きらきら輝いて


肩からダッフルバッグを下ろして、荷を解き始めた手に触れた、小さく薄っぺらな硬いものを、いの一番に太田は取りだした。
カメラの中には、この十か月自分と共に旅をしてきたクルーの姿や、異星の地での束の間の休息が収められている。
ヤマトの功績を、自慢げに話すつもりはなかったが、自分の経験を、家族と分かち合いたい願いは健二郎の内にあった。
あとで、家族に見せようと、彼はバッグの中から取り出したカメラを、無造作に食卓の横に置いた。

帰還したヤマトのクルー達は、少なからずの休暇を得た。
彼は、今、実家のある大阪に戻っている。
両親と妹は、残り少なくなっていた食料をかき集めて、健二郎の生還を心から喜んだ。


穴倉の生活は、健二郎が、ヤマトで地球を発った十か月前よりも酷くなっている。
食べるのがやっとだと言うのだ。
暗闇にうっすら灯したろうそくの光に浮かび上がった家族は、すっかりやせ細ってしまっていた。



「お母さん、アレ、健二郎の大好物、置いとったよなあ?」
「もちろん。この日の為に取って置いてあります」

さばの煮つけ。

何があってもこれには手を出さずに、健二郎が帰ってきてから、食卓に出す。
太田の父は、母と決めていたのだ。
願を掛けていたと言ってもいい。
息子の無事を願うことしか出来ない自分たちは、彼が地球に帰ってきたら、そうしようと決めていた。



最後の一缶を、父は躊躇うことなく開けた。
ガスコンロで直に温める。すると香ばしい香りが部屋に充満した。
「お兄ちゃん、今日はごちそうやで」
妹も母もにこにこして健二郎を見る。
「ああ、ほんまや」


ヤマトの中では、平時は温かい食事にありつけていた。
だから、缶やパウチされたものを、そのまま口にすることは少なかった。

「健二郎、どうや。こんな美味いもん、ヤマトの中にはなかったやろ。熱いうちに、はよ食え」

「うん、ありがとう……」

――俺はいいから、皆で分けてや。
その言葉を健二郎は呑み込んだ。

缶の中から、箸で器用に一つまみして頬ぼる兄に、妹が「おいしい?」と訊く。
「んっ、美味い!」
健二郎は、そういったまま無言になる。
いつまでも柔らかいさばを咀嚼し続けるのは不自然だったが、父も母も、ただ笑って見守っていた。


(まだなんや。俺はやり遂げたと思い込んでたけど、全然まだや)


さばの身が、ガスの炎に揺らめいてみらきらと輝いたように健二郎には思えた。






お題サイトさまからお借りしたタイトルです。
夢見月*
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2015 0607 hitomi higasino




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