離の近さに少し照れていた。
*****
「あなた、お帰りなさい。外は寒かったでしょう? 二人の様子はどうでした?」
日付が変わったころ家に戻ってきた夫を、今日子が出迎えた。
「式の予行だとか抜かしおって、古代のヤツ。よくわからんが、二人で花を数えていたぞ」
「あら、きれいなバラ。どうなさったんですか?」
「ほら、土産だ」
土方は妻に一本のバラを渡した。
古代が教えていた教会に反対しながらも出向いていた土方は、ブートニアの儀式を思い出して
やはり行ってよかったのだと目を細めた。
2014 1225 hitomi higasino
お題:yamami
古代君誕生祭企画の際に頂いたお題「怪我」を使ってみました。
お題主様、大変長らくお待たせしました;;
ココママさん、今回もありがとうございました。そしてお待たせしちゃいました;;
こんなことあるわけないよ~~~な設定ですが、そこはさらっと流してくださいねv
妄想ですから!
***
ご指摘を受けまして、変更いたしました。神父ではなく→牧師
それから、キリスト教におきまして「13」という数字はタブーだと教えていただきました。
あえてそれをゴリ押しする理由もないのですが、アクシデントがあったので、仕方なく足したら13になったということにしました。
が、本来は12本のダーズンローズを使うとの事です。
古代君と雪ちゃんが不幸になってもイケナイので;;
13本目のバラは土方さんに持って帰ってもらうというオチに変更いたしました。
ご指摘くださったお方様、ありがとうございました。
2014 1226
2201 元旦
ここは土方宅。
「……俺は賛成できかねる。何を急ぐ必要がある?」
土方は、古代から注いでもらった酒をくいっと飲み干した。
おせち料理に舌鼓を打ち、酒も少々入ったところで、古代と雪が婚約をしたと土方に報告したのだ。
結婚の約束をしたのだから、具体的に話を進めたい、と若い二人がそう思うのも当然の事。
「結婚を焦っているわけではありません。けれど自分はいつ戦場に赴くことになるのかわからない身です。
雪さんと早く家庭を持ちたいと思うことは、急ぎ過ぎなんでしょうか?」
珍しく古代は反論した。
「いや、その気持ちはよくわかる。だがな」
「古代君と支え合って生きていきたいんです」
雪にもそう言われると、土方も反対しにくくなる。
「家庭を持つということは、相手に責任を持つということだ。そこを理解しているのか」
「はい」
「わかっています」
「……そうか」
お正月からそんなしかめっ面はよしてください、と夫人は土方にいい、古代にも酒を勧めた。
「準備に時間をかけることは悪いことじゃないわよ、雪さん。土方はそう言いたいのよ」
ねえ、あなた? と今度は夫にも酒を注いだ。
憮然とした表情で酒をすする土方だが、古代からの提案にどうしたものかと心の中では思い始めていた。
*****
古代は、まさか自分が月面基地で足止めを食らう羽目になるとは思いもしなかったのだ。
予定通り雪の誕生日の前週には地球に帰還し、彼女と一年前に約束をしたレストランでデートをするはずだった。
自分では似合わないようなサプライズも仕込んでおいて。
馴染みのフラワーショップに無理を言って、彼女のために花も用意した。
さっぱりした雪の性格上、古代に無理を言って何かをねだるようなことは普段はないのだが、
彼女が時折見せる遠い目に、古代は特別な何かを贈りたいと思うようになっていた。
平和なときを二人で過ごすことが、一番の幸せだと理解していても。
油断をしていたわけではない。
予定が変わることも、想定内だ。
輸送船のトラブルもたいしたことではない。
電気系統の故障は、すぐに復旧して、わずかな遅れのまま帰還できるはずだった。
緊急着陸した月面基地で、暇をもてあましていたわけではなかったが、偶然に偶然が重なり、
新型戦闘機のテストパイロットが続けざまに飛べなくなり、その場に居合わせた古代にたまたま声がかかった。
準備もそこそこに飛び出してしまう。テスト飛行を請け負ったばかりに、右腕を骨折してしまったのは不運でしかない。
彼自身、それでもすぐに帰るつもりだったのだ。
しかし再三のテスト失敗による戦闘機の改良意見を、古代も求められた。
一日の遅延が二日になり三日になり、ついには雪との約束の前日となってしまったのだ。
入院とは言っても、古代をここに留めておくためだけのものだ。
私的な報告は禁じられ、『予定より遅れるが心配しないで』とだけ雪には伝えていたが、身動きがとれない。
帰還後さてどうするかと古代は考えていた。
*****
雪がその一報を知ったのは、司令部に出勤してからだった。
古代が乗っている護衛艦が、何らかのアクシンデントにより、地球帰還が一日遅れるというものだった。
(何があったんだろう? 古代君のことだから心配するようなことはないと思うけど)
藤堂に書類を手渡しながら、雪はモニターを食い入るように見つめている。
そこには、これから地球に帰還する艦の予定が映し出されている。
「どうした? 古代のことが気になるのか?」
いつの間にか土方が雪の後ろに立っていて、浮かない表情の彼女に声をかけた。
「あ、いえ。そんなことはありません。長官、これで全部です」
雪は、一礼をして長官室を後にした。
(明日になれば会えるから、大丈夫よね?)
雪は少しの不安と、明日になれば会えるという希望を胸に、その日の仕事をこなしていった。
何の詳しい情報も得られないまま司令部を出た雪の後姿に、元ヤマトクルーの相原が珍しく声をかけてきた。
「森さん、お疲れ様です。あの、古代さんの事、聞いてますか?」
懐かしい声に振り返った雪は、微笑むことも忘れて
「相原さん、何があったの? 教えて」と相原に詰め寄った。
「いえ、僕も詳しいことまではわからないんです。護衛艦にトラブルがあったんじゃなくて
輸送船に問題があったみたいで。それで月基地に緊急着陸したみたいです」
「あったみたいとか、したみたいとか。はっきりしないの?」
「あ、すみません。でも大きなトラブルだったら、雪さんのところにも連絡行くでしょうし。何もないってことは
大したことじゃないんですよ」
「……ならいいけど」
「予定では、明日の夕刻には帰還すると聞いてます」
「ええ。変更がなければ」
「大丈夫ですよ。古代さんの事ですから」
「そうよね。ありがとう、相原さん。実は少し心配してたんだけど、安心しました」
<帰還が遅れる>
と簡単なメッセージのみで、まさか恋人が事故に遭い、けがを負って帰れなくなっているなんて知り得もしなかった。
翌日、古代からのメッセージに気が付いた雪は、前日の予感が悪い方へと当たっていることに愕然とする。
月基地内の病院からのメッセージだ。心当たりのないアドレスからのメールを恐る恐る開く。
『入院することになって、地球帰還が少し遅れる。心配しないで。またメールする。古代』とある。
雪はすぐさま「どうしたの? 何があったの? 教えて」と返信をしたがすぐに返事が返ってくる様子はなかった。
仕方なく支度をして仕事に向かうことにする。
朝のロビーで偶然一緒になった相原に呼びかけた。
「おはようございます。相原さん! あれから何かわかった? 古代君、入院するだなんてメールを寄越したの」
「ええっ? それは聞いてないですよ。トラブルって護衛艦の事故ではなかったみたいなんですけどね」
古代の乗っていた護衛艦は、彼を乗せずに予定より一日遅れで帰還することになっていた。
******
入院することになったと聞いてからの数日を、雪は悶々として過ごした。
そして、ようやく彼からのメールが届いたのは、雪の誕生日の前日の事。
昼の休憩時のカフェテリアでだった。
『連絡できなくごめん。今到着した。大した怪我じゃないから安心して。これから佐渡先生に診てもらって
今日は帰宅する。明日は約束通り雪の誕生日を一緒に祝うから。またメールする。古代』
彼の通り一遍の報告に、雪はワナワナと肩を震わせた。
(それはあまりに他人行儀ではないの?)
怪我の為に帰還が一週間も遅れたというのなら、もうすこし詳しいことを聞きたい。
大した怪我ではないというのなら、どうして自分を寄せ付けない態度なのだろう?
古代らしいシンプルなメール文だけでは、すべては伝わらない。
メールがきたのは一時間以上前だ。
(今なら、電話して捕まえられるかも)
雪はためらうことなく、彼の番号を呼び出した。
三回コールすると、彼がでた。
「はい。古代です」
「古代君!大丈夫なの?」
雪の尋常でない大声に、古代は思わず携帯を耳から離した。
「え? メールしておいただろう? 大丈夫。心配ないよ」
「あんな短いメールだけじゃ、心配するなという方が無理よ。今は病院なの? 今日そっちに行ってもいい?」
「さっき診察してもらって今は家。今日こっちにくるの? え、と今日は、俺、疲れてるし……」
「私が行ったら、休まらない?」
「そういうわけじゃないけど……でも今日はいいよ。俺のこと心配しないで。」
彼の気遣いだろうと雪は思ったが、ここは我を通さず、明日、元気な彼と会えればいい。そう思い直した。
「そうね。それがいいかもね。わかった。今日はゆっくり休んで。明日のことも無理しないでね。連絡待ってるわ」
このとき二人は、明日が長い長い一日になるとは露にも思っていない。
****
通話を終えた後、古代の額に汗が噴く。
ただでさえ腕を吊った状態で、動き回るのも億劫だというのに。
(マズイぞ。どこから手を付けていいのか、さっぱりだ……)
雪の誕生日を祝うデートは、今年もここで、と決めた場所があった。
そこに予約は入れているが、予定が狂ってしまった。
彼女に渡す花束は、以前世話になったことがあるフラワーショップで、と決めていて
おおまかに話だけはしてあった。
(そうだ。花屋に電話して、明日取りに行く確認をして、と)
古代は大急ぎで花屋に連絡を入れる。
「あの、明日花をお願いしている古代です。明日持って行くのでその時でいいですか」
電話を切った古代は、続けて慣れない左手である場所に電話をかけた。
数か月前から、何度か連絡していた先だ。
何度かけても、無理だと断られ、最後の頼みだと直接出向いた際に、ついにはイエスと言わせたのだ。
計画の相談をする約束の日、古代はそこに出かけられないでいた。怪我をしてしまったせいだ。
約束を反故にしてしまったうえ、こんなギリギリに電話をして断られても仕方がないと半分腹をくくっていたが
先方はあっさり古代の申し出を了承した。
『そういうことならわかりました。どうぞ。お待ちしております』
「ありがとうございます!」
古代は携帯を耳に当てながら、深くお辞儀をしていた。
一通り電話を終えた古代は、ダイニングテーブルに突っ伏したい気分だ。
いや、あとひと踏ん張りだ。
雪の笑顔を見たい。自分で立てた計画だ。
彼女を喜ばせたい一心で、こうしたいと決めていた。
古代は不器用ながらも左手を使い、明日のデートの約束メールを彼女に送信した。
『明日、七時に駅の改札で待っている。雪の好きなもの買いにでかけよう』。
*****
クリスマスイブで、雪の誕生日当日。
古代にはある計画があった。その準備の為に一旦部屋に戻っている。
右手が使えないということがどれだけ不便なのか、古代は身を以って知る。
バケツに水を張った中から一輪の花を取りだして、困ってしまう。
(これ、どうやって持っていこう……)
鉢植えのままの方がよかったかもと思い直すが、片手しか自由が利かない身で
それを抱えての移動も難しい。
雪と一緒に選んだコートを用意し、スーツも出そうとして手を止めた。
(これ着ると、革靴しか合わないんだよな。あれは紐結ぶの面倒だ……。
ネクタイも無いから締まらないし。腕を骨折してるからそれも無理だけど)
「あ、いけね」
時計を見ると、出かける予定の時間を五分過ぎている。
いつもよりも時間がかかることを見越して、仕方なくジーンズを手に取った。
考えている暇もない。古代は花をコンビニ袋に突っこんで、コートの内ポケットに仕舞い込んだ。
プルプルと携帯が震えている。
――っ。
こんな時によりによって土方からだ。
土方からのプライベートな電話は、いつも緊張する。
古代は、咳払いをしてから電話にでる。
『今夜は雪と会うのだろう? よろしく頼む』
「は、はい!」
『それから、例の件だが、やはり急ぐ必要はないと俺は思う。
従って、今夜は俺たちは遠慮しておくことにした。おまえたちだけでやればいい』
古代は緊張しつつも、どこか少しほっと気が緩むのを感じた。
「わかりました。正月にきちんと挨拶と報告に伺います」
夫から無理やり携帯を奪ったとみられる土方の妻、今日子は「私たちは二人の幸せを心から願っているのよ。
それだけはわかって頂戴」と話した。
「ありがとうございます」
古代は見えない相手に向かって、再び深々とお辞儀をするのだった。
一年前の今日。楽しい時間を二人は過ごした。
甘えることが少ない雪が、目を輝かせた瞬間だった。古代はその時の事を忘れられない
****
ちょうど一年前の雪の誕生日に、二人はデートをした。
2200 12月24日
帰還して二回目の雪の誕生日。
ヤマト乗艦中よりも多忙になった古代と雪にとって、束の間の甘い時間だ。
残業続きだった雪もこの日は早めに切り上げて、待ち合わせのロビーに急ぐと
古代は、ジャケットのポケットに手をつっこみ、壁にもたれて雪を待っていた。
「ごめん、待った?」
「いや、そうでもないよ」
古代は雪に気づくと、トンと背中で壁を押して並んで歩きだした。
「何処に行くの? 急だからどのレストランも満席かも」
「うん。えっと、雪は今日は何時まで一緒に居られる?」
「今日はいつもより一時間遅くても大丈夫。おじ様と約束したの。だから日付が変わるまでに帰ればいいの」
「そうか」
いつもより一時間長く一緒に居られるというだけで、二人は幸せを感じていた。
「実は、レストランを予約した」
「古代君が?」
「俺だってそれくらいの事は出来るよ」
雪があまりに驚いたので、古代は苦笑いを浮かべる。
女性を喜ばせるような演出が、古代は得意ではないはず、と雪は思っていた。
これは誠実な彼からの思いやりだ。
「ありがとう。嬉しいな」
地下鉄の改札を抜ける頃、雪は彼の腕に自分の腕を絡ませた。
雪から素直に礼を言われると、古代だって嬉しくなる。
人目を気にして離れて歩いていたのを、彼女から腕を絡ませてきたのを合図に、古代は自ら体を寄せてみた。
古代が案内してくれたのは、司令部から地下鉄で三駅ほど行った場所にある、小さなトラットリアだった。
「可愛らしいお店ね。古代君、どうしてこんな素敵なところ知ってるの?」
古代はドアを開け、雪を先に通しながら「実は真田さんお勧めの店なんだ」と打ち明けた。
「真田さんとよく来るの?」
「一度連れてきてもらって、気に入ったんだよ。絶対雪も気に入るだろうと思ってた」
店員に会釈している様子を見ると、一度来ただけではなく、なかなかの常連ではないかと思えるほどだ。
真田と来たときも、相当楽しかったに違いない、と雪は思った。
そこは格式ばった様子もなく、適度にカジュアルでそれでいて落ち着いた雰囲気だ。
店内は、他にリザーブと書かれた席がいくつかある他は全て埋まっていた。
テーブル席に通された古代は、上着を預け、雪の椅子を引き、まず彼女を座らせた。
「どうしちゃったの? 古代君。今日はすごく紳士に見えるわ」
「俺は、いつも紳士だよ?」
古代は上機嫌だった。雪も彼の態度につられて自然と笑顔になる。
「二十一歳おめでとう」
二人は、さっそくワイングラスを合わせ、雪の誕生日を祝った。
ワインも進み、料理に舌鼓をうち、二人はよくしゃべった。
ナイフとフォークを持ったまま熱弁をふるう古代を、雪が「お行儀が悪い」と窘めることもあった。
デザートと最後のエスプレッソまで堪能した二人は、土方との約束を守るべく、店を出た。
「ありがとう、古代君。美味しかったし、楽しかった。ごちそうさまでした」
少し酔いの回った潤んだ目で、雪は古代を見上げた。
「君の誕生日を一緒に祝えて嬉しいよ。来年も、再来年も」
「うん。ずっとこのお店でお祝いしようか? 来年の古代君の誕生日もここで」
「いいね」
今度は古代から手を差しだした。雪は躊躇わずにその手を握る。
今日の門限まではあと三時間近くある。
「少し散歩していいかな?」
古代の提案に、雪は頷いた。
「いつかみたいに地上に出たら、下りるエレベーターを探すのに手間取って大変だったから、
今夜は地下都市を散歩してみよう。地上に出ていくのも時間の問題だしな。こっちはもう見納め」
「それもいいかもね」
完全な復興まではまだまだだが、地下都市の繁華街では、クリスマスのイルミネーションが光り輝いている。
一年前は考えもできなかったことだ。
「こうやって復興していくのね」
一つの光が二つになり、十になり、やがて百になる。そうやって個々の力が大きなパワーとなって
いつの日か地上で生活できるようになるのだろう。それもそう遠くない未来に。
はた、と雪が足を止める。
「ん?」
雪が、足を止めた先は教会だった。
「クリスマス・イブ礼拝が終わったんだ」
雪に言われて、古代も教会の中を覗き込むと、中から人がぞろぞろと出てきた。
「礼拝?]
「私、信者じゃないから詳しくはないんだけど。イブの日は、信者じゃない人も大勢集まるみたい」
「ふーん」
古代は大して興味はない。そのまま通り過ぎようとして、雪に手を引っ張られた。
「な、何? 中を見たいのか?」
「きっと今日は特別な日だから、私たちだって受け入れてくださるわよ」
「いや、俺は大して興味ないんだけど……」
いいからいいから、と雪はそんな古代を引っ張って奥までずんずん進む。
「おい、いいのか? 勝手に入って」
「大丈夫よ」
雪に手を引かれ、古代は左右の窓に埋め込まれたステンドグラスをきょろきょろ見ながら祭壇前までやってきた。
「酔っ払ってるのに、罰当たらないか?」
「しいっ! 静かに」
人差し指を口元に当てて、雪は誰かに聞かれていないとあたりを見渡した。が、二人の他にだれもいない。
繋いでいた手をさっと解き、両手を前で組み、雪は何かをお願いし始めた。
手持無沙汰で、さてどうしようかと思っていた古代は、雪の横顔を見て段々と神妙な気分になって行った。
彼女が何かを祈る姿は、神々しいと感じるのだ。
ヤマトの中から、星に向かって何かを祈っていた彼女。
要塞から投げ出され、宇宙空間を漂いながら祈り続けていた姿。
あの時の彼女を思い出すと、自分も彼女以上に強い気持ちで願わずにはいられなくなる。
先ほどまでのほろ酔い気分は、どこかにすっ飛んでしまった。
古代は、何も言わずに組まれている雪の手を取った。
目を閉じていた雪は、そんな古代に驚いた。
「?」
「結婚しよう、雪」
その言葉は、古代自身、今の今まで心の奥に大事にしまっていた言葉だった。
*****
雪は一年前のデートを思い出していた。
彼と約束したのだ。来年もここで一緒に祝おうと。
しかし今年の彼は約束の時間を過ぎても、まだ来ない。
(古代君らしくないなあ)
何度目かのメールにやっと返事が来た。
『ごめん。少し遅れてるんだ。悪いけどいつものトラットリアで待ってて』
思わずはあっと溜息が出た。
雪はコートの襟を立てて、寒空の下歩き出した。手には彼へのクリスマスプレゼントを持って。
少なからずの下心もある。
去年の誕生日のデート帰りに、彼は土方への挨拶を約束してくれた。
そしてそれは実行され、晴れて後見人も公認の婚約者となった。
問題はそこからが、進まない点だ。
古代は、一つの壁を乗り越えたことに安堵して、その先を忘れているのではないか。
彼を疑うわけではないが、本音を訊きだしてみたい。
カジュアルなスーツしか持っていないと言う彼に、スーツとコートをセットで買わせた。
正月に、また土方の元を訪れようと、二人で約束をしている。その時の為に。
クリスマスプレゼントに選んだネクタイは、その時に着けてもらおうと、雪は思っている。
店に到着した雪は、奥のリザーブ席に通された。
周りはカップルで埋まっていて、かなり盛り上がっている客もいた。
コートを店員に預け、席に座ると、携帯を眺めることしかすることがなくなって
どうにも居心地が悪い。<ごめん、少し遅れるけど待ってて>彼からの返事は素っ気ないものが一通入っていた。
何度も彼にメールをするが、それ以降返事はない。
(んもうっ! 古代君たら、雪ちゃんを待たせるなんて百万年早いのよ!)
などと強がってみても、携帯はうんともすんとも反応しない。
痺れを切らした雪は、コース料理が並び始めたテーブルの前で、携帯を取りだした。
相変わらず着信もメールもなし。
仕方なく席を立ち、レストルームで電話をかける。
prrrrr、prrrrr。
七回目のコールで、やっと相手が出た。
『ハイ?』
*****
度重なる雪からの着信に、古代は満員の地下鉄の中で焦った。
右手が使えない。左内側のポケットの携帯を取り出すことも困難だ。
雪に待ち合わせに遅れると伝えなければならなかったが、今の状況ではメールも電話も難しい。
ようやくホームに降りた古代は、左手で内ポケットを探り、携帯を取りだした。
『ごめん。少し遅れてるんだ。悪いけどいつものトラットリアで待ってて』
買い物はそのあとでもいいだろう。
それまでに、フラワーショップに行って、花束を作ってもらわなくてはいけない。
古代は左手を上げて、タクシーに乗り込んだ。
彼女から『わかったわ。待っています』とメールの返事が来た。
それを見て、少し安心したせいか、古代は大事なものを車内に置いて降りてしまった。
フラワーショップに着くと、店員はすぐさま「古代様! ご用意できております」と
小さな花束を古代に見せた。
「あ、うん。ありがとう。で、悪いんだけど、一本こっちに替えて、ってあれ?」
そこで、古代はやっと気が付いた。
「さっきのタクシーで、財布を出した時だ。シートに置いて忘れてきた……」
古代は真っ青になって、花屋にそう説明をした。
「はい? 他の花に変更ですか? なら、こちらから選んでいただいて……」
「いや、それは無理なんだ。どうしよう、携帯も一緒に置いてきた……」
頭を抱える古代を気の毒に思ったのだろう。
「うちの電話をお使いになってください。予約をされているレストランで森様を呼び出されてはどうですか?」
と花屋が助け船を出してくれた。
花の事は諦めるしかなさそうだ。雪をこれ以上待たせるわけにもいかないし。
古代は、改めて十二本の花束を作ってもらい、言われた通りにレストランで雪を呼び出してもらう。
しばらく待たされた後、雪はすでに帰ったと聞かされた。
花屋は二人の行き違いを聞き、
「……そういうことなら、仕事抜きにお手伝いさせてもらいます!」と古代に言ってくれた。
レストランから訊いた話によると、雪は、落とし物を受け取りに行くと話していたそうだ。
(間違いない。雪は俺の携帯を取りに行ってくれている)
萎れた花と携帯をタクシーに忘れるだなんて、何をやっているのかと笑われそうだ。
古代は、自分の携帯にコールをする。
電話に出た運転手に、ある場所の住所を告げた。
思ったよりも遠い町まで走っていたようで、雪を乗せてそこに着くまでは一時間以上かかると古代は考えた。
(思い通りに事は運ばないんだな)
急いては事をし損じる、か。土方のそんな声が聞こえてきそうで、古代は思わず辺りを見渡した。
「古代様?」
「あ、いえ、この辺り、確かあの方のジョギングコースだったなと思って……」
「???」
「何でもないです」
腹が減っていることも忘れて、古代は一人笑うのだった。
*****
車が止まり、バタンとドアを閉める音がした。
雪を乗せたタクシーがやっと到着した。
続いてコツコツとヒールが歩く。
ガラスドアに雪のシルエットが映っている。
白と赤のコントラストが美しいワンピース姿だ。
手にはプレゼントの箱と携帯、少々萎れかけた花一輪。
ガチャリ、とドアが開く。
「古代君?」
雪の期待と不安をよそに、古代はそこにいた。
「こっちこっち!」
入り口にずっと突っ立ったままの雪に向かって古代が手を振っている。
「ウソ」
「うそじゃないよ」
「じゃあ、夢?」
古代はそこで破顔した。
「ウソでも夢でもないって! 現実!」
右手を上げかけた古代は、思いとどまって左手を軽く上げた。
「ほら。怪我はまだ治ってないし。おかげで無茶苦茶な誕生日になったな」
「ううん、そんなことない!」
雪は返事と同時に駈け出していた。
去年のデートの帰りに、立ち寄った教会だ。
イブの礼拝は終わっていて、今は静かだ。
牧師はそんな二人をにこやかに迎えてくれた。
厳かな教会内で、二人の声と足音だけが響いた。
「怪我~十三本の青い花」
礼拝堂に足を踏み入れた雪は、見知った花屋の店員の姿に驚いた。
「あれ? あなたはいつかのフラワーショップの店員さん?」
「ご無沙汰しております。森様。今日はこんな素敵なセレモニーのお手伝いができることを
とても喜んでおります。お花をお預かりしますね」
「はい?」
「婚約式、おめでとうございます。こちらは愛情、友情、 感謝、誠実、信頼、健康 、幸福、尊敬、繁栄、情熱、希望 、の意味がありまして
古代様、十三番目の意味はどういたしましょうか」
「うっ、そうだった。考えてなかった」
雪にはさっぱり意味が分からなかった。
花屋は青いバラを一本ずつ雪に手渡しながら、その花の意味を説明していた。
最後に残った一本はバラではなかった。
「すみません。こちらのお花は、古代様がどうしてもブーケにしてくださいとのお話で、
急なことだったので、こちらも十分な準備ができずにおりまして、お花の元気が……」
ビニール袋に入れられた花が何であるかは、雪も承知していた。
「ごめん、雪。手違いで一ダースのはずが十三本になっちまった」
最後の一本だけバラとは違う形状の花だった。
花屋から手渡された『碧水晶』を雪が受け取り、一つに束ねるようにしてブーケにした。
「最後のお花には、古代様から特別に『永遠』の意味を込めていると伺いました」
さあ、どうぞ。花屋が祭壇前まで進むように雪を促した。
不思議な事に、碧水晶は、雪の手の中で輝き、瞬く間に元気を取り戻した。
「えっ」
――ユキ。あなたの秘めた想いは、コダイと二人の永遠の想いになるの
どこからか、雪の大事な友人からの想いが、十六万年光年彼方から碧水晶を通して雪の耳に届いた。
雪は驚きながらも歩を進め、古代の隣に並んだ。
「古代君、ユリーシャが、おめでとうって」
「そうか。じゃあ、追加のもう一本の意味は『平和』にしよう」
牧師がブーケの中から一つを選んで、古代のポケットに挿すよう雪に告げる。
「これ、ブートニアだったの?」
ここまでして、やっと雪にはその意味が分かったようだった。
雪は迷うことなく、碧水晶を選び、古代のポケットに挿した。
「全部碧水晶にしたら、鉢に花がなくなってしまうからな。だから他はバラにしたんだ」
「そうだったのね」
目を見合わせて微笑みあう。
「これは、二人だけの婚約式。今度は碧水晶を一ダース揃えなくちゃいけない」
「ううん、私たち流に今度は十四本に増やしちゃわない?」
「それもいいな」

イラスト:ココママ様
サボテンですら、何度枯らしてしまったか。それでもこの碧水晶だけは、毎年見事に花をつけた。
雪がこの花を大切に、慈しむようにして育てているのを、古代は知っている。
古代が雪から分けて貰ったこの花を、留守中は彼女が預かって水やりをしてくれていたのだ。
「怪我しても、何をしたって君の元に戻るからな。絶対に。俺が誓えるのは、今のところそれだけだ」
「うん。必ずよ。私、待ってるから。古代君を信じてます」
すぐに連絡がなくても、メールの返事が来なくても、きっと古代は自分の元に帰ってくる。
雪も彼を信じることを誓った。
堅苦しい儀式はナシにしてとの古代からの要望で、牧師は特になにもせず二人の会話を黙って聞いていたが
ここで一つの提案をした。
「今の約束を誓うということで、記念に交換する品はお持ちではないですか?」
「……俺からはそのブーケで、君から何かある?」
「それなら、これがいい!」
雪は花屋に預けていた古代へのプレゼントの包装をペリペリと剥がし、古代の首に巻きつけた。
「右手が使えない古代君の代わりに、私が結んであげる」
レストランで待ちぼうけを食わされたことも、一向に返事がかえってこなかったことも、
今となっては小さなことだと雪には思えた。
古代は、彼女にネクタイを結ばれている間、その距離の近さに少し照れていた。
*****
「あなた、お帰りなさい。外は寒かったでしょう? 二人の様子はどうでした?」
日付が変わったころ家に戻ってきた夫を、今日子が出迎えた。
「式の予行だとか抜かしおって、古代のヤツ。よくわからんが、二人で花を数えていたぞ」
「あら、きれいなバラ。どうなさったんですか?」
「ほら、土産だ」
土方は妻に一本のバラを渡した。
古代が教えていた教会に反対しながらも出向いていた土方は、ブートニアの儀式を思い出して
やはり行ってよかったのだと目を細めた。
2014 1225 hitomi higasino
お題:yamami
古代君誕生祭企画の際に頂いたお題「怪我」を使ってみました。
お題主様、大変長らくお待たせしました;;
ココママさん、今回もありがとうございました。そしてお待たせしちゃいました;;
こんなことあるわけないよ~~~な設定ですが、そこはさらっと流してくださいねv
妄想ですから!
***
ご指摘を受けまして、変更いたしました。神父ではなく→牧師
それから、キリスト教におきまして「13」という数字はタブーだと教えていただきました。
あえてそれをゴリ押しする理由もないのですが、アクシデントがあったので、仕方なく足したら13になったということにしました。
が、本来は12本のダーズンローズを使うとの事です。
古代君と雪ちゃんが不幸になってもイケナイので;;
13本目のバラは土方さんに持って帰ってもらうというオチに変更いたしました。
ご指摘くださったお方様、ありがとうございました。
2014 1226
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プロフィール

管理人 ひがしのひとみ
ヤマト2199に30数年ぶりにド嵌りしました。ほとんど古代くんと雪のSSです
こちらは宇宙戦艦ヤマト2199のファンサイトです。関係各社さまとは一切関係ございません。扱っているものはすべて個人の妄想による二次作品です。この意味がご理解いただける方のみ、お楽しみください。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。
また当サイトにある作品は、頂いたものも含めてすべて持ち出し禁止です。