『雪。君の覚悟も全部僕が引き受ける。いや引き受けたいんだ。できるかどうかまだわからないけど』

『結婚しよう』





「あっ……」
彼のはにかんだ笑顔が眩しくて、私は言葉を失った。
(だって!!! そんな……っ。ウソ!嘘でしょ?ウソ、ウソ!?)
今、なんて言ったの?


目覚めたら、古代君が私を抱いていて、それで、キスを交わして。
好きだと伝え合って。なんども抱き合ってキスをした。
それだけでも夢のようなのに。どうしたの?この展開はなに??

鼓動が早くなっていく。彼の突然のプロポーズに、どう返事してよいかわからず、気ばかり焦って
私ときたら、水面に顔を出した金魚のように口だけをパクパクと動かしていた。


彼も恥ずかしいのか、視線を外している。
私は目を大きく見開いて、彼の視線を追った。
「あの、古代君……」「うん」
なんて言ったの?と問いかけようとした時、無情にもエレベーターの扉が開いた。
私と古代君は、一瞬見つめあい、頷き合った。
暗黙のうちに、<続きは、あとで>と確認しあうかのように。

第一艦橋には、間近に迫った地球を一目見ようとするクルー達が集まっていた。
真っ先に気が付いた相原は、古代に抱かれた雪を見て、驚きの声をあげた。
その声に釣られて、次々とクルーの面々が古代と雪の周りを取り囲んだ。
古代の腕から降ろされて、雪は彼の隣に立った。
彼がやさしく肩を抱いていてくれる。ふらつきがちな雪をしっかりとその腕で支えてくれていた。

「よく帰ってきたね」
「お帰りなさい!」
「森船務長のご帰還を、歓迎いたします!」
皆の歓迎ぶりに、雪は胸を熱くした。







先ほどの彼の言葉が、耳の奥で何度も木霊した。





「Here With Me」





ドアが閉まる。
再びここはエレベーターの中。

一目地球を見ようと、雪を連れて第一艦橋に出向いた古代が
クルー達からの熱烈な歓迎を受けて、少し疲れた彼女を医務室に届ける為に降下中である。

古代は雪を横抱きにし、点滅する数字を無意識に眺めている。
相変わらず優しい笑顔を自分に向けてくれる古代だが、言葉数が減ったような気がする。

雪は首を傾げ、彼に尋ねた。

「古代君?」
「あっ。な、なに?」
と明らかに狼狽えている古代。

「さっきから静かだよね? やっぱり私、重いんでしょ?」
「そんな事ないよ。全然っ! 」
あはは、と笑って見せる口元が僅かに引きつっている。

第一艦橋に来るまでのエレベーターの中で、彼は同じように緊張して、それで……。
(そうだった。いきなりプロポーズされたんだ、私)
彼の突拍子もないプロポーズに、彼自身戸惑っていたように思えて
雪もまたどう返事してよいか考えあぐねていたのだ。
先ほどの告白にしても、雪が感じていた事と違うと思うところもある。
(なかった事にしたいのじゃないかしら? さっきのプロポーズ……)


「ねえ、古代君」
「な、何?? 」
「出会いは最悪だったってところ、あれはないんじゃない?? 考え方が違うのじゃなくて
あれは古代君が一方的に私を無視したからでしょ? だから私あの頃ツンケンしていたんだわ」
「は、はあ。そうか……」
「それに、私のこと買被りすぎてるところもあるのかも。だって、私、古代君が他の子と仲良くしてるところ
見て、嫉妬した事だってある。子どもっぽいところがあるの」
「君が嫉妬? 俺は他の子と仲良くなんかしてないよ」
雪に気圧されて、古代はたじたじとなる。
雪は古代の腕の中で、首を振る。
「それにいつも前向きなのは、あなたの方よ。私、古代君に教えられてばかりなの」

驚くことに、古代が自分の一方的な告白だとばかり思っていた”独白”は
しっかりと彼女の耳に届いていた。

「そっか」
古代は雪の想いをそっくりそのまま受け取って、赤くなった。
けれど、彼女は不安でもあったのだ。
こんな自分でもいいのかと。

「だから、ね、さっきの話なんだけど……」
「あ、あのさ、さっきの、返事は、まだ先でいいよ」
「え?」
「ケッ、結婚しようって、話」
「……、私、驚いてしまって……」
「そんなに急ぐこともないし。大事なことだもんな。焦る必要ない」
「古代君」
「そうだよな。まだお互い若いし。すぐじゃなくていいんだ」
「うん……」

そう言ってはみたものの。

古代は古代で、自分の言葉と、それに頷いた雪に落胆した。
雪を抱く腕からわずかに力が抜け、嘆息する。

雪は雪で、古代のあと一押しする言葉がなくて内心がっかりした。
彼の胸に顔を埋めてしまいそうになったが、気を取り直して顔を上げる。



「地球に帰ったら」
「?」
「デートしよ! 私、古代君のこともっと知りたい」
見上げてくる雪の柔らかな眼差しにつられて、古代も微笑み返した。
「ああ。僕だって雪の事、もっともっと知りたいよ」
「うん。たくさん会って、たくさん話しようね」
「わかった。約束だ」
「うん、約束よ!」

二人は、鼻先が触れるくらいに顔を近づけあった。
本日四度目のキス直前で、雪が告げる。




「一年後にもう一度、さっきと同じ言葉を言って。その時ならちゃんと答えられるわ」




――了解。



古代の言葉は、キスとともに雪の唇の中で溶けて行った。







2へ

続きます

2013 1114 hitomi higasino
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