地球を見上げるクルーたち。
雪は古代にもたれかけ、古代は雪の肩を優しく抱き寄せている。
時々見詰め合い、交わす言葉もないのに微笑みあって。
周りのクルーにしてみれば当てられっぱなしである。




あ、っと雪がよろけた。
体力はまだ回復していないのだ。
「雪、大丈夫か?」咄嗟に手をとり引き寄せる古代に、雪ははにかみながら「大丈夫」と告げる。
そういえば腹も減る頃ではないか??

「医務室に行こうか?腹減ってるなら、食堂で何かもらってこようか?」
「そういえば、お腹も空いてきちゃった」
「じゃあ、先に医務室。あとで食堂コースだな。俺が責任もって連れていくから」

古代は、雪に向かい合うとぱっと両手を広げた。
「やだ、古代君」
流石の雪も周りを気にして、手で顔を覆った。首まで真っ赤になっている。

「まだ長い距離は歩くと疲れるだろ?いいから。来いって」
「いいんじゃないの?森君。古代に抱いて行ってもらえば?」
横から島がからかうと、
「イチャイチャは向こうでやれよ!」
と南部はふくれっ面でしっしと手で払う振りをする。
「雪さん、お姫様だっこしてもらったらいいですよ? 太田さーん、写真、写真♪」
百合亜はノリノリで太田を呼ぶ。

「違うんですからね! こ、これは、運んでもらうだけなんだから!」

渋々古代の首に腕を回し、抱き上げられる雪。
しかし口元は緩みっぱなしで、幸せ一杯という表情。
古代の方も、そんな雪を心から愛おしそうに見つめ、雪しか目に入らないといった雰囲気だ。

カメラを構えた太田が「ハイ、撮りますよ」と合図を送ったのに
二人には聞こえていないようだった。

「さっさと行ってこいよ。こっちはお前たち抜きでなんとか回せるからな」
航海長は操舵桿を握ったまま、後ろを振り返らずに二人に告げる。
「じゃ、お言葉に甘えて。行こうか?雪」
「うん……」
雪は古代の胸に顔を埋めて頷いた。


最早二人の世界に何人も入り込む隙はない。
二人が艦橋を後にしてからも、辺りには甘ったるい空気が充満したままだった。


二人がエレベーターに乗り込だのと同時に、再び地球からの通信が入った。

「……ご苦労だった」
「ところで、先の通信の途中で森雪の安否について尋ねたのだが、どうなっているのだ?」
艦橋にいない真田、古代の代わりに島がそれを受けて答える。
「森船務長は今は回復しています。後程詳しく報告いたします」
「うむ。頼んだぞ」
それを聞いて、あきらかに安堵の様子を見せる土方。うっすら目に涙を浮かべているように見えた。


士官学校時代の教官としての土方をよく知ってるだけに、島も苦笑いするしかない。
(鬼の目にも泪か)
「あいつも、前途多難だなあ」
誰の事とは言わず、隣の席の北野にウィンクしてみせる島だった。
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