「追憶は未だ遠く」


やっぱり似ている…と思う。



地球に戻ってから、古代さんは軍の中枢を担う仕事に就き、私たち航空隊と一緒に仕事をすることはめっきり少なくなった。
地球で航空隊の管理職的な仕事をしている隊長はまだ会う機会もあったようだけれど、私や篠原のように月面基地に配属されてしまうと、古代さんが月に来るときに会えるかどうかだ。

最後にきちんと会ったのは…一昨年のクリスマス、古代さんの結婚式かもしれない。
それも会ったというか…見ていたというか…

「久しぶりだな、山本」
新しい艦載機のテストのために真田副長と加藤隊長と月にやってきた古代さんは相変わらずの笑顔を
見せる。
ヤマトにいた頃より、兄さんに年齢も近くなっているせいか、ますます似てきているように思う。

ビーメラから古代さんが戻ってきて、抱きついてきた雪さんを、戸惑いながら抱きしめていたのを見たときに「やっぱり、そうなんだ…」と諦めた…つもりだった。

雪さんが攫われて、感情をなくしてしまったかのように仕事に打ち込む古代さんに声をかけることもできなくて、自分の立場をわきまえた…つもりだった。

無謀にもゼロ一機で雪さんを助けに行こうとした古代さんの姿に、「必ず雪さんを助け出して!」と心の底から二人の幸せを祈った…つもりだった。

昏睡状態から冷めた雪さんの肩を抱く古代さんの笑顔に、「今度こそ終わりだ」と自分の気持ちに決着を付けた…つもりだった。


それなのに、何年たっても「山本」とまっすぐにこちらを見て微笑まれると、「やっぱり兄さんに似ている…」と思って、胸の奥がドキドキしてしまうのだ。

ぼーっと古代さんの顔を見つめてしまっていた私に「山本?どうかしたのか?」と戸惑う古代さん。
おまえ、まだ~と苦虫をかみつぶしたような顔をしている隊長。


そして。
「ますます色男になったんで見とれていたんじゃないすか? な?」
と篠原がからかうように私の背中を叩いた。
「そ、そんなんじゃないわよっ、兄さんに…」
つい、うっかり口を滑らせてしまった。

「兄さん?」と不思議そうな古代さん。
隊長と篠原も改めて古代さんを見つめ、それからぼそぼそと「確かに前より似てるかも…」とか話している。
「兄さん? 山本のお兄さんか?」
と優しい顔で古代さんは私を見た。
うっ…どうしよう。今まで古代さんには、兄さんに似ているなんて話はしたことがないのよ! 戦死した人に似ているとか失礼なような気もして。
「知らなかったんですか? 古代さん、明生に似ているんですよ。そっくりというわけじゃないけど…同じ路線の顔w」
篠原がおちゃらけた感じで古代さんに言うと、古代さんは少し照れくさそうに笑った。
「そうだったのか。昔から山本、時々俺の顔をじーっと見ているときがあるなぁとは思っていたんだ。でも、俺じゃなくて…遠くを見ている感じがしたから」






その夜、月にいる元隼隊のメンバーと、隊長、古代さんとで飲みに行った。
最近、子どもが産まれたばかりの古代さんは沢村達にからかわれながら、幸せそうな笑顔を浮かべる。
隊長との親バカトークも炸裂だ。
二人とも百戦錬磨のパイロットとは思えない、目尻を下げきったメロメロの表情で子どものことを楽しそうに話す。真琴さんや雪さんに向ける顔とも全く違うように感じる。



なんか…あんな顔見たくなかったな…


複雑な気持ちでグラスを傾けていると、
「渋い顔しちゃって」と篠原が隣に座ってきた。
「あきらめついた?」
「なんのこと?」 
「古代さんのこと」
あきらめる? あきらめるとかそういう次元の話ではない気がする。
結婚式に参列したとき、正直、寂しいような気もしたけれど、雪さんに対する嫉妬とかそういう気持ちはまるで無かった。
古代さんに感じていた恋心みたいなものはとっくの昔に昇華できていると思う。
今も…父親の顔を見せる古代さんが知らない人みたいで戸惑っているだけだ。


でも、いつもいつも…真っ正面から向き合うとドキドキしてしまうのだけが止まらない。
古代さんの口から何か言ってもらえるのではないかと期待して。
何か…? 何かってなんだろう?
好きだって言ってもらえるはずがないのはよくわかっているのに。


「そうか。そうだな。古代さんじゃないか。明生のこと…あきらめついた?」
ビックリして篠原の顔を見る。兄さんのこと…?
兄さんの事なんてとっくにあきらめて…


本当にあきらめていたのだろうか?
兄さんの死を自分で受け入れられないうちに古代さんと出会って。
古代さんを見ていると兄さんが生きて戻ってきたみたいで。
古代さんの顔を見るたびに兄さんの顔が重なっていた。何年たっても…



「私、古代さんはどうして私の気持ちに気付いてくれなかったんだろう、とずっと思っていた。最初に好きになったのは雪さんじゃなくて私の方なのにって。でも、さっき古代さんに言われた通りだよね。私…最初から古代さんのことを見ていなかった。古代さんに…気持ちを気付いてもらえなくても仕方がなかったんだ」

「そうだな。」

「…自分の気持ちを伝えて、きちんと振られなかったから、いつまでたっても顔を見るたびにドキドキするのかと思っていた。」



でも、違っていたのね。
私は…古代さんに…いいえ、兄さんに「ただいま、玲」と言ってもらいたかったんだ…


「それでもさ…ヤマトの中では、きちんと古代さんに恋しているように見えていたよ…」
涙がこぼれそうな私の頭をポンポンと優しく叩いて篠原が言った。
「だって、俺、ずっとやきもち焼いていたから。あの人に」






珍しいくらいに大きな笑い声が聞こえてくる。加藤さんと古代さんの子ども自慢はますますエキサイトしているようだ。


「…私、姪っ子か甥っ子ができても喜べなかったかも…」
「それは“古代さん”だからだろ? 自分と血が繋がっていると思えば可愛いぜ~、甥っ子姪っ子」
「…そうか。やっぱり古代さんは兄さんにはなれないってことね」


出会って何年もたっているのに。
今頃、兄さんを追い求めていただけと気が付くなんて。
何やっていたんだろう、私…


「え~、俺の方が何やっているんだ、なんだけど?」
篠原がニヤニヤしながら私を見た。
「おまえのブラコンにずっと付き合っているんだぜ?」


…なんか腹立つ。
気が付いていたなら、私に「古代さんは明生じゃない」って言ってくれても良かったんじゃない?
そうしたら、何年も無駄にしないで済んだのに。


「そういうことは、自分で気が付かないと意味がないんだよ」

やっぱりムカつく。
篠原の方が私よりずっと大人で…私のことを理解してくれている。






翌日、古代さんは一仕事終えるとニコニコしながら地球に帰るコールをし、さっさと帰って行った。


「…なんか、兄さんに似ていると思っていたのは思い込みだったのかも」
「そうかぁ? 明生も結婚して子どもでもできたらあんな感じだと思うぜ。普段クールだったけど、惚れた女には熱…」
「惚れた女…?」

しまった、という顔を篠原はした。


ま、いいわ。兄さんにだって私の知らなかったそんな幸せがあってもいい。

「篠原、今度の休み、一緒に兄さんのお墓参りに付き合ってよ」
「おっ、その誘いは初めてだね。」
「…私の知らなかった兄さんの話も聞かせて」
「そのリクエストも初めてだな」
篠原は目を細めて優しく笑った。
「いいよ、幻滅するかもよ?」


その日から私はやっと兄さんの思い出を追うことができるようになった。








夢見月*お題はこちらでお借りしております




<あとがき>
玲ちゃん、2199ではやたらと古代くんへの想いを引っ張られていたので、それをちょっと書いてみました。
個人的に、玲は古代くんを本当に好きだったようにはあまり見えなかったので…(恋心ゼロとまでは思いませんが)
一応、篠さんとは付き合っている設定です。
篠さんは何でもわかっている大人ってことで(^^;


2015 0702 ☆まりこ-K☆


◇◇◇
まりこ-KさまからもSSが届きました。
玲の古代君へ恋情ってこんな想いだと、私も思います。
それを、陰から(この人、見た目はチャラ男なのに、男らしいんですよね)支える篠さんってイイオトコですv
お兄さんへの想いから覚めてしまえば、目の前には本物が待っててくれるのだから、玲も幸せモンですよねv
ヤマトを降りて何年かな?
今でも「篠原」呼びって、いいなあ~。
それにしても篠さんて、なんて忍耐強い人なんだw

素敵な作品をありがとうございました。

hitomi higasino




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